第16話
公安警察省本部ビル最上階は一つの会議室のみで構成されている。
その会議室の存在理由もまたただ一つであり、国内では最高レベルのセキュリティで保護されている。
その会議室では国家公安委員会の会合が開かれており、国家公安委員会は国内すべての警察、軍事警察、諜報機関を総括している。
「では広域特殊犯罪対策課から上げられた国際刑事機構への照会を了承するということでよろしいでしょうか?」
控えめながら見る人が見れば着ている人物を直視できなくなるようなドレスを身にまとった女性が居並ぶ人物に問いかけた。
この女性を含めてマスクをつけた人物は誰もいない。そして誰もが健康的な体格を華美になりすぎない最高級の衣服で包んでいる。
「しかし、外務省を通さずに照会を行ってもよろしいのですかな?」
「確かに気分は害されますでしょうが、彼らに何ができるというのですか?」
「おっしゃる通りだ。気など使ってやる必要ははなから無い」
「だが、問題はこちらの御仁だな」
メンバーの一人がそういうと、会議室の視線が一人に集まった。
「客を放っておくとはなかなか興味深い歓迎ですな」
「これは失礼いたしました、普段客人などいないものですから。会長」
会議のテーブルにはつかずに椅子を引いて座っていたのは、国内最大のファンドを運営する会社の会長であった。個人でも相当の資産を持っていると噂されている。
「このような制度を揺るがしかねない事態が発生しているにも関わらず、我々が異変を察知して連絡差し上げるまで何も言ってこなかった件について説明をいただきたいのだが」
「残念ながら会長。一民間人に警察内部の捜査情報を漏らすわけにはいきませんので」
すでに警察権力の中枢である会議室に招き入れておきながらこの言い分は相当無理があったが、会長が気に留めた様子はなかった。
「いいでしょう。我々も独自に行動をとる。よろしいですね?」
会議室は先ほどまでの他省庁を小ばかにしていた時の気安さとは打って変わった静けさに包まれていた。
謀略が渦巻く政界にもまれてきた国家公安委員会の委員にとって、この「よろしいですね」は額面通りにとれる言葉ではなかった。メンバーはおのずと自然に定まっていた力関係に沿った目線を向けあった。
そして、会議室でもっとも力を持っている件の女性は、自らに判断が委ねられたことを確認してゆっくりと口を開いた。
「わかりました。関係部署には私のほうから口添えいたします」
「感謝します。天野崎委員」
会長はその女性に向かって深々と一礼して部屋の出入り口まで向かった。
「神崎委員長、本日はお招きいただきありがとうございました」
今度は一番上座に座る長老の男性に軽く会釈をして部屋を出て行った。
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