第65話 唯一の策

 堂々と立つサマウィング大佐にハルイチさんが胡乱な目を向ける。


「手はある、と? まさか竜玉の浄化でも行うのか。それは竜玉への負担が大き過ぎないか」


 彼の言葉に彼女がそのまさかだ、と頷いた。ハルイチさんの眉が顰められ、場に緊張が走る。ごく、と唾を飲み込んだ。


「竜玉を浄化し、この空間から一時的に瘴気を消し去る。そのうちに竜玉の代替わりを成功させることさえ出来れば、この瘴気も空間の歪み一気に解決することが出来る、ということだ。竜玉への負担は確かに不安要素ではあるがな」

「じゃあまずあの竜をこのすぐそばまで連れて来て竜玉の浄化が完了するまで待ってもらえればいいのか?」

「ああ。既にヴェーチェルと何人かの隊員を向かわせた」


 流石は大佐、仕事が早い。はあ、とため息をついて文句を言うのを諦めたらしいハルイチさんが彼女に聞いた。


「どれくらいかかる?」

「出来る限り急ぐように言ったから、一、二時間程度だな。エルフと獣人の隊員を行かせたから移動速度は早いはずだ」


 それに彼はふむ、と腕を組んで少し考えると確かに今はそれ以外策はない、と顔を上げる。そして続けた。


「ならばあの空間の歪みによって開いた穴を結界で蓋もしておいた方がいい。もし浄化しきることができなくとも塞いでおけば少しは望みがあるだろうし、浄化するのも楽になる」


 大佐がなるほどと息をついて指示しておこう、と言い残し走っていく。そしてすぐに指示が行き渡ったのか浄化班と結界班に分かれて素早く行動を始めた。

 メイは浄化班に入れられたようだ。ワーナーさんは結界班に引き摺られて行き、スズメさんは調査班の手伝いをしている。

 それを眺めて、ポツリと呟いた。


「俺、何したらいいんだろう……」


 俺が動きを止めた竜の長は度重なる攻撃に耐えかねたのか、はたまた疲れ果てたのか最初ほど暴れてはいないのでそちらの方は人数は足りているみたいだし、浄化も結界も俺には出来ない。

 くそう、魔術がからっきしな我が身が恨めしい。


「俺も何したらいいんだろう……」


 ベネディクトも困ったような顔をしていて、二人でどうしようか、と顔を見合わせる。するとハルイチさんに呆れたように言われた。


「ならば救護班の手伝いにでも行け。怪我人の手当であっちはてんてこ舞いらしいぞ」


 その言葉に俺たちは救護班、ランの元へ向かうことにした。

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