第22話 寝ぼけた頭は使い物にならない

「ん……」


 目を開く。見えるのは木の梁。

 さっきまで草原にいたはずなのに、とこの状況を理解出来ず脳が混乱する。

 それが収まる間もなく横から声がした。


「目が覚めたかい?」


 柔く微笑んでいたのはランで、心配そうな様子に何か言葉を返さねばと頭を回す。

 しかし、回り切る前に口が先に動いてしまった。


「だんご……」

「だんご?」


 ……これはひどい。団子を食っていた感覚が残っていたとは言えこれは無い。

 首を傾げる彼に何でもない、と言う。ならよかった、と安心したように息をついて、彼はここがノーツの酒場の宿であることを教えてくれた。


「スズメさんは下の協会で状況説明をしてるよ。マリテ軍も動くって話だからそういうのは全部彼女に任せたけど、いいね?」

「……ああ」


 窓にはカーテンが掛けられているが、その明るさから今は真昼らしいことが分かる。こりゃまぁ随分と寝こけていたものだ。

 自分で自分に呆れているとふと温かさに気づく。シーツの中を見ると、ざくろが丸まって寝息をたてていた。あどけないその顔に強張った心が少し解れる気がする。


「メイちゃんは人魚だと思われて連れ去られたから、傷つけられてはいないだろうって協会の人が言ってた。人魚の人身売買の場では子供は傷が無い方が高く売れるから」


 ざくろを抱いてそれを静かに聞く。

 普通に考えて、一介の旅人という立場である俺は竜の巣の時のように直接的に関わることは出来ない。それに歯噛みして、シーツを握りしめた。

 怒りとやるせなさの黒い感情がこみ上げてくる。

 多分、こんな精神状態だからあんなおかしな夢だって見たのだろう。だって今ウラノスは何の戦争にも参戦していないし、師匠もあんなに弱々しくてたまるか。解釈違いで憤死しそうだわ。


 静かな時間が流れる。ランは手元の本をパラパラと捲り、部屋の隅に置かれた彼の荷物の上ではルリが眠っている。

 俺はどうにも起き上がる気力が湧かず、ただざくろを抱いて横になっていた。


 暫くそのようにして過ごしていると、ふと戸が叩かれた。


「一段落したぞ……ってアカリ、起きてたのか」


 そう言いながら入ってきたのはスズメさんで、俺を見ると気分はどうだ、と微笑む。快活なその顔に心が落ち付く。


「身体の方は大丈夫。ありがとう」


 彼女はベッドまで来て俺の頭をワシワシと撫でる。


「明日からアタシは協会からの指名で海賊連中のアジト調査に行くことが決まった。一応クエスト扱いで、Aランクだからお前たちは連れて行けない」

「そっ、かぁ……」

「………………」


 空気が沈む。

 分かってはいたが何も出来ないのはもどかしい。悔しい。俺は兄なのに。

 しかしスズメさんは「けどな」と不敵にニヤリ笑った。


「“正式なパーティー”の一員として連れては行けないってだけだぜ?」

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