第18話 買い物は計画的に
「やー、ランさん買い込んでたねぇ」
ベッド腰掛けているメイにそうだな、と返す。
ランにその量の薬草は持てるのか聞くと、薬とかにしてあとは押し込めばなんとかなると言っていたが。
俺は断言しよう。絶対無理だと。押し込めるとか言ってるやつが一番駄目なパターンだって知ってる。
……明日にでもメイに空間魔術と重力魔術をかけさせよう。
今日の心配事は未来の自分に丸投げしてのびをした。
明日は明後日の出発に向けて身体を休めろと言われたが、どうせ彼はまた薬草や薬を求めて街へとくりだすのだろう。きっとまたフラフラになるだろうからこっそり付いて行って、丁度いいところで助けてやろうかと思いながら今日の彼の姿を思い出して笑みを零す。
「ま、どうへ明日も懲りずに買いに出るだろうからな。一日何もしないのも暇だし、尾行するか」
「よしきた気配遮断は任せろ」
ノリのいい妹を持つとこういう時本当に楽しいと、身体を休めるということは思考の彼方に忘れ去って思った。
そして迎えた翌朝。
「こんな朝早くなのにぱっちりおめめで部屋から出てきました。……なんか髪濡れてるけどいいのかなどうぞ」
「了解、そのまま尾行を続けろ。あいつ意外とガサツなのかなどうぞ」
俺にも出来るような簡単な通信魔術でメイと連絡を取り合う。道具となるのは手首に巻いたブレスレットに通されている宝石だ。
俺はランよりある程度距離を取って、メイは魔術で気配遮断をしているためずっと彼のすぐ後ろをついていく。
遠目に見ても、日が昇り始めたばかりの時間だというのにランは軽い足取りなのがよくわかる。
ちなみに俺は師匠の元での修行のおかげで朝には強い。特技は三秒で寝ることと時間ピッタリに起きることです。
……この特技はなんかちょっと虚しいな。もっとこう……カッコよくて女の子ウケしそうなのがよかったな……。
「さっそく薬屋に入りましたどうぞ」
「よし待機だ。いいな、大量に買い込んでフラフラしてるところでカッコよく登場だからなどうぞ」
「わかってる、決めポーズ付きでしょどうぞ」
「流石我が妹兄は誇らしいぞ」
メイとそんな会話をしながらターゲットに気付かれないように歩く。
市場の客引きを躱すのももう慣れてきた。
右から左から掛かるお兄さん、坊っちゃん、という声に愛想のいい笑みを浮かべて首を振り、それでいて彼からは目を離さない。実家で叩き込まれたこの周りに気を向けるスキル、今こそ使う時……!
気分は昔読んだ本であった探偵だ。となるとお供のパンか何かが欲しい。
ランが店に入ったすきに傍の店で朝食前の鳴る腹を抑える為にパンを買う。ほんのりと甘くて柔らかい、ミルクパンだ。
メイの分も買い、素早く手渡してもしゃもしゃと食べていると……出て来た。
(こりゃまた大荷物で……)
そろそろか、と口に残りのパンを放り込んで咀嚼する。ごくんと飲み込んだところでメイと頷き合い、ランの目の前に身体を滑り込ませた。
計画通り! きっとランはびっくりしてその琥珀色の目を丸くさせるだろう。ちょっとすましたところのある彼のその様子はきっと見物だ。
ふはは、そんな顔が見たいんだよ俺は!
「おはようラン。またフラフラしてるけどなんなら俺たちが宿まで運ぶの手伝ってや」
「あーっ、アカリ君! おはよう、突然だけどちょっと付き合ってくれない!?」
「最後まで言わせて!?」
「え! 何か言った!?」
「あー……。うん、いいよもう」
俺を見た瞬間に彼が叫んだせいでぐだぐだになってしまった……。
メイなんて中々に酷い顔をしている。うん、頑張って尾行したのにな。けど年頃の女の子がそんな顔したら駄目だとお兄ちゃん思うんだ。
計画が一瞬でおじゃんになり静かに落胆する俺たちをよそにランは興奮して言葉を続ける。
「そこの店主に聞いたんだけどね、あっちの店で薬草詰め放題やってるんだって! 一人一種類一袋! メイちゃんも手伝って!」
そう言うなり人の間を縫って駆けていった彼の背中をため息をついて追いかけた。
「重い……」
「言わんこっちゃない」
だってぇ……とぐずるランの荷物を持ってやる。昨日とは違い、朝から買い物をしていたせいかまた随分と重い。
「こんなに大量に買ってどうするんだよ……」
「……君たちみたいな戦士系の旅人や職業の人たちが大量消費する薬一つ作るのにどんだけ薬草が必要だと思ってんの」
「……すみません」
「もー、兄ちゃんジョーシキなさ過ぎ」
仕方ないだろう、俺にはそっち方面の専門知識なんてないんだから。
ランの真顔の返しに半ば開き直りのような言い訳を脳内で吐くが妹の冷たい目に口を引き結んで活気のある宿への道を歩く。
常夏のマリテの首都は今日も例外なく暑い。和ノ国はまだ朝と夜は冷え込む季節だってのに。
(でもまだ、風通しがいい分和ノ国よりはマシか)
流れる汗を拭って、薬草の束を抱え直した。
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