第6話

『ナンだ・・・・ヤス・・・・ドウシタ?』

止まり木から立ち上がった男は、俺と俺を脅した奴の顔を交互に見比べて言った。

『へ、へぇ・・・・実は・・・・』

 俺は上着の内ポケットから探偵免許とバッジ(さっき子分の方から取り返した)を引っ張り出して奴に突き付けた。

『タ・・・・探偵?』

『こいつがボスの実家の辺りを嗅ぎまわっていやがったんで・・・・』

奴はちらっと、カウンターの向こうの女を見た。

『遠山洋子さん・・・そう呼んでも構わないよな?』俺はデブを無視して女に声をかけた。

彼女は俺の言葉には答えず、カウンターの下から煙草の箱を取り出して一本咥えて火を点けた。

『安心しろよ。俺は別にあんたらをどうこうしようとは思っちゃいない。ただ、お客からの依頼を実行しにきただけでね』

『オイ!イイカゲンナ事ヲ言ウナヨ!」デブが俺に詰め寄ろうとした。

 俺は掴んでいた男の腕を放し、奴から奪い取ったオートマティックを突き付けた。

『拳銃の腕には自信がある方だけどな・・・・それもモノ次第だ。俺はオートはどうもあまり使い慣れてないんでね。ヘタすると変なところに弾が飛ぶかもしれんぞ』

俺はハンマーに指をかけてゆっくり起こした。

拳銃を天井に向け、一発発射する。

鈍い音が部屋中に轟き、きな臭い火薬の匂いが俺の耳までジンジンさせた。

(耳栓をせずに撃つもんじゃないな)

俺がそう思っていると、

『待ちな!』彼女・・・・つまりは『洋子』がが声を挙げた。

 きりっとした、有無を言わさぬという響きだった。

『ア、姉御・・・・・』

『いいから、ここはアタシに任しておきなよ』

 彼女の言葉に、三人の男たちは大人しく従って、店から出て行った。

『なんか呑むかい?』

俺が拳銃をカウンターに置き、止まり木に腰を下ろすと、彼女は言った。

『悪いが、俺は仕事中は呑まないようにしてるんだ』

 彼女は黙ってグラスを取り出し、咥え煙草のまま、後ろの棚から『ワイルドターキー』を取り、グラスに注いで勝手に一杯呑んだ。

『悪気はないのよ。ただこのところみんな気が立っててね。ごめんなさい』

煙草の煙を吐き出しながら、彼女は少しはすまなそうに言った。

『名探偵さんならもうお分かりでしょう?私達、日本人じゃないの。国は・・・・それは言わずにおくわ。どうせ調べりゃすぐにわかるでしょうから。』

彼女は煙草を灰皿でもみ消すと、もう一つグラスを出して酒を注ぎ、ぐっと呑んだ。

『まあ、簡単に言えばシンジケート・・・・組織なの。

人に言えないようなこと、何でもしてきたわ・・・・故国(くに)じゃやってけないから、日本にやって来たのよ。ちょうど父親の代だった。父は必死になって、怖い人たちとシノギを削って作り上げてきた・・・・それを私が継いだのよ。人に言えないようなことは何でもしてきたわ・・・・悪いことならなんでもね。』

酒が入って饒舌になったのか、聞きもしないのにべらべらと喋った。





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