第37話 吹っ切れた
「ハハハッ! 流石だなぁ!」
「誠に恐れ入りまぁっす!」
出港してから数時間後、海賊と奴隷商人の合同アジトにて。
俺はちゃっかり体育会系に混ざって雪華を振るっていた。
いやあ、海賊がわんさか湧いてくるね! 的には困らないね!
「死ねぇぇぇ!」
迫りくる刃を身体を捻って避ける。パニックになっているせいか雑くてガタガタな動きの相手はその勢いで前のめりになり、転びかけるもたたらを踏んで留まった。が、そのガラ空きな背中を柄を握ったままの手で叩きつけるようにして殴る。手で殴る、と言うよりも柄を背骨にクリーンヒットさせている気分だ。
「がはっ!」
「うおらあああっ!」
「せいっ!」
「ぐぼあっ!?」
今度は峰打ち。とはいえ全力で振ったからボキボキ、という人体から聞こえたらいけないような音が聞こえたが無視無視。
「妹を……出せェェェ!!!」
誤魔化しの為に借りた軍服のジャケットの裾が動く度にバッサバサはためく。
沈めた海賊たちは後ろから付いてきている非戦闘部隊が縛り上げていっているらしい。正直戦闘部隊の近くよりも非戦闘部隊の近くからの方が悲鳴が多い気がするのは気のせいか。ヴェーチェルさん、スズメさん、ランがそこに居るから終わったら聞いてみようか。
それにしても、しれっと部隊に混ざり込んでいても見て見ぬふりをしてくれたヴェーチェルさんには感謝しかない。礼に何をすればいいか聞いたらこの件が一段落ついた後のスズメさんとの時間を要求されたので献上しておいた。たまには一人でクエストに行くのもいい体験だ。スズメさんには恨みがましい目を向けられたが。
「うわあああ! ヨウカイイモウトダセだぁぁぁ!!」
「逃げろ骨折られるぞぉぉぉ!」
向こうから走ってきた海賊がくるりとUターンして逃げていく。そのヨウカイって俺か、俺なのか。変にうちの国の言葉を使うんじゃありません、俺は妖怪ではなくただの一介の兄です。
だが彼らの様子から組織として情報交換などがきちんと機能していることが見て取れ、存外組織としては一筋縄ではいかなそうだな、と考える。
「逃がすかぁぁぁ!!」
「ヒィィィィィ!!」
「ごめんなさいごめんなさい多分妹さんいるとしたら一番奥っす人間の女の子なんてその子しか連れてきてないし!」
「あ、姐さんが気に入ったっぽいっすあの階段で一番上っす! 俺ら下っ端だからよく分かんないけど!」
互いに固く抱き合って悲鳴を上げながら海賊たちが奥の階段を指さす。
わざわざ道を教えてくれるとはありがたい。なので礼も含めて攻撃せずに素通りして駆け抜けた。
「おうありがとな!」
「た……っ、助かったぁぁぁ!」
「生きてるぅぅぅ!」
後ろからまだ何か聞こえてくるがそれを振り払って意識を前方に集中させる。
足はこの部隊の中ではどうやら俺が一番速いようなので先陣を切る形だ。
数段飛ばしで階段を駆け上がり、言われた通り最上階へと辿り着く。そこはもう人気はなく、ただ長い廊下があるのみで、階下の騒動など知らないかのように最奥に一つドアがあった。
罠に警戒しながら走って、その前で息を整える。追い付いた数人の兵士たちとアイコンタクト。そして、
バァン!
「動くな!」
ドアを蹴破って部屋の中へなだれ込む。
そこは小劇場のような造りで、一番前の舞台の真ん中に、一人の女性が立っていた。
だが、その時感じた違和感。本能にまかせて大きく跳躍した、その瞬間。
ドオン
眼下で強大な魔力の塊が兵士たちにぶつかって、爆発した。
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