第17話
公安警察省本部の最上階で国家公安委員会の会合が開かれていたころ、71階の広域特殊犯罪対策課にあるとある会議室では別の会合が持たれていた。
集まっていたのは第2係係長の朝霞、第3係係長の西園寺綾乃、課長の村井の3人であった。当然、綾乃以外は代理人である。というか綾乃は警察に入ってから同僚の代理人としか会っていない。本人に警察官としてのスキルがあるのか、また本人が実在しているのか怪しいと感じ始めていた。
「全国の現地警察184統轄署のうち138署から回答が来た。結論を言うとそのうち84署で同様の特徴を持った事件が発生しているという。いずれも窃盗などで緊急性が薄いということで報告はなされなかったようだ。各署には今後同様の事件が発生した場合速やかに通報するように求めた」
綾乃も他の警察署管内で同様の事件が発生しているとは思っていた。だからこそ、各署への照会を依頼したのだがまさか100件以上も発生しているとは思っていなかったのである。
「何か事件の発生場所や発生時間に特徴はないのでしょうか?」
重苦しい空気を破ったのは朝霞1係長であった。
「発生場所を精査すればマスクの活動条件の制約を見つけられるかもしれません」
「それについては基幹システムが作業に入っている。しかし、電波の線は除外して考えたほうがいいかもしれない。鑑識の報告によるとあの仮面には極めて高性能の通信アンテナがついていて、さらに軍用通信システムの一部をハッキングして利用する能力を持たせる改造が行われている可能性もあるようだ」
「何ですって?!」
綾乃は思わず椅子から立ち上がっていた。
「どうしたんだい?西園寺君」
「それは、軍用通信をハッキングできるというのは本当ですか?」
「そういえば、君の父上は国防大臣だったね。ハッキングができると決まったわけではない、。ただ、軍用通信専用の周波数帯に発進可能な無線機が搭載されていたんだ。基盤のほうは焼けてしまっていたので詳しくは何も分からない。この見解は鑑識のものだが、協力してもらっている梓氏も同じ見解だ」
「それを父は、いえ国防省は知っているのですか?」
「伝統的に警察権力と軍は微妙な緊張関係に置かれている」
「それがどうしたんですか?」
「まだ確証はないのだ。不確かな情報を渡して後で笑いものにされるわけにはいかない」
課長の発した言葉は、表情のない仮面と相まって空虚な響きを持った。
「課長、その見解は課長本人のものですか?それとも課長の代理人の見解ですか?」
課長の付けたマスク越しに動揺が感じられた。同じ動揺は朝霞のほうからも感じられた。
綾乃は自らの失言に気づいた。世間的には失言でも何でもないただの事実であっても良識ある人物にとっては失言になることもある。
「失礼しました。警察組織としての理屈は理解いたします。ですがことは安全保障にかかわります。国防大臣に、大臣の娘として軍のネットワークにバックドアが設置されている可能性について警告させてもらいます」
警察が捜査内で得た情報を公職にあるとはいえ家族に伝えることは、綾乃達キャピタルに与えられた独自行動の権利としては極めて微妙な線であったが、綾乃に躊躇はなかった。
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