第14話

「こちらは梓精密工業の開発部長代行の梓琢さんです。マスクの専門家として捜査に協力してもらえることになりました」

「そう。マスクの専門家か」

 天野はつまらなそうに言った。捜査に部外者がかかわるのが面白くないのかもしれない。

「じゃあ、このマスクについて教えてもらおうじゃないか」

「構いませんよ。このマスクはうちで製造したものを改造したものですね。特徴としては優れた通信能力とカスタムの自由度です」

「自由を奪うマスクに自由度を設けるとは皮肉だな」

 天野の言葉には棘があったが、琢は気にせずに続けた。

「マスクの使用者の方も被使用者も様々な需要を抱えていますから。着け心地を追求する方もいれば、双方向の通信能力や情報表示能力を高めるカスタムを行う方もいます。弊社では、そのような方々に向けてカスタムを行う業務も行っているのですが、ある程度技術力を持つお客様方からカスタムを前提とした機種を求める声がありまして…」

「ああ、分かったから。営業はそこまででいいよ」

 天野がうんざりした声でそういった。

 綾乃はマスクについてそこまで詳しくないので、もう少し話を聞きたい気持ちもあったが、確かに捜査には関係しなそうであったのであきらめることにした。

「そのマスクの通信能力は、人ひとりの動きを完全に指示するのに十分な容量はあるのか?」

 それでも仕方なく、といった口調で天野が発した問いかけに琢ははっきりと答えた。

「そのデータにセキュリティ処理を施して送受信できるだけの容量があります」

「あんたの会社がこんな余計な製品作るから苦労してんだよ」

 天野のこの発言は独り言だったのかもしれない。しかし、それに答えた琢の言葉は天野を怒らせるのには十分なものだった。

「このマスクを開発したのは僕です」

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