第11話 慣れてる人って分かりやすいよね

「じゃあ、海賊には気をつけてくださいねェ」


 目当ての船の出発が明日だというワーナーさんと別れて、朝一番の船に乗るべく港へ向かう。

 わざわざ起き出して見送ってくれた彼はやっぱり優しい。ベネディクトが兄のように懐いているのも無理はない。

 そう思いながら船に乗り込み、あまり柔らかくはないシートに腰を下ろした。



「………………」

「……どうした、ラン?」


 そうやって出航してから、何やら黙り込んでいるランに首を傾げる。何か難しい顔をしていて、柳眉が寄っている。

 しかし彼は何でもない、と微笑んだ。頭のいい彼のことだからきっと何か難しいことを考えているのだろう。この先の治療についてだろうか。

 俺にはさっぱり分からないのでその思考を邪魔しないようにそっとその場を離れた。



 海賊に襲われる事なく無事に目的の集落へ到着した頃には既に昼を過ぎていた。昼食は船で取ったため、空腹はない。竜の巣での反省を踏まえ、それなりの量の食料もノーツでちゃんと調達してある。

 人間とは反省し、そして成長する生き物なのだよ……!


 船から降りて辺りを見回す。この集落に用がある乗客は俺たちだけだったようで他に降りる者はいない。

 船頭はここで流行っている病気を恐れてか俺たちを降ろすなり逃げるように去っていってしまった。なんだか少し感じが悪くて唇を尖らせる。んな汚れ物みたいに扱わなくても。


「免疫がついていないのはこの周辺の人達だけなんだから、怖いことはないのに」


 同じ様に不快に思ったのか眉を顰めたランを宥めつつ、集落の中心地へと歩く。病気のせいか人気は少なく、外にいる住人は俺たちを訝しげに見やる。


「まず、ここのリーダー的立ち位置の人に会いたいんだけど……」

「何処にいるんだろうなぁ……」


 しかしそれらしき人物がいるようなところは見る限り分からない。

 大人しく住人に聞くかと先程見かけた住人がいた場所へ足を向けた時、それは聞こえた。


「おいっ、いるんだろう!? 出てこい!!」

「頼む、助けてくれぇ!!」

「見殺しにする気なの!?」


 ドンドン、と何かを殴りつけるような音と共に届いた怒声。

 その方向を見ると遠くで他の家よりも一際小さく、みすぼらしい家の扉を住人達が何人か集まって叩いている。中には斧を持ち出す者までいた。


「なんだぁ? 揉め事か?」


 スズメさんがそう溢して取り敢えず行こうぜ、と走っていく。相変わらず速いしこちらの意思関係なく突っ走る人だな……。

 遅れるわけにもいかないので俺とラン、そしてルリもその背を追った。



「おい。何があったのかは知らねぇが流石に人ン家の扉破るのはどうかと思うぜ」


 一番に着いたスズメさんが扉を破らんと斧を振り上げた男の腕を掴む。男はそれこそ鬼が乗り移ったかのような顔で彼女に噛み付いた。


「あぁ!? 何だテメェ、この人殺し共の肩を持つのか!!」


 そう振り上げられた斧の行き先が彼女の金髪の頭へと変更される。

 いやいやいや危ないんですけど!?

 ヒュッ、と喉の奥が鳴って止めに入ろうとするのと同時に、長くしなやかな脚が伸びた。


 バキャゴッ!!!


 一蹴りで木製の柄が折れて、刃の部分は数メートル離れた地面にザクリと刺さる。


「ひっ……」


 ひぇっ……。おれた……。こわ……。

 へたりと腰を抜かした男を腰に手を当てて彼女が見据えた。周りの住人はその馬鹿力にただ呆然と眺める。


「で? 一体どういうワケでお前は人の家に向かって斧振り下ろそうとしたのか聞きてぇんだけど?」


 ……スズメさん、場慣れしすぎっス。

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