第2話
彼女とは、まだ警務隊にいた頃、あるお見合いパーティーで知り合ったという。
元々おくてで、あんまり女性と縁のない生活を送っていた彼に、先輩が気を利かせて誘ってくれたのだという。
会費は5000円、時間は2時間、その間に好みの女性と話をして、上手くゆけば一対一でデートも出来るというわけだ。
あんまり知られていないが、自衛官はそうしたパーティーが結構開かれる。
昔の軍隊じゃないんだから、今はWAC(女性自衛官)もいるにはいるが、余程のエリートならともかく、同じ隊内にいても、女性と話をすることなんかまずあまりない。
特に熊谷(面倒だから『クマ』と呼ぶことにする)の部署だった警務隊は、昔は女性はほんのわずかしかいなかったため、猶更だった。
しかもクマは、おくてで口下手ときているから、こっちから声をかける機会など、放っておけばまず永遠にないだろう。
自衛官もそりゃいい年になってくれば結婚だって考えねばならない。
そこで先輩が気を利かせてくれたというわけである。
女性は50人ほど来ていたという。
しかし、お世辞にもさほどの美人はいなかった。
大抵は行き遅れのお局様とか、学校の先生(教師と自衛官は愛称はあまりよくないと思っていたのだが、中には例外もあるらしい)ばかりだった。
先輩の伝手もあまりあてにはならなかったが、しかし文句を言うほどえり好みもできない。
クマはそう思って、その中の幾人かに思い切って声をかけてみたものの、彼の性格故、どうもぎくしゃくして上手くゆかなかった。
焦っていると、声をかけてきたのが『彼女』だった。
名札には『遠山洋子』とあった。
地味な紺色のスーツに細い銀縁の眼鏡。髪型は肩の辺りできちんとカットしていた。
化粧も服装と同じくらい地味だった。
だが、クマはそんなところに惹かれ、その後二人で空いている椅子に腰かけて話を始めた。
年齢は35歳、食品会社で経理の仕事をしているという。
その年まで独身だったのは、幼い時に両親に死に別れたため、年の離れた妹二人を養うために、がむしゃらに働いてきたからだという。
趣味はせいぜい映画を観に行くことくらい、後は読書。主にヨーロッパと日本文学が好きだという。
『何故自分に声をかけたか?』と問いかけてみると、
『何となく気になる人だったから』と、控えめな口調で答えた。
『一目あったその日から・・・・』
なんて謳い文句が昔あったが、この時が正にそれだったと、クマは俺に言った。
その日から遠山洋子とデートをしたり、お互いのアドレスや電話番号を交換し、連絡を取り合うようになった。
これまでとは違った世界が開けたような、そんな気がしたと、クマは目を輝かせ、普段の彼には似合わぬ、身振り手振りを交えて、熱く俺に語った。
デートを重ね、そして、
『それ以上の関係』になるのにも、さほどの時間を要さなかった。
クマは勿論その時が初体験、しかし彼女はバージンではなかった。
何でも20歳になったばかりの頃、たった一度だけ男性と付き合った時に肉体関係になったのだという。
しかしその男性とは、
『求めているものが余りにも違い過ぎた』ため、それっきり別れてしまったのだそうだ。
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