第45話 ハプニング
「絶対の絶対だからな!」
『キュウン!』
何度釘を刺しても分かっているのか分かっていないのやら。子竜はこくりと首を傾げてこちらを見つめる。
あ、あざといー!
溢れそうになった色々な物をぐっと内頬を噛んで堪えていると、これまで黙っていたベネディクトが手を伸ばし、そろりと子竜の頭を撫でた。
少し気になっていたのだろう。子竜はその手に身を擦り寄せる。その様子にベネディクトは頰を緩ませると更に撫で続けている。花が飛んでいるようで、見ているこちらも微笑ましい。
いいな美青年は。何をしても様になる。
そうしながら歩いていると列の中央あたりにいたハルイチさんがこちらに歩いてきた。
「おいベネット、預けていた我の……何だその竜は」
彼はベネディクトに用があったらしいが子竜を見つけて立ち止まり、まじまじと見つめる。
「アカリに懐いた」
「懐かれた」
『キュイっ』
「……そうか」
答えると彼は深く追求するのは止めたのかはぁ、と息をついてベネディクトにさっきの続きを言う。
「預けていた我の旗を出してはくれないか。そろそろ手元に置いておきたい」
「ん、了解」
旗って何だ? あのパタパタするやつか? てかそんなの今必要?
それが何でハルイチさんに必要なのか子竜と一緒に首を傾げているとベネディクトは突然何もない空間に手を伸ばした。
するとそこが歪み、あっという間にその手を呑み込む。
「『!ら』」
思わず硬直する俺と子竜をよそに彼はそのまままさぐるような仕草をすると何かを見つけたのか今度はずず……と手を引き出してくる。
その手は長い棒のような物を掴んでいて、それが全部出てきて旗だと分かった。
そう、旗だ。それもけっこうデカくて全長がベネディクトの背よりもあるやつだ。
「ほら」
「すまんな、ありがとう」
何事も無かったかのようにそれを受け取り、列に戻っていくハルイチさん。というかその旗何に使うんだあとベネディクトのアレは何だったんだ。
「ん? ああ、アレか?」
コクコクコク。
子竜と一緒になって頷く。すると彼はまた空間に手を伸ばし、歪ませながら言った。
「コレな、空間魔術の応用版。魔力で異空間を作ってる」
再び手を突っ込んで取り出す度に魔銃やら本やらお菓子やらが出てくる出てくる。どんだけ入ってんだとばかりに出てくる。
「……凄いな、空間魔術って」
それを眺めながら思わず溢すとベネディクトはだろ? と笑った。
それから少し歩いていると、急に腕の中の竜が落ち着きなく辺りを見回し始めた。
そんな様子も可愛いけど正直けっこう重いからあまり動かないでいてほしい。歩かせようとしても歩幅の違いで距離ができてしまうので抱き上げたが、両手で竜を抱えながら歩くのは中々体力が要る。
「おーい、あんまり動かないでくれよ。腕が痺れる」
『キュ……。ッ!? キュ、キュキュイ!』
「え、ちょ、どした!? 暴れんな!?」
『ギャオン! グガァ!!』
「ルリまでどうしたんだい!?」
突然鳴いて暴れだした子竜を抱えておろおろする。いやほんとに何事。トイレ? ご飯? 違うよな、じゃあ何だ!?
ランのところのルリも最終形態になって何かを威嚇するように咆哮を上げだした。
……ん? 威嚇……?
嫌な汗がたらりと垂れたその時
ドゴォォォォォン!!!
『グォォォオオオ!!』
一体の竜が洞窟の壁をブチ破って現れた。かなりデカい。
正直こんなのは予想してなかった。壁破るとかどんだけ狂化されているんだ。
腕の子竜を隠して刀を抜こうとしたがそれと同時にまた別の音が聞こえた。
ガラガラッ
「わぁ!?」
足元が壁が崩れた衝撃で崩れ、ランの身体が傾く。
「ランっ!」
手を伸ばしてその手を掴んだ、と思ったのも束の間、今度は俺が足場にしていたところも崩れ、傍に置いた子竜ごと空中に放り出された。
あ、ヤバい。
とっさに掴んだ右腕でランを、左腕で子竜を抱き寄せて力を込める。
ふと顔を上げるとこちらに手を伸ばすベネディクトが見えた。彼の存外綺麗な手はしっかりと俺の服を掴んだが、それでも浮遊感は止まらない。
ワーナーさんが青褪めてこちらに飛び降りるのが見えたところで、俺はぎゅっと目を瞑った。
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