第12話

『よかろう』

 琢が捜査に加わることは電話で課長に問い合わせたとたん、あっさりと認められた。

 綾乃はキャピタル構成家の一員としてあらゆる決断を独自に行う権限が与えられているが、その権限のそれなりに多い例外の一つが国家機密へのアクセス権拡大に関するものであった。

 独自の決断が認められないのは課長も同様のはずであったが、あっさり認められたところをみると事前に根回しがしてあったのかもしれない。

「とんだ茶番ね」

 電話を切った綾乃はまず琢にそう言った。

「誤解だよ」

 琢はさわやかに否定をする。

「まあいいわ。認められた以上あなたは私たちのチームメイトよ。徹底的に協力してもらうわ」

「じゃあ、さっそくこのマスクの現物の調査を行おう。連れて行ってくれる?」


 「では」と綾乃が言いかけた時、ついさっき課長に電話をかけた端末が呼び出し音を発した。

 さては、捜査参加許可の取り消しか条件付与か、と勘繰り一度了承した内容を変更するのは心苦しいなと思いながら電話に応じた綾乃が受けた連絡は全く別のものだった。

「何が起きたんだ?」

 急に表情が引き締まった綾乃に琢が不審な顔を向ける。

「怖れていたことが起きたわ。代理人による殺人事件よ。犯人は逃走中。でも監視カメラに映った犯人の付けていたマスクは問題のマスクと類似した特徴を備えていた」

「場所は?」

「ここからだと遠いけど、本部から行くよりは近い。急ぐわよ」

「現地警察に任せればいいじゃないか!」

 綾乃は呆れた顔で振り返り、しかし誰もが知っていることではないと悟りうんざりした。

「知らないようだから教えるけど。一般の警察官はキャピタルとその代理人の権利を侵害することはできないの、たとえ現行犯でも」

 一呼吸分の沈黙の後、琢はつぶやいた。

「歪んでいやがる」

 その声には実感がこもっているように感じた。


 現場に駆け付けた綾乃と琢は現場で現地警察から事情を聴いていた。

「すみません、街のセキュリティシステムを動員して追跡はしていたのですが逃がしてしまいました」

「システムが手薄な場所を狙われたんですか?」

 綾乃の質問は逃走経路を絞り込めるかもしれないと考えてのものだった。しかし。

「いえ、セキュリティシステムに死角はありませんでした」

「サイバー攻撃でかく乱されたんですね?」

 そう言ったのはついてきていた琢だった。

「見たところこの町のセキュリティシステムは比較的安価な監視端末を大量に配備することで死角をなくしている。そして、そのような安価な端末はサンバー攻撃の進入路になりやすい」

 現地警察の、おそらくセキュリティシステムの担当者は顔を伏せて琢の推測を聞いていた。その沈黙は琢の推測が正しいことを雄弁に物語っていた。

「そうです。でも、サイバー攻撃への備えがなかったわけではありません。常にプログラムには自動のスキャンプログラムが走っており、以上を感知すれば3秒以内に物理的に外部と遮断して待機状態に置かれている予備のサーバーにシステムが切り替わるように作られています。でも」

「でも?」

「その3秒で見失いました」

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