第6話

「何が起きているんですか?亜鞍馬さん、応答してください」

 倒壊したビルの前では現在消防当局による消火活動が行われており、綾乃は3係とともに移動に使ったVTOLまで後退していた。

「係長」

 静かに話しかけてくる天野を目で牽制しつつ綾乃はなおも無線機に語り掛け続ける。

「係長、無駄です」

「なぜそんなことを言うんですか?」

「亜鞍馬さんの戦術は知っています。彼は下から順番にフロアを制圧するセオリー通りの戦い方をする。あのタイミングでのビルの倒壊に巻き込まれていないとは考えられません」

 天野は、算数の答えでも述べるように淡々と述べた。

「何でですか?なんでそんなに冷たく仲間の死を受け入れられるんですか?」

「係長はあいつらを仲間といえるだけの交流がありましたか?」

 綾乃は天野をにらみつけた、ほかの係員に対してもにらみつけた。

 しかし、そのにらみは長くは続かなかった。

 仮面の中の感情はうかがうことができない。

「配属初日にこんなことになったのは不運ということにしておきましょう。帰りますよ、係長」

 天野は一方的に話を切り上げてVTOLに乗り込もうとした。係員も後に続く。

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