第19話
部屋に戻った綾乃は考えていた。
次世代通信システムとは何なのか。
ただの通信の大容量化の線は外しても構わないであろう。それならばあんなにも頑なに秘密にする理由が分からない。たとえ軍と警察の関係が微妙なものであったとしてもだ。
西園寺家の家業、西園寺工業は120年前まで宇宙産業から鉛筆まで手掛ける企業であったそうだが、徐々に人工知能関連分野に軸足を移し、現在は日本国内の人工知能ビジネスをほぼ一手に引き受けている企業である。
西園寺工業の実権は創業家である西園寺一族が握っており、安全保障上の理由で国外の人工知能メーカーからの納入ができずに独占状態である西園寺工業とその一族は、歴代政権と極めて強い結びつきを持っている。
「人工知能がらみであることは確実ね」
人工知能といっても色々ある。綾乃が最もよく知っている人口知能は広域特殊犯罪対策課を含めた警察の主要セクションが導入している基幹システムである。
基幹システムは実際に発生した事件や事故、街の監視ネットワークの情報などを集約して統計処理を施すことで次に犯罪が起きやすい場所を推定することのできる人工知能の一種であり西園寺家が納品している。このAIは犯罪が起きる場所を推測すると同時に、警察が犯罪の発生場所を探知していることがばれないように開示する情報を選んでいるといわれている。
性質上機密レベルが高く、公安警察省内部でも幹部レベルでしか存在を知られていない。
「なるほど」
警察に納品されているAIの特徴を思い出しているうちに綾乃の中で一つの結論に達した。
「作戦行動中に敵の動きを解析して暗号解読がされないように暗号の変更をするのを最適化するAIか!」
この答えは父親や不自然に秘密主義をとった理由が説明できなかったが、綾乃が寝付くために必要ためにはこの程度で充分であった。
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