第7話

『で?どうするの?私を警察に突き出す?』

 洋子は銀色の灰皿を取り出し、煙草を揉み消して言った。

『同じことを繰り返させるなよ。俺はただの私立探偵だ。客から頼まれた依頼を遂行すればそれでしまいだ。あんたらがどこで何をしてようが、関係ないことなんでね』

 俺はコートのポケットから、例の『頼まれもの』を出してカウンターの上に置いた。

『こいつをあんたに渡しておく。依頼人はその手紙の人物だ。その男のもう一つの依頼は、あんたが何故姿を消したか、その訳を聞いてくれ・・・・というものだったんだが?』

俺は言葉を切り、彼女に答えを促した。

暫く黙って、瓶からもう一杯注ぎ、呑み干してから、また煙草に火を点けた。

『ホントはね、彼を騙して色んな情報を聞き出そうと思ってたのよ。そうすれば何かと便利でしょ?でもね。あの人を見てたら、段々気の毒に思えてきただけ。』

『情にほだされた。ってわけかね?』

 彼女からの答えはなかった。

 煙草を深く吸い込み、煙をまた吐いた。

『そうかもしれないし、そうでもないかもしれない・・・・どっちみち、あの人に私みたいな女は相応しくなかった。ただそう思っただけよ。悪いんだけどさ・・・・彼にはそれだけ言っといて頂戴』

煙草に火を点け、グラスに酒を注ぎ・・・・彼女は同じ動作を何度も繰り返した。

『俺は仕事には忠実なんだ。ウソはつかない。ありのままを伝えるだけだ』

『そう、ならそれでもいいわ。私もウソは嫌いだから』

それを口にした時、もう彼女はしたたかに酔っていた。

俺は片手にぶら下げていた拳銃をカウンターの上に置き、彼女に背を向け、その店を出た。

俺の背後から、低く、かすれたような声で、何か異国の歌が聞こえてきた。



東京に戻った俺は、クマを呼び出して報告書を渡した。

勿論ウソは書いていない。

この目で見たこと、聞いたことをありのままに書き、そして報告した。

しかし、彼は思ったほど落胆はしなかった。

『なるほどね・・・・そんなことだと思ってました』

彼はそう答え、俺に、

『ご苦労様でした』と、報酬の入った封筒を渡してくれた。

『あれから、彼女から手紙が来ましたよ』

彼は寂しそうだが、ちょっと嬉しそうに答えた。

住所は書いていなかったが、明かに彼女の字だった。

(私の事をそんなに思っていてくれたなんて嬉しい。でも探偵さんからも聞いた通り、私は貴方が思っているような女じゃない。貴方を騙そうとした悪い女なのだ。お願いだからもう忘れて、幸せになってくれ)

そう書かれてあり、ま『追伸』として、

(指輪は思い出として有難く受け取っておく。一生大切にするから)とも書き添えてあった。

 その後、彼は警官としての仕事に一層励み、恋人も出来て、来春には結婚もするという。

え?

(お前としてはこれで良かったのか?)って?

いいも悪いもない。

俺は探偵、これが俺の仕事なんだからな。


                            終わり

*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては作者の想像の産物であります。











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ファントム・レディーと朝食を 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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