第66話 友人の謎
怪我人の手当てでてんてこ舞いになっている救護所に行くと、中にいる救護班の人に声をかけるよりも先にあの子竜が飛んできた。
『キュキューイ!』
「ぐぼべっ」
「アカリ!?」
子竜は見事に俺の鳩尾にクリーンヒットする。
痛い。めっちゃ痛い。
思わず腹を抑えて膝から崩れ落ちてしまった。隣でベネディクトが心配そうにおろおろと俺の背をさする。優しい……。
『キュイ……?』
「いや……うん……大丈夫だからな、うん……」
何も分かっていない子竜は可愛らしく首を傾げる。大きな瞳がくりくりと動いた。
うう、可愛くて怒るに怒れない……。
悪びれもせずすりすりとすり寄ってくる子竜にため息をついて抱き上げると同時にアカリ君、と声をかけられた。
「どうしたんだい? ベネディクト君も。どこか具合が悪いの?」
「ラン」
「いや、あっちはもう人手が足りてるみたいだから、こっちの手伝いをしようと思ってな」
心配そうに言った彼に首を振る。腹のこの痛みはまあアレだ、名誉のアレだ。何の名誉かは知らないけど。
すると彼はよかったと微笑んだ。
「大変だったから手伝いに入ってくれるのなら楽になるよ。うーん……包帯とか必要なものを運んでくれると嬉しいな」
「分かった」
呼ばれるままに包帯や薬を運ぶ。怪我人は竜のブレスが当たったり尾などで攻撃を受けたりした人たちで、重傷の人はいれど重体の人はいない。
そんな重傷者も医療魔術で回復していく。ランは一級医療魔術取得者としていろんなところに引っ張られて少し額に汗をかいていた。
「すごいよな、あいつ」
ベネディクトがそんな彼を眺めてこぼす。俺はそれに頷いた。
「ああ。あんなふうに人を治せるなんて医療魔術の有効さが身に染みる」
俺の言葉に分析するような目を彼に向けていたベネディクトは返す。その声色は感心と不思議さを含んでいた。
「すぐに治すことが出来るし、重傷であっても一瞬で元通りだ。傷跡も無しに治療するなんて、並の医療魔術じゃできないぞ。
それにそれだけ高度な医療魔術をこんなに立て続けに使ってたらかなり疲労がくるはずだけどそんな様子もない。
あいつ、持ってる魔力の量と質が桁違いだ。
……ここまで出来るんなら旅をするより定住して医者業やった方がいいと思うんだけどな。あれだけの実力持ちなら欲しいと思う王族や貴族も多いだろうに」
王族である彼の視点から見てもランの実力は高いらしく、それを聞いてこれまで聞いたことの無かったランの旅をする理由を思案した。
旅人は大体皆目的を持って旅をしている。俺みたいに武者修行だとか、商売をするためだとか、世界の未知を見たい、知りたい、だとか。
……今度聞いてみよう。
考えているとそれはそうとして、とベネディクトが俺の顔を覗き込んだ。
「お前さ、竜の長にブチ切れられてたけど、何したんだ?」
「え、何したって……」
そういや彼も聞こえてたんだよな、と思いながらもう一度考え直してもやっぱり思い当たる事はない。
黙り込んだ俺の背を彼は叩いて、思いつかないならいい、と笑う。
「竜の長のカンチガイ、とかもあるだろうしな」
「……ああ」
その時呼ばれた薬を求める声に返事をして、そちらに向かった。
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