第48話 いつ如何なる時も冷静に Side.M

「ハルイチ、さん……?」


 ハルイチさんはフンと鼻を鳴らすと担いでいる旗を示す。……いつの間にそんなの出してたんだろう。洞窟に入った時は何も持っていなかったのに。


「何の為に戦う術を持たん我が付いてきたと思っている。どうせあいつは無茶無謀が標準装備、こうなることは想定内だ」


 意味が分からない。つまり彼はこの事態を予想していたってこと?

 訝しげな目を向ける私に彼は肩を竦めると待っていろ、と言った。


「三分……いや、一分で見つけよう」


 すると担いでいた旗を下ろしてそれを地面に突き立てた。重みで旗の先が地面に刺さって周りの土が盛り上がる。

 それと同時に旗に霊力が流し込まれ、旗を基点として霊力が地面に、壁に沿って広がっていく。薄暗い洞窟を翡翠みたいな薄緑色の霊力が駆け巡り、一瞬洞窟中が輝いて歓声のような声が上がった。

 やがて、その霊力がするすると旗に集結してきて、吸い込まれるように消える。

 霊術、道具、そして文字の未使用。

 古代霊術だ。

 反射的にそう感じた。


 霊力が収まると彼は閉じていた目を開き、すらすらと言葉を紡ぎ始める。


「……ここから約30メートル下、西へ大体100メートル。四人一緒だ。あの医師の小僧と共にいた竜もいる。別の子竜もいるが問題はあるまい。あとメイ、アカリは通信魔術に用いる魔術具を持っているぞ。この距離なら性能はともかく、こちらからお前の魔力を流し込めば通じるだろう」


 言われてハッとする。この間ランさんを二人でつけた時に使ったブレスレット。

 それだ。

 ポケットを弄って取り出し、魔力を流し込んで通信を開始する。少しして繋がった気配がしたので、応答を待たずに言った。


「兄ちゃん! 無事!? 生きてる!?」


向こうからうおっという声が聞こえて応答が来た。


“あ、ああ。こっちはなんとか。そっちはどうだ?”


そのいつもどおりの声に安心して思わずへたれこむ。泣きそうになったけど唇を噛んで耐えた。ここで泣いたら兄ちゃんが心配する。


「こっちも大丈夫。四人一緒みたいだけど、全員怪我とかはない?」

“おー、元気元気。ワーナーさんが助けてくれたから。ランはルリといるし、ベネディクトは途中で俺に付いてきた子竜と遊んでる”


 のんきだなぁ。それに苦笑すると横からハルイチさんが言った。


「ハルイチだ、元気そうでよかった。ところで、伝えたいことがあるからベネットかワーナーに代われるか?」

“わかった”


小さくワーナーさーん、と聞こえる。雑音がして、はい、というワーナーさんの綺麗な声が聴こえた。


「ワーナーの方か」

“王子は子竜と戯れるのに忙しいようなので、俺が聞きます”


 確かに彼の声の背後からベネディクトさんの笑い声が聞こえる。あ、兄ちゃんのも聞こえてきた。楽しそう、いいなぁ。

 てかさらっと聞き流したけど子竜ってなに。兄ちゃん実家にいたとき犬とかよく拾ってきてたよね、今度は竜を拾ってくるとは思わなかったんだけど。


「まったくあいつは……。まあいい、お前たちが今いる場所は謂わばこの巣のメインストリート、一番主要な通路だ。竜玉までの最短ルートとも言える。しかしその分多くの竜の存在を察知した。我は言うことしかできんが……。心して、進め」

“……了解しました”


 では、切りますねという声と共に通信が途切れる。それを確認したハルイチさんは黙ってずっと聞いていた隊長さんとレヴィさんに向いた。


「わかったろう、ベネットは無事だ。我々はこの道を行こう」


 それに無言で頷いた二人を見て彼は満足そうに笑う。

 隊長さんが声を上げた。


「王子は無事だ。竜玉の間で合流、我々はこれまで通り進むぞ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る