6 cats 「and リリース」
「あ、おかえり……、その子どうしたの?」
「どうしたの……って捕獲しに行かせたんじゃないのか?」
「え? 捕まえて来たの? マジで?」
どういう意味だ? と葉介は釈然としない顔つきで威嚇音が発せられる捕獲器を置く。
「車もないのに、どうやって連れて帰ってきたの?」
捕獲器ごと背中に縛り付けてバイクで戻ってきた事を話す。
「へー、でも危険だからもう絶対やらないでね」
「お前がやらせたんじゃないか」
思わず声を上げる葉介をまあまあと窘める。
「でもすごいじゃない。ホントに捕まえてくるなんて」
無理だと思って行かせたのか? と若干顔を引きつらせる葉介に真央はバツが悪い顔をする。
「ほら、人足りないから。緊急性のない案件はどうしても後回しになるのよね。でもあんまり待たせても悪いじゃない」
聞きようによっては形だけ人を派遣して、やるだけやらせてまた後日行くつもりだったようにも取れるが……、と訝しむ葉介に「めっそーもない」と笑って応える。
「でもオヤツも猫缶も持たせなかったのに、自腹で買ったんなら経費として出すけど」
「いや、直接手で捕まえた」
「人馴れしてた?」
周囲を激しく威嚇し、近づく者に猫パンチを放つ姿からはあまり想像できないが、突然ケージに押し込められて知らない人に囲まれたら、怯えて攻撃的にもなるだろう。
「ま、まあな。人を怖がってはいなかった……かな」
まあ運が良かった、と付け加える葉介にご苦労さんと皆で労う。
「あれ?」
捕獲器を覗き込んでいた真央が声を上げた。
「この子サクラ耳入ってるよ」
サクラ耳? と疑問符を頭の上に乗っける葉介に、
「ほら、耳の先が小さくV字型にカットされてるでしょ。これはもう去勢済みって印よ」
よく見ると確かに右耳の先端が欠けている。
「右をカットするのがオス。メスは左よ。地域によって違う事もあるけどね」
手術済みを表す耳の印は他にもピアスやイレズミ、糸を結ぶ等がある。
ピアスや糸などは外れてしまう事もあるし、イレズミも汚れと区別しにくかったりと確実ではない。
なので多くの団体は、耳に切り込みを入れるV字カットを採用している。
「未去勢だから来てほしいって依頼だったんだけどねー。色々な人が面倒見てる事もあるから、依頼者の知らないうちに他の人がやったんだね」
こういう時に印が無いと二度手術をしてしまったり、無意味に捕まえて怖がらせてしまったりする。
葉介が臨時の手伝いだった為、捕獲して嫌な目に遭わせてしまったが本来ならその手間も負担も防ぐ事が出来た。
「虐待とか言われる事もあるけど、外にいる猫は印が無いと余計可哀想な事になっちゃうかもしれないのよ」
へーと感心する葉介の肩に真央は手を置く。
「この子はリリース。じゃ、元の場所に戻してきて」
「…………え?」
一瞬何を言われたのか分からず固まっている間に、真央は言葉を重ねる。
「あそーだ。捕獲器じゃ連れてけないね。このキャリー貸してあげる。これでバイクで運べるでしょ。やったー、私ってやさしー」
無意味にテンションを上げ、忙しい忙しいと早足に去って行った。
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