2 cats 「譲渡会」
譲渡会。
保護した猫や譲り受けた猫、はたまた保護猫から産まれた子猫まで。
彼等が新しい家族を探す為のお見合いの場。
ホームページの紹介を見て会いに来る人もいれば、会場で一目惚れする人もいる。
出会いは縁。
この子に素敵な出会いがありますように、みな新しい家族の下で幸せになれますようにと願いを込めて、ボランティアの人達が力を尽くしている。
ここ都心から少し離れた会場も、猫に理解ある人が格安で提供してくれているものだ。
通りにノボリを立て、可愛い猫のイラストを描いた立て看板を置く。
会場内は所狭しと猫のケージで埋め尽くされ、家族として迎え入れる為に来た人達でひしめき合う。
多い時は外で待ち行列ができる事もあるが、早い時間は比較的空いていた。
その開始とほとんど同じ時間。
入場の準備に間に合うか――という時刻に、あまりこの場に似つかわしくない男が一人やってきた。
受付で名乗り、まだ少し準備があるんだけど――と言われつつも中に案内される。
「あっ、来てくれたんだ」
真央はやってきた男、葉介を見て声を上げる。
「えーっと……、猫飼さん?」
「犬飼だ」
そうそう、と笑いながら真央はさっそく茶トラのいる奥へと案内した。
茶トラは葉介の姿を認めると懐っこい声を上げる。
「この子人には慣れてるんだけど、他の猫とは相性が悪いみたいでねー」
早く新しい家族を見つけてあげたい、と話す。
「譲渡会は初めて?」
真央の問いに葉介は短く肯定する。
「ゆっくり見てって頂戴。人が増えてくるまでなら」
葉介は会場内を見回す。
消臭剤と動物の入り混じった独特の匂いの中、猫達が入れられたケージが積み上げられている。
ケージには仮に付けられている名前や性格などが書かれたプレートが張り付けられていた。
緊張して縮こまる猫もいれば、出せーとケージを引っ掻く猫、丸くなって寝ている猫まで。様子もまちまちだ。
葉介は同じく保護された顔見知りの猫にも挨拶すると、他の保護猫のケージも値踏みするように見て歩く。
ケージの一つに子猫が二匹、丸くなって寝ていたが、葉介が前に立つとのそりと起き上がり、ちょこんと並んで葉介に向き直った。
やや茶色がかったパステル調なふわふわの毛をした子猫達は、申し合わせたように並んで小首をかしげるようにして葉介を見る。
プレートには姉妹猫と書いてある。
葉介が指を出すと匂いを嗅ぎ、指に頬を摺り寄せてきた。
その隣は少し大きめの猫が二匹。
葉介が覗き込むと、三毛猫は耳を後ろに倒し、これ以上ないくらいに牙を剥き出して威嚇する。
顔を近づけようとすると、三毛猫は派手な音を立ててケージを叩いた。
下敷きになったグレーの猫は、上の騒ぎもなんのそのという様子で熟睡している。
その後も葉介は会場内を回って一通りの猫を見ていった。
「どう?」
会場の様子を見回っていた真央が葉介に声をかける。
葉介は普段からあまり感情を表に出さないようなタイプに見えたが、心なし不機嫌なようにも見えた。
「まるで奴隷市だな」
ん? と真央の眉根が寄る。
「この子達は自分の境遇をよくわかっている。少しでもいい子にして見せて貰われようと努力してる子。今の状況から変わる事を恐れてる子。見ていて痛ましい」
葉介が見る先にいる猫は、葉介の顔を真っ直ぐに見つめて小さく鳴き声を上げる。
「これじゃ檻に入れて並べられた商品だ」
「商品って……、あんまりね。私達は猫を愛護動物だと考えてるわよ」
「愛護動物って、結局は動物だろ。ペットショップと何が違うんだ」
「わ、私達は譲渡会に出られない子を雑に扱ったりしないわ! たとえ病気でも、助からない状態でも、最期まで諦めずに介護してるのよ。ペットショップみたいに、使い物にならない子をアッサリ処分したり、絶対にしない」
「そういうペットショップもあるってだけだろ。全部じゃない。扱いの酷い保護団体だって探せば絶対あるだろ」
真央はむきぃーっ、と声に出して言うと、
「もう込む時間だから! 帰ってちょうだい!」
と怒鳴って奥へと引っ込んで行った。
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