第51話 その頃、本隊 Side.M
どこからか轟音や、地響きが聞こえる。
「巣のどこかで竜が暴れているのでしょうね」
隣で一緒に行動している女の人が浄化をしながら呟く。それを聞いて、今は別行動をしている兄ちゃんの顔が頭に浮かんだ。
兄ちゃんは____兄妹であるという贔屓目を抜いても____かなり強い方だと思う。私は戦いのことはよく分からないけど、家の手伝いで培った周りをよく見る力もあるし、自分の実力や限界も分かっているとも思う。
けど残念なことに無茶無謀が標準装備だ。無理だと頭では理解しているらしいけど、それじゃあ自分か満足しないからと走っていく。和ノ国での幼少期にもそういうことがよくあった。一人で魔物の群れに立ち向かっていったり溺れた近所の子を助けようとして海に飛び込んだり……。勿論、全部終わってから毎回こってりしぼられたけど。
まったく、ある意味で一番メンドクサイタイプののエゴイストだ。彼は"人が笑顔になってくれないと気が済まない"を地で行くのだから。
そんな兄が誰かと一緒にいる状態で竜なんてものと対峙したらどうなる。絶対迷いなく突っ込む。
私はそれが心配で心配でならない。ベネディクトさんに撃ってもいいとは言ったけどあの人の人柄的に撃ちそうにないしなぁ……。
「はぁ……」
ため息までこぼれてしまった。
「大丈夫ですか?」
ふとかけられた声に顔を上げる。見るとレヴィさんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。彼は連絡役として前に行ったり後ろに行ったりとずっと走りまわっている為か、その額は少し汗で濡れている。
「顔色があまり優れていませんから……。気分が悪くなったのでしたら、遠慮なくすぐ言ってください」
「いえ……。少し、兄が心配なだけです。私は元気ですので、ご心配なく」
うまく笑えていただろうか。彼は眉を下げてそうですか、と言ってまた走っていく。
それを見送った後、不意にぽすりと頭に重さを感じた。
「……ハルイチさん」
「不安なのは分かるがそう案ずるな。我の霊術であいつらの安否は分かる。今のところ四人とも無事だ。不安定な精神状態では、魔力にも影響するぞ」
そう言って私の頭をわしゃわしゃと撫でる彼にすみません、と言うと責めてはいないと返される。
「信じるだけでもかなり楽になるからな」
微笑んだ彼は頑張れよ、と列の後ろの方に歩いていった。
なんだか、少しだけ心が軽くなった気がした。
「ふむ……」
メイから歩いて少し離れた所でハルイチは立ち止まり、彼女を撫でた手のひらを見た。その顔はあまり表情が表に出ない彼にしては珍しく険しい。
「やはりか……」
悩むように苦々しく呟くとはぁ、とため息を吐く。
「さて、どうしたものか……」
落ちる気分を紛らわすように再び霊力を四方に延ばした。
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