第19話 酒場のおっちゃんはフレンドリーなのがお約束
昼の酒場はとてつもなく混み合っている。
あっちのテーブルでは仕事終わりらしい冒険者のグループが真っ昼間から酒盛りを繰り広げ、こっちのテーブルてはエルフの一団が何やら激しい議論で盛り上がり、すぐそこのカウンターでは休憩中らしい兵士二人が大きなホットサンドに齧り付いている。あ、それ美味そう。
「やっぱデカい街は違うな……」
ランに昼食の調達を任されて酒場に降りてきた俺は祖国のそれを思い出してぽろりと言葉が零れる。
「なんだい兄ちゃん。もしかして田舎の方から出て来たのかい?」
聞かれていたらしく、カウンターの向こう側で調理をしていた中年の男性に声を掛けられた。服装を見るにおそらくコックだろう。
田舎者丸出しの発言を聞かれていたとあって、少し顔が熱くなる。恥ずかしい。耳までは赤くなっていないことを祈る。
「はい。和ノ国から出て来て、こっちに入ってから今日で三日目なんですけど、やっぱり人混みとかには慣れませんね」
恥ずかしさを誤魔化すように笑って答えると彼は陽気にガハハと笑うと手に持ったフライパンで肉を焼きながら続ける。
話しながらだが、そのフライパンさばきは手慣れていて、彼の料理の上手さが伺える。
……てかあんな大きなフライパンよく片手で出来るよ……。俺だったら両手じゃないと流石にあんなの扱えない……。
「となると入って来たその日にあの東の港の海竜種襲撃事件か。人は西の方から入って来るのが普通だから旅人はあまり巻き込まれてないって話だが、商船に乗せて来てもらった奴は散々だったらしいな。お前さんは無事だったか?」
「俺も商船に乗せて来てもらったクチですけど、入ったのは朝でしたから。この通り、無事ですよ」
自分から巻き込まれに行きはしましたけど。おかげでもっとデカい事に巻き込まれることになりましたけど。
心の中でそう付け足すが口には出さないのは、昨日の今日と街を歩いて分かった事の内に、自分はどうやら有名人らしいということがあるからだ。
半分英雄視されているらしいが、俺としては自分がやれる事をやっただけなのでちやほやされるのはくすぐったい。
てかちょっと話が誇大されているところもあって軽く羞恥プレイだ。
ナンデスカドラゴンスレイヤーッテ。
「そいつはよかった。あの時は刀使いの旅人が竜のほとんどを斬り伏せたと聞いたが、あんなのに一人で挑むなんて中々の強者だよな。
くぅ〜っ! 一度見てみてぇなあ。旅人だったら多分ここの宿を使うはずなんだけどなあ」
「……この人混みです。紛れてるんじゃないんですか?」
「それもそうだよなぁ……。おっといけねえ、兄ちゃん注文だろ? 何がいい」
「あのホットサンドを四……いや五つお願いします」
「あいよ」
雪華を袋に入れておいてよかったと思いつつ男性に注文をする。
同時にフライパンが強く揺すられ、中の肉が豪快にひっくり返された。
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