第67話 光り輝く竜玉

 医務班の手伝いを始めて暫くした。時々竜玉の方を伺うと浄化も進んでいるようで、今のところ特に問題は無いらしい。竜の長も魔力が底を尽きかけているのか竜玉が浄化されてきて正気が戻ってきているのか抵抗らしい抵抗はしていない。

 ……串刺しにしているのが痛々しいがそろそろ霊力が消えて自由になれると思うから後でちゃんと謝ろう、と心に決める。


「このまま全部うまく行くといいな」


 呟くとベネディクトが同意するように頷く。

 だな、と彼が整った唇を緩めて言った時、外がざわめいた。

 何だ何だと出てみるとあの巣の主要通路に繋がっている穴のところでヴェーチェル中佐が手を振っている。よく見ると他にもふさふさとした耳を持った獣人の隊員の姿も見えて、あの老竜を連れてきたのだと分かった。

 なるほどあの巨体ではあそこを通るより他はない。彼らは竜玉の浄化が完了するまでそこで待機するらしい。


「これで代替わりが完了したらここら一帯はまた元通りだな」


 安心したようにベネディクトがそう言ってその様子を眺める。怪我人も皆回復したのでもうやることが無いのだ。

 俺の仕事が一段落したのを察したらしい子竜が飛んできたのを今度は上手く受け止めて、その唐紅の身体を抱く。あったかい。


「にしてもそいつ、この巣の生まれのはずなのにそんな色って珍しいよな」

「そうなのか?」


 ふとベネディクトが子竜を見て言ったので首を傾げた。俺は竜に関してはさっぱり知識が無いのでよく分からない。

 彼はああ、と続ける。


「普通こういうところに生まれるのは水の竜だし、大体青っぽい色をしてるんだよ。色違いでも緑とかが主流だと思うんだが……」

「持ってる魔力とかで分からないのか?」


 聞くといいや、と返された。どうやら俺の推察は違うらしい。


「竜は生まれて間もない頃は魔力を持ってないんだよ。まっさらな状態。そこから外部から食べ物とか色々摂取して、体内の魔力を精製する機関が機能し始めて初めて魔力を得る。

それまでは子竜を種族分けしようと思ったら身体的特徴とか色とかでしか判断出来ない。でも中にはこういう色違いとかも混ざってくるからこれだって確証は得られないんだ」

「へぇ……。お前は自分で分からないのか?」

『キュイ?』


 目をくりくりとさせて俺を見つめた子竜が分かっているようには見えない。

 その顎の下をうりうりと撫でてやると楽しそうにキュイキュイ鳴く。可愛い。

 頬だらしなく緩める俺の横からベネディクトも手を伸ばして子竜を撫でた。子竜はベネディクトのことも気に入っているらしく嬉しそうに頭を擦り付ける。


 竜玉の方もほとんど浄化は進んでおり、あともう少しで完了しそうだ。頑張って浄化をしているメイも見える。

 全部終わったらしっかり褒めないといけないな。

 そう思いながら見ているうちに竜玉に残っていた瘴気が消え去ったのが見えた。


キィンッ


「うわっ」

「!?」

『キュッ』


 甲高い音と共に光が満ち溢れる。

 するとみるみる間に場の瘴気が払われていった。外に出てみるとおどろおどろしい紫色だった竜玉は水色に光輝き、天井付近の雲は晴れ、そこに開いていた穴もぐんぐんと閉じていく。

 その美しさにその場にいた全員が目を見張って息を飲んだ。


 瘴気が払い切られ、竜玉の間が本来の神聖な場へと戻ってゆく。

 そんな中、主要通路と繋がるあの穴から老竜が一声吼えて降りてくる。竜の長はもう完璧に正気に戻ったようで、竜玉の力で消えても少し残っている霊力の欠片を纏いながら老竜に頭を垂れた。それを優しげな眼差しで老竜が見つめ、小さく頷いて竜玉へ向かう。

 見送った竜の長が俺の方を向いた。魔力をぶつけられた時のことを思い出して身体が強ばるも穏やかな瞳に弛緩する。

 あの怒りと狂気に満ちていたものは影すらもない。それがすぃ、と細められる。軽く会釈をして、竜玉のそばまで辿り着いた老竜を見た。


 老竜が竜玉の台座に足をかける。


 が、その時。


ピキ、パリィィィンッ


《!?》


 竜玉にヒビが入り、次の瞬間、割れた。


 光が失われ、明るかった竜玉の間が急激に暗くなる。

 そしてそれと同時に閉じかけていた穴が一気に開き、瘴気が流れ落ちる滝のように降ってきた。

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