第9話 食べ物の恨みは深い
船を乗り換え乗り換え、そして辿り着いたマリテの北の大都市、ノーツ。
アスター程ではないにしろ、やはり街は大きいし人も多い。アスターは物流の中心地なため明るく、賑やかな雰囲気だがこちらは軍港であるためか少々空気が硬い。
「何かあったのか? 前はこんなにピリピリしてなかった筈なんだけどなぁ」
傾いてきた陽に照らされた道を歩きながらスズメさんが言う。
前情報ではノーツはアーヴェン海域の入り口に当たる街で、そのために軍港となっている。それでも海域の各地で採れた海の幸が集まって、食の街でもあるらしいのだが。
「お店も閉まってる所が多いね。ディナーの時間はまだ終わってないのに」
ランも不思議そうに辺りを見やる。
くそう、俺めちゃくちゃノーツの料理楽しみにしてたのに。
「アカリ君、顔こわいよ」
「もうすぐ酒場だから、な? そこでヤケ食いなりなんなりしようや」
二人に宥められるように言われてはたと自分の顔が強張っていたことに気付いた。
母さんと師匠によく言われていたことを思い出す。
“お前の食べ物の恨みは深過ぎる”
仕方ない、だって美味いものを食うのが俺の楽しみなんだから。あ、あと作るのも好きだ。
「酒場に行きゃ飯は腹一杯食えるだろうし、この変な感じの原因も分かるだろうさ」
「もしその原因が海賊とかだったら俺は迷いなくそいつら叩きに行くぞ」
「マジトーンやめて、アカリ君」
いいや俺はやる、絶対にだ。
「ええ、最近海賊の動きが活発化していて……。食材が手に入りづらくなったのよねぇ……」
頬に手を当てて困るわぁ、と酒場の受付嬢は言う。
オーケー、状況は理解した。
「そうなんですか……。すみませんお姉さん、今一番仕入れに影響を与えている海賊の拠点って分かります?」
「えっ」
「「こらこらこらこら」」
『キュイッ』
恐い顔にならないように出来るだけ広角を上げた笑顔で尋ねると両隣からツッコミが入る。ランの頭の上でルリが咎めるように鳴いた。
「アカリ君? きみは何をしようとしているのかな?」
「やだなぁ、冗談だって」
「冗談なら僕の目を見て言ってもらえるかいあと目が笑ってないよ」
しっかりと肩を掴んで言ってくるランにまたニコリと笑って返すも真顔で冷静に言われる。そうしているうちにスズメさんが受付嬢に今の忘れてくれ、と伝えてしまっていた。
「チッ」
「舌打ちもやめようね?」
ベリッと受付の机から引き剥がされる。そのうちに手早くスズメさんが三人分の部屋を取っていた。
今日はもう集落へと向かう船が無かったのでここで一泊だ。
「さぁて、空いてる席は……っと」
受付の前からどいて、食事を取るための席を探して酒場の中を見回すとちょうどその時入り口の扉を押し開けて入って来た人物と目が合った。
長いプラチナブロンドにベネディクトとは違う感じの人外じみた美形、そして首元を覆うマフラー。
「ワーナー、さん?」
ぽそりと呟くと彼が軽く目をみはったのが見えた。
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