第50話 最初の遭遇

 歩き始めて少しして、ワーナーさんがふと立ち止まる。彼は辺りの気配を探るように数秒黙り込むと、振り返った。


「すみません、ちょっとそこの岩陰に隠れてもらえますか」


 緊迫感が漂い始め、空気が変わったのが分かる。無言で岩陰にしゃがみ込むと同時にそばの水面が膨れ上がった。


 ____来る。


ザッパァァ……


 強い気配が近づいてきたかと思うと、巨大な竜が水面を割って現れる。竜はまだ俺たちに気付いていないようだが、ここから出たら一瞬で見つかるだろう。このままやり過ごせたらいいが、竜の動きとこの岸の狭さ的にそれは難しそうだ。


(どうする、俺が囮になろうか)

(陸がこんなに狭いのに出来るはずないでしょ)

(水の中なら俺、なんとかできそうですけど……。望みは薄そうですねェ……)

(キュウン……)


小声でひそひそと話し合う。しかしそうしているうちに竜が咆哮を上げた。


『ギャオオオオッ!』

「うっわ!?」


 同時にブレスが飛んできて俺たちが隠れていた岩に当たる。咄嗟に飛び出したが岩は粉々に砕け散った。飛んでくる破片を抜いた雪華によって作り出した霊力の刃で叩き落とす。

 いやあれめっちゃ危なくない!? 木っ端微塵だったんですけど!? あれ岩だったよね!? 木とかじゃないよね!?


「匂いでバレたか!?」


 次々と飛んでくるブレスから走りながらベネディクトが叫ぶ。


「どうする、斬った方がいいのかこれは!」


 ランに子竜を押し付けて声を上げた。本当は今すぐにでも雪華を振るいたいが、彼の方が海竜種に関しては確かに俺より知識がある。


「……っ、ヒレを狙ってくれ!」

「了解っ! しょうっ!」


 雪華を振るって飛んでいった刃が竜のヒレを斬りつける。スパスパスパッ、とそれに紅い線が走った。


『ギャオン!』

「二人とも走って!」


 そう叫ぶランの元まで走る。

 あとラン、お前無理して子竜抱えなくていいから! そいつ飛べるから! 両脇に竜抱えて背中に大きな薬箱を背負って、見てるこっちがなんかつらいから! 重みで足ぷるぷるしてんじゃん!!

 走りながらそう思う。半分背中の恐怖からの現実逃避でもある。


 数十メートル走ってから立ち止まって振り返った。竜はヒレへの攻撃から立ち直ったがどうやら身動きが取れないようで、手の届かないこちらにブレスを吐こうとする。


「レニー!」

「分かってますよォ!」


 ベネディクトの声にワーナーさんが応え、片手で銃のような形を作る。するとその指先を中心にして魔法陣が発動し、そこから水の弾丸が発射された。


『グギャッ!』


 それは竜の頭に見事命中し、竜は一瞬脱力する。その瞬間を見逃さずベネディクトが魔銃を構えた。


「悪いけど、こっちだって死にたくないんだよっ!」


 続け様に二発銃声が響き、竜の両眼から血が吹き出した。

 うわいったそう。

 視界を奪われた竜はのたうち回り、出鱈目にブレスを吐く。


「今だ!」


 素早く銃をしまったベネディクトが駆ける。俺たちもそれに続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る