第2話 うちの子はコンロじゃない

 普段の依頼ではメイと子竜__ざくろと名付けた__は連れて行くが、危険な依頼の時はアスターで待ってもらっている。

 この数カ月でざくろはすくすくと育ち、言葉も少し覚えた。それでもまだ会話するまでには至らず、『ごはん』『めえ(メイと言いたいのだろう)』程度だ。

 しかし鳴き声は進化を遂げ、出会った頃の『キュイ』だけではなく『ぴゃあ』やら『ぴぎゃあ』と言うようになった。それを気分によって使い分けているようである。

 やだうちの子すごい、と言ったら親ばかだとランに笑われたが。


「ざくろの様子はどうだったか?」


 扉を開けてすぐ飛びついてきたざくろを抱えてメイに聞くとどうって問題じゃなかった、と唇を尖らせた。小さな桜色の唇が不機嫌そうに歪む。


「最初の3日間は我慢してたんだけど……。4日目から兄ちゃんを探してぴゃあぴゃあ鳴くようになって、6日目の今日は見ての通り。もう、昨日から暴れて暴れて大変だったんだから」

「ごめんって」


 上機嫌で頭を擦り寄せてくるざくろを撫でながら妹に詫びる。彼女はお母さんでしょ、と不満げに言った。


「責任持ってちゃんとしつけるからさ、許してくれよ。……そういや、ランは?」

「ランさん?」


 俺がメイのそばにいられない時は彼女の監督と魔術の先生を頼んでいる親友のことを聞く。彼は俺が帰って来た時にはメイと一緒にいつも来ていたのに、今回は姿が見えない。


「ランさんなら、酒場のところで冒険者協会の人に呼び止められてたから先に来たの。なんか、ランさんにしか頼めないことがあるんだって」

「ランにしか頼めないこと?」

「医療関係じゃねえか?」


 メイたちが来た時から台所で何やら作業をしていたスズメさんが出てきて言う。手には山のように生肉が盛られた大皿。

 その一つ一つが串に刺さっていて、彼女はその一つをざくろの目の前にかざす。


「あいつ一級医療魔術師だろ? それで医者がいない地域に診療に行ってほしいーとか大がかりな討伐作戦があるから参加者の治療をーとかそういう"頼み事"を協会からすることがたまにあるんだよ。

まああいつは冒険者じゃねぇから"頼み事"に過ぎないけどさ、いつも絶対に引き受けてくれるって喜んでたな、協会は。

……よぉしざくろ。これに火をふぅー、だ。焼き加減はウェルダンで頼む」

「説明はありがたいけどうちの子をコンロ代わりにしないでもらえるか?」

「いいだろ別に。吐く炎の調節訓練だ」


 文句を言うと彼女はそう返して胸を張る。たわわなそれに彼女のシャツが悲鳴を上げているように見えるが生憎と俺は胸より尻派だ。あと巨乳よりかは貧乳の方が好みだ。当てられた前は混乱というか呼吸困難(言葉通り)になったが見てる分には何とも思わない。

 メイは死んだ目で自分の胸を抑えている。大丈夫、お前はまだまだ発展途上だ。


「………………」

「いっ」


 無言で脛を蹴られた。もしかして俺の心読まれてた……!?

 俺たちがそうしている間にざくろがごぉ、と火を吐く。


「あっ、ちょっ。ざくろ!」

「おっ、流石は火の竜。加減を掴むのが上手いなぁ」

『ぴゃう!』


 自慢げに鳴くざくろに、じゃあ次はこれも、とまた生肉の刺さった串を差し出すスズメさんを見て、この人にざくろの属性教えなきゃよかったと一人後悔した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る