4 cats 「トライアル」

 譲渡の段取りには大きくトライアルと本譲渡に分かれる。

 譲渡会で見染めた猫がいても、その場で連れて帰れるわけではない。

 最低でもそこから一週間後。

 その間に保護主は書類を用意し、猫の健康状態を管理して体調を整え、譲渡先にはケージなどを用意してもらう。

 そして譲渡日、猫を送り届ける際に家の間取りを確認する。

 間取りの確認に難色を示す人も多いが、中には初めて猫を飼う人もいる。

 脱走の危険や事故に対しての知識が足りないと、猫にも人にも辛い結果になってしまう。

 それは誰も望まない。

 そしてどのくらい経験があるのかなど判断できないため、一律同じ規定を通す。

 確認と言っても主に猫の生活圏内。

 ケージは適切か。外へ出る危険はないか。危険な物がないかなどで、プライバシーに踏み込む事はない。

 一通り確認が済むと契約書を交わす。

 押印し、既定の料金の支払い。

 金額は団体によっても違うが、大体は去勢避妊手術と既定の初期治療――ワクチンや駆虫剤などの薬代一回分。

 つまり普通に猫を拾ってきても必要になる金額である場合が多い。

 加えて移送にかかる交通費。車の場合は高速代の負担などの手数料。

 注意事項を説明し、トライアル開始となる。

「これ、今までこの子にあげていたご飯です。始めのうちはどんなご飯がいいのか分からないかもしれませんから」

「まあ、ありがとう」

「では、この子の事をよろしくお願いします」

 挨拶し、早速ケージで寛いでいる茶トラにも手を振って真央達は帰路に着く。

「でも代表。今日って捕獲の予定じゃなかったんですか?」

「あー、大丈夫大丈夫。代わりをやってるから」

 真央は乾いた笑いを浮かべながら頭の後ろで手を組む。

「もともとあいつの口添えなんだから。そのくらいやってくんなきゃ」

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