第49話 いざ竜玉へ

「では、切りますね」


 俺と代わって通話をしていたワーナーさんが通信を切る。そしてこちらに向くと手に持ったブレスレットを示して言った。


「ハルイチ殿から伝言ですよォ。ここはこの巣の最も主要な通路で、竜玉までの最短ルートらしいです。ですがその分竜も多くいるそうなので、心して進めとのお言葉でした」

「ああ。ありがとう、レニー」


 ずっと竜と遊んでいたベネディクトが竜を抱えて立ち上がる。

 ……割と重かった気がするのだが片手で軽々と抱えているのは筋肉量の違いだろうか。鍛え方が違うのだろうか。……駄目だ遠い目になる。俺は平均よりはあるはず。だっていつも刀振り回してるし、うん。……うん。


「ここはまだ巣の上層部だから、この下流の方に竜玉があるんだろう。ラッキーなことにこの岸は暫く続いているみたいだし、このまま歩いて行けばなんとかなるんじゃないか?」


 水に落ちたらまずいから気をつけろな、と子竜に笑いかけた彼はワーナーさんに言った。


「レニー。浄化と結界、頼めるか?」

「勿論ですよォ」


 ワーナーさんが進む方角に手をかざすと瞬く間に瘴気が晴れ、同時に結界も張られていく。まるで水で洗い流されたかのようだ。

 まるで王の通り道には何一つ邪魔なものを許さないというように一本の清め払われた道が出来上がる。


「おぉ……」

「うわぁ……」


 ランと二人で息を飲んでそれを見ていると、ベネディクトが笑って「行こうぜ」と言った。



「そういやさ」


 浄化をしながら歩くワーナーさんの後ろを歩きながらランに聞く。


「ルリって、浄化出来ただろ?」


 あの森ではそれに随分助けられた。だが、その能力をここで使用していないのは何故だろうと思ったのだ。


「……ああ、何でしないかってことだね」


 彼はすぐに察したようで説明を始めてくれた。

 ……時々、これだけ知識があるランはそれだけいい家の生まれなんじゃないかと思う。あくまで俺の勘だけど。


「ルリはさっきも言ったけど、淡水の竜なんだ。それで海水がそばにあるここでは思い通りに魔力を使えなくてね。だから浄化できないんだよ」

「へぇ……」


 これでルリへの疑問は晴れたが、他にも疑問がある。竜が浄化をすることが可能なら、何故この巣は生き残った竜たちによって浄化されていないのか。

 するとそれも察したのかランが付け加えた。本当に彼は察しが良すぎる。


「ここの竜の魔力は由来が竜玉だから、その竜玉を通された瘴気には通用しなかったんだと思うよ。瘴気は魔力や霊力が変質したものだからね。自分で自分を攻撃するようなものだよ」


 分かりやすい彼の説明で理解できた。彼に礼を言って気分が晴れると、ふとこれまで忘れていた感覚を覚える。


 腹減った……。


 ポケットに手を入れて何かないか探してみるが残念なことに何も入っていない。よくよく考えたら島で色々と貰ってポケットに詰め込んだお菓子はここまでの船旅で全部食べてしまっていた。くっそもっと持って来ときゃよかった。もしくはセーブしとくか。


「ん、アカリ、腹減ったのか?」

「まあ、おう……」


 ベネディクトが振り向いて言う。彼は意外だな、と笑った。


「街でも思ったけど、お前って結構大食らいだよな。けっこう細いのに」

「ヒョロいって言うな」

「言ってないって」


 仕方ないだろ、と口を尖らせてしまう。


 霊術に使う霊力は魔力のように自身で生成することが出来ないので、他から摂取するしかない。ストックしておかないといざという時に大変な事になるし、俺の使う舞刀術は霊力の消費がハンパじゃない。つまりは燃費がこれでもかという程悪い。いつでも使えるように刀に常に微量の霊力を流し込んでりゃ、そりゃ腹も減る。


 すると目の前に手が出された。見るとベネディクトが俺にパンを差し出している。


「非常食で持って来たけど、俺はいらないから。……あ、空間魔術で作った異空間に入れてたから濡れてないぞ!」

「……いいのか?」


 微笑んで頷く彼にありがとうと言って齧り付く。

 パンは固めに焼かれたレーズンパンで、少し咀嚼に苦労するがレーズンの酸味がアクセントで美味い。


 はぐはぐと食べながら歩いていると、ワーナーさんに踏み外さないでくださいよォ、と呆れたように言われた。さすがにそこまでドジじゃない。……はずだからそんなどんくさい子供を見るような目で見ないでほしい。

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