第36話 こう見えて体育会系は苦手である。
「うわあ、物々しい」
アジトに一番近いという港町に着いてまず一言目にそんな言葉が飛び出した。だって仕方ない。港の規模に不釣り合いな軍艦が何隻も停泊し、王国軍らしき人々が忙しなく動いているのだから。
というかこう見ると護衛隊のあの艦はこの国の軍の中ではまだまだ可愛らしく、装飾にも気を使っていたのがよく分かった。
要人の護送にも使われることがあるというそれは船の知識がない俺から見ても優美な印象を受けたが、今目の前にある艦はなんというか……その……。
「ゴツゴツしてるでしょう?」
「ほわっ」
突然声をかけられて肩が跳ねる。警戒しながら振り返ると見覚えのあるエルフの女性が。
「ヴェーチェルさん」
その名を呼ぶとうふふ、と口元に手を当てて上品に微笑まれる。側にいたスズメさんがフッと遠い目になったが大丈夫だろうか。取り敢えずランと二人でお久しぶりです、と挨拶をする。
「貴女がいるということはもしかして護衛隊も関わっているんですか?」
ランが首をこてんとさせて聞くと彼女はいいえ、と口角を上げた。
「今回は本隊への出張です。私も一部隊の指揮を任されていますので、皆さんは私のところにいらしてくださいな」
事情は分かっております、とそれとなくスズメさんの腰に手を回して頼もしく言うがスズメさんの顔からは完全に表情が抜け落ちている。悟りを開いたかのようだ。
それにしても、スズメさんがヴェーチェルさんに話を通してくれたという事なら、何故そんな顔になるのだろう。仲がいいのではないのか。
はて、と首を傾げるとランが何も考えなくていいよ、とこれまた悟ったような顔で言うので思考を止めた。頭のいい彼の忠告は聞いておいた方がいいのは体験済だ。
「わざわざありがとうございます」
頭を下げて示された艦へ向かう。出発までまだ時間はあるが無理を言って連れて行ってもらうのだ、兵士の人たちに挨拶はきちんとしておくべきである。
「ア、アタシも挨拶を……」
スズメさんが言うのが聞こえたがすぐにヴェーチェルさんに何か言われてぐう、といううめき声がした。振り返ろうとしたがまたランに制された。何故だ。
「おー、君が例の!」
「ワケは聞いてるぞ!」
「俺もこんな兄が欲しかった!」
艦に着いて早々に兵士たちに囲まれる。どうやら歓迎されているらしい。らしい、のは分かるのだが……。
ムチィ……。ムチィ……。
(筋肉の)圧が凄い! 何なんだコレ!? ダルマなのか!? 筋肉ダルマなのか!?(失礼)
「きょ、恐縮です……」
愛想笑いを浮かべてなんとか声を捻り出した俺をよそにランは秒で逃げやがった。ちくしょう覚えとけよ。
「妹の為ならば仕方あるまい! 行くだけでなく存分に暴れるといい!」
「上には誤魔化しておくからな!」
「やだ凄い協力的……」
若干(いやかなり)体育会系のノリなのが慣れないが心強い味方を得られてよかった。彼らがそう言ってくれるのなら多少海賊や奴隷商人をぶん殴っても怒られないだろう。
「そして君はかなりの手練と聞いている! いやあ頼もしい!」
バンバン
「おっふ……。恐れ入ります……」
でもやっぱりこのノリは少し苦手(八ツ橋に包んだ表現)だ。背中痛いし。
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