第10話
「共有した資料は先日検挙に動いた犯罪組織、ブール―オーシャンに関して、先ほど情報解析部門から上がった報告書だ。先日採取した各種サンプルの調査結果も出ている。
ブルーオーシャンは3年前より急速に勢力を拡大した違法薬物の製造輸送販売を手掛ける犯罪組織だ。合法薬品メーカーとのつながりをほのめかすデータも出ている。
そして、先日の戦闘で建物の自爆に巻き込まれたブルーオーシャン側の人間は重度の薬物依存状態にあったとみられている」
「つまり、廃人化した顧客や構成員を始末するためにあの現場を使ったと?」
「そう考えるのが妥当だろう。構成員全員が依存状態にある可能性も捨てきれんが」
天野の指摘に課長が慎重に応える。
「でも、薬物依存症患者にしては亜鞍馬のマスクに記録されていた戦闘ログの敵の動きは訓練されたものだった」
「その通り、そこでこれを見てくれ」
課長が背後に用意してあったワゴンから持ち出したのは袋に入った黒いマスクだった。
「これは、犯人たちがつけていたものですね」
「ああ、見た目は一般的な代理人マスクだが、かなり特殊な機能を有している」
そういいながら、課長はマスクを裏返して見せた。
綾乃以外の職員がうめき声に近い感嘆の声を上げる。
おそらく、通常のものと明らかな違いがあったのだろう、と思いつつ綾乃はマスクの裏面を眺めた。
綾乃は代理人マスクを手に取ってみたことはなく、当然裏側の構造など知らなかった。
「鑑識部門の報告では、このマスクは人間の脊髄から割り込みをかけ、意思とは関係なく体を動かすことができるらしい」
「そんな、非人道的です!」
そう叫んだのは綾乃であった。
「人は自分の選択で生きるべきです!そんな、機械に強制されて動くなんて許すべきではありません!」
「西園寺係長、落ち着きなさい」
課長が無感情にたしなめる。
「この事件、私に追わせてください!絶対に捕らえます」
「落ち着け!」
「ですが天野さん」
「そういうが係長。機械に判断を強制されるのと、経済的な立場を利用して代理人として行動を強制させられることの間にどんな違いがあるっていうんだ?」
「天野君。言い過ぎだ」
「申し訳ありません、課長」
「人手不足の昨今だ。当面我が課はこの事件の専従となる。指揮は私がとる」
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