ファントム・レディーと朝食を
冷門 風之助
第1話
昔の職場の同僚と再会するのは、嬉しくもあり、またあまり嬉しくもなかったりする。
殊にそれが仕事上となると猶更である。
昨日のことだ。かつての俺の職場・・・・即ち『陸上自衛隊』であるが・・・・その時の同僚の一人から電話があった。
俺が除隊をして、もう十年以上になるが、同僚と顔を合わせたのは、これで二度目である。
同僚・・・・とはいっても、彼の場合は前に話した小野寺二等陸尉と違って、特別親しかったわけでもない。
陸上自衛隊元三等陸曹、熊谷隼人。真面目を絵に描いたような男だが、制服を脱ぐと、本当にごく平凡な、どこにでもいるような男だ。
俺が入隊した翌年に入ってきた、いわば一年後輩というわけだ。
その彼も、現在は除隊して、なんと警察官をやっているという。
まあ、分からんでもない。
彼の家は親父さん、そして祖父さんと、代々警察官の家に生まれ、親戚も殆どが警官だった。
当然ながら彼も警官になるものと、周囲も皆思っていたらしかったのだが、彼だけは何故か二度試験に落ちた。
そして二次志望にしていた自衛官の試験を受けたところ、こちらは一発で合格したのだ。
俺とは他の数名と共に同室になった。
格別仲が良かったというわけでもないのだが、それでもどうしたものか、何かにつけて良く話をした。
しかしそんな熊(俺は彼をそう呼んでいた)とも、俺が士長(陸士長)に上がり、空挺(習志野第一空挺団)への転属希望が通ってから、ぱったりと会わなくなった。
久しぶりに再会した時、俺は三曹(三等陸曹)になり、空挺レンジャーに合格した時、訓練展示(つまりは訓練を市民に公開する)の時、彼が基地の警備に応援として派遣されてきていた。
何と彼は警務隊(自衛隊の警察、昔で言えば憲兵)になっていたのである。
元々警官志望だった彼としては、うってつけの部署だったんだろう。
それから連絡先を交換して、休暇の時、何度か酒を呑みに行ったりした。
しかし、その後俺は除隊し、今の稼業に入ってから、さっぱり連絡が来なくなった。
その彼が、まさか本当の警官になっているとは、思いもしなかった。
『結構なことじゃないか。昔の夢を叶えたんだから』
電話の翌日、面映ゆげな表情で事務所に訪ねてきた彼に言った。
熊谷三曹・・・・いや、現在は警視庁〇〇市の地域課の巡査部長氏だ・・・・は、ソファに坐ると、両手をテーブルについて、モノも言わずに頭を下げた。
『お願いします!先輩!相談に乗って下さい!』
『頭を上げてくれ。昔は昔、今は今だ。仮にも警察の巡査部長氏が、たかだか私立探偵風情に頭をさげることもあるまい。まさか拳銃でも無くしたとかいうんじゃあるまいな?』
そんな話だったら、わざわざここにはこない。彼はそういって、そこでやっとコーヒーカップをとり、一口啜った。
『この女性を探してくれませんか?』
熊谷はそういって、一枚の写真を取り出した。
そこに写っていたのは、なんていうことのない、平凡な顔立ちをした女性だった。
年齢は凡そ35~6歳といったところだろうか?化粧っ気もほとんどなく、格別美人というわけでも、さりとて不美人というわけでもない。
『今から、7~8年位前の写真です。当時37歳と言ってましたから、もう40代半ばは過ぎている筈です。』
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