第46話 落ちて流されて
目を瞑って数瞬した後、ばしゃんという音がして水に落ちたのが分かった。思わず目を開けて辺りを確認するも流れが速くて何がどうなっているのかわからないままに流されてしまう。
離れ離れにならないようにランの手を俺の服まで導いて握らせ、片手に子竜を抱えて水面を目指すが、流されてうまく泳げない。
ベネディクトも落ちた瞬間に手が離れてしまったようで、どこにいるのか分からない。
やばい、控えめに言ってやばい。師匠はこんな時の泳ぎ方なんて教えてくれなかったぞ。ずっと陸上で生活することが前提だったぞ。
酸素が足りなくなって頭がぼぅっとしだした時、ぐいと何かに引っ張られる。そしてそのまま力強く引き寄せられて、
ばしゃっ
岸に揚げられた。
あわてて息を吸おうとして咳き込む。隣ではランも揚げられて俺と同じ様に咳き込んでいた。
「っ、げほっ、ごほっ」
「げほ、げほ。うえぇ、塩水」
ランがべっと舌を出して眉を顰める。確かに口の中がとてもしょっぱくて喉が痛い。少ししか飲んではいなかったが痛いもんは痛い。
すると横からス、と水筒が差し出された。
「どうぞ、飲んでください」
見ると、ワーナーさんだった。隣にはベネディクトもいる。よかった、ベネディクトも無事だった。
礼を言って受け取りつつ、彼に聞いた。
「ワーナーさんが俺たちを? ありがとうございます」
するとはぁ、とそっぽを向かれてしまう。
「目の前で溺れ死なれたら目覚めが悪いでショ。まったく、ちゃんとしてくださいよ」
言葉はトゲトゲしいがその耳は少し赤い。ベネディクトがまあまあと笑った。
「これだけ流れが速かったら訓練してないと普通無理だからな。むしろよく保ってくれた方」
「藻掻いてただけだけどな」
それに苦笑いして、上流の方を眺める。闇に包まれて、何も見えない。かなりの距離を流されたようだ。
「にしても随分と流されたな……。お前は大丈夫か?」
腕の中の子竜を見るとキュイ! と元気よく鳴く。うん、元気だな、よかった。そしてはっと思い出してランを見た。
「そういえばラン、ルリは!?」
「ん、ああ、ルリなら……」
彼は抱えた鞄についているたくさんのポケットのうち、一つを開ける。するとそこからルリがひょっこりと顔を出して、キュイと鳴いた。
「ルリは水の竜だけど、淡水だからね。鞄に入らせて、これごと保護魔術で防水したんだ」
『キュ!』
「そうか、よかった……」
ほっと胸を撫で下ろすが、しかしランは何やら不安そうな顔をしている。
落ち着きなく喉元を手でさすって眉をしかめる。
「どうしたんだ? そんな顔して」
「あー……いや、この水瘴気が凄いから……。けっこう飲んじゃったし、ちょっとまずいなぁって……」
「そ、それを早く言えよ!?」
さあ、と血の気が引いた気がして声が大きくなってしまった。洞窟に響く水流の音に俺の声が混ざる。
どうしよう、いくら耐性あるっつってもこれはまずい。非常にまずい。
「安心してください」
「安心って……。できるわけないじゃないですかっ」
なぜか落ち着き払っているワーナーさんが言う。思わずそれに噛み付くと彼は大丈夫ですって、と手をヒラヒラとさせた。いやそれどころじゃないんですけど!?
「引き揚げる時に一緒に浄化もしときましたから」
「……え、」
何ですかそれは。ワーナーさんちょっとハイスペック過ぎやしませんかねぇ。これで結界も張れて戦闘もできるんでしょ……?
そのスペックの高さに唖然としているとベネディクトがパンパンと手を叩いた。
「とにかく、この流れじゃ戻るのも無理そうだし、別の道を探すしかないな」
ごもっともなその言葉にこくりと頷いてランが服ごと魔術で乾かしてくれている時、胸ポケットから魔力を感じた。そこに手を入れると指先に当たったのはブレスレットで、数日前メイとふざけてランをつけたあの時使ったものだった。
たしかこの魔力の感じは着信、だったはず。それに応答するにはどうしたっけ……。
取り敢えずいじくっていると上手くいったようでブレスレットからメイの声がした。
"兄ちゃん! 無事!? 生きてる!?"
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます