第47話 妹の不安 Side.M

 どうも皆さんこんにちは、メイです。今日はマリテ王国南の果て、海竜種の巣からお伝えします。

 ……って何がお伝えしますよ何が。私はレポーターか。暇過ぎるからってふざけんなこら。

 よし真面目にやろう、真面目に。ふざけていいところじゃないんだからここは。そうよ駄目だからねメイ、ボケは兄ちゃんの役割なんだから奪っちゃ駄目。


 でもやっぱり暇過ぎる。代わり映えのしない洞窟内、やることは浄化、ただそれだけ。こうもずっと同じことをしているとイライラしてくる。ああもう竜玉はまだなの!?


 巣に入ってから言われた通りに浄化をしながらそんなことを考えて暫くした時、後ろの方で何かが崩れる大きな音と、たくさんの人の怒声や悲鳴が聞こえた。

 こんな爆音、聞いたことない! いや聞き覚えがあったらそれはそれでアレなんだけども!


「な、なにっ!?」

「危ない!」


 思わず振り向いて何があったのか見ようとすると、隣を歩いていたお姉さんに抱き抱えられるようにして身体が伏せられた。さっきまで頭があった辺りを何かが飛んでいく。

 危なかった! めっちゃくちゃ危なかった! ほんの少し遅かったら今頃人じゃなくなってたかもしれない。


「きゃっ」

「非戦闘員は身を隠せ! 戦闘員、応戦せよ!!」


 隊長さんが声を荒げて、爆発音や金属音が聞こえる。連れてこられた岩陰で身を縮こまらせながらお姉さんに何があったのか聞くと、その人は険しい顔をして教えてくれた。


「よく見えなかったけど、狂化された竜が壁を破ってこの通路まで入ってきたみたい。場所は多分、列の後方。医務班や王子がいた辺りだと思う」

「えっ」


 息を飲んだ。だってそこには、兄ちゃんが。

 立ち上がろうとするとがしりを腕を掴まれてしゃがみ直される。


「何してるの! 危ないわよ!」

「だって、兄ちゃんが」

「ここにいるぐらいならそう簡単にはどうこうならないでしょうよ! 今貴女は自分の身を守りなさい!!」


 もっともなその言葉にしゃがみこんで、膝を抱えた。



 暫く轟音が続いた後、最後に大きな地響きがして、ふと静かになる。


「終わ……った……?」


 一瞬後の歓声に危険は無くなったことを知って、岩陰から出た。


「うわぁ……」


 見ると地面や壁は所々抉れ、竜の吐いたブレスのせいか水溜まりもたくさんある。横たわっている息絶えた竜は巨大で、激しい戦闘を物語るように傷だらけ。

 その痛々しさにそっと目を逸らして他の所を見ると、地面が崩れて大きな穴が空いている場所があった。

 兄ちゃんの姿を探してみるけど、見慣れた紺青の頭は見当たらない。


「医務班は負傷者の手当! その他報告すべきことがある者は私の元へ来ること!!」


 隊長さんが素早く指示を飛ばし、各自動き始める。すると彼女の元に顔を青くして走ってくる人影があった。

 レヴィさんだ。何かあったのかもしれないと私は耳をすます。


「サマウィング大佐!」

「どうした、レヴィ」


 彼は隊長さんの前で立ち止まると、息も切れ切れに言った。


「竜の出現によって空いた大穴に王子及び戦闘員一名、医師一名が落下しました。ワーナーが後を追いましたが階下には水が流れていて……流れが速い上瘴気が強く、姿を確認することができませんでした」


 それに血の気が引く。彼に駆け寄って、自分とそう変わらない位置にある肩を掴んだ。


「れ、レヴィさんっ、その落ちた戦闘員って……」

「っ、メイさん」


 この時初めて私が近くにいたことに気付いたらしい彼は言いづらそうに目を伏せた。それが示す意味は一つしか思いつかなくてら目の前が真っ暗になる。膝から力が抜けて、倒れそうになったのを彼に支えられた。


 隊長さんが一瞬ふらつくがそれでも踏ん張って、はぁぁぁぁ……と長いため息をつきながら天を仰ぐ。


「やはり私が側に居るべきだったか……。王子の行動なんて簡単に予想がつくというのに私の大馬鹿者め……」


 そんなことをぶつぶつと言うと「ワーナーはすぐに追いかけたんだな?」とレヴィさんに確認するように言った。


「はい。王子の足が地面から離れた瞬間にはワーナーも地を蹴っていました」


 そう返されて彼女は苦しそうにならまだ……と呟く。そして私を見るとぽす、頭に手を載せた。


「ワーナーは水のプロだ。……きっと、兄上も無事だろう」

「……どうして、」


 どうしてそんなに落ち着いているの。


 言葉にしようとしても出来なくて、ただその意志の強そうな瞳を見つめることしか出来ない。

 すると、呆れ返ったようなため息が聞こえて、低い声がする。


「そんなに案ぜずとも、我がいれば居場所も生き死にも分かるだろう」


 見ると、落ち着き払った顔で大きな旗を担いだハルイチさんが仁王立ちをしていた。

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