第5話
(まずったな・・・・)俺は心の中で舌打ちをしていた。
拳銃をもってこなかったのである。
たかが人探しとあなどったのを、今更ながらに後悔した。
四人は一人が拳銃を持っているだけで、他は大した武器を持っているわけではない。
その一人が俺に拳銃を突き付け、近くの河原までひっ立てていった。
時刻はちょうど午後四時になろうとしていた。
田舎町とはいえ、他に人がいなかったわけじゃないが、俺たちを見ても誰も手を貸そうとはしなかった。
(それにしてもこの連中・・・・)と、俺は思った。
妙な訛りがある。ここらの方言ともまたちょっと違うような、そう、外国人が覚えたての日本語を無理に喋っているという、そんな感じだった。
そういえばクマも、
(洋子にも何だかおかしな訛りがあった)
と言っていたな。
俺を河原に連れ出すと、一人が俺の身体を探り、ポケットから探偵免許とバッジのホルダーを引っ張り出した。
拳銃を持っている男に、それを渡す。
『なんだ。お前、探偵か?』
『・・・・・』俺は黙って、銃口を背中に感じながら頷いた。
『だったら答えろ。何を調べてた』
『許可証を見たろ?プロの探偵が依頼内容をべらべら喋ると思うか?』
『じゃ、喋らせてやる』
奴は他の三人に合図をする。
すると全員で一斉に俺に殴りかかってきた。
俺は腰をかがめ、奴らの攻撃から出来る限り庇いながら、河原の石を纏めて手に握りこみ、ズボンのポケットに突っ込んだ。
『まだ喋らねぇか・・・・じゃ、仕方ねぇな・・・・』銃口を俺の顔に向ける。
今だ!
俺はポケットに入れた石を、奴の顔にめがけて投げた。
一斉に石を喰らって、銃口が逸れた。
次の瞬間には、俺は奴の腕をつかんで捻じり上げ、拳銃を奪い取ってこめかみに当てていた。
『動くなよ・・・・動けばこいつの頭が吹っ飛ぶぜ。さあ、今度はこっちが聞く番だ。お前らは何者で、何で俺を襲った?』
数十分後、俺と、奴ら四人を乗せたワゴン車は、その町一番の繁華街の一角にある雑居ビルの前に止まった。
俺はボス格らしき男から奪い取った拳銃を突き付け、ビルの階段を昇った。
後の一人も俺の後を渋々ながらついてくる。
階段を昇り切ったところに、いかにも『怪しげでござい』という雰囲気の、
(会員制クラブ、ブラックウィドー)
という看板の出たドアがあった。
俺は後ろから奴の頭を銃口をつきつけ、合図をした。
ドアの真ん中にあったボタンを押す。
『誰だ?』
中から声がする。
『お、俺です・・・・』
奴が答えると、ドアがきしみながら開いた。
店の中は普通のバーかクラブの作りになっていたが、イヤに薄暗く、間接照明しかなかった。
隅にあったカウンターには、坊主頭の、趣味のよくないスーツを着た男が座っており、その向こう側にはこちらも同様に趣味のよくない、ケバケバしいドレスを着た女が立って、こっちを見ていた。
しかし、こういった店には似つかわしくなく、色白で、化粧は濃くない。ヘアースタイルも地味で、どこか田舎臭い雰囲気が感じられた。
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