第13話 鍛冶屋の少年

 カフェを出た後、魔術に使う道具を見に行きたいというメイはレヴィさんとハルイチさんに任せ、俺はベネディクトとラン、そしてワーナーさんと共に鍛冶屋に来ていた。


 師匠に貰って以来、鍛冶屋でしっかりと研がずにセルフで手入れをしていた俺の刀は竜を斬った事により、限界を迎えていたからだ。

 それに貰ってからこれまで一度も鍛冶屋に手入れに出したことは無い。

 ……少し言い訳をすると、どの鍛冶屋に見せてもこの刀はうちでは扱えないと追い返された、というのがあるのだが。今思えば霊術に使う霊刀であったからだとわかる。

 ハルイチさん曰く、霊刀故にこれまで何を斬っても自分の手入れでなんとかなってきたが、今回竜のような高等な生物を斬ったため、流石の霊刀もセルフの手入れで修復はできないらしい。



 迷路のような路地を歩き、もう何本目かもわからない橋を渡った先の、ひっそりと佇む扉をベネディクトが押し開ける。

 ぎぎ、と重く開いた扉から、薄暗い店内に光が伸びる。舞う埃が光を受けて瞬いた。

 おお、なんかすごい隠れ家感。なんか仙人っぽい人出てきそう。


「おーい、ハヤト、いるかー?」


 ベネディクトの声が響き、店内が意外と広い事に気付いた。

 その声の余韻が収まっていく中、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきて、バンッと奥の扉が開く。

 ちょっと勢いが良過ぎて扉が壊れていないか心配になった。大丈夫それ? なんかミシッて音も聞こえたけど。


「はいっ、いますっ。呼びましたねっ!?」


 息を切らして騒がしく出てきた少年が元気よく声を上げた。仙人じゃなかった。

 彼は視線はこちらのままにまたバンッと扉を閉める。だからそれ大丈夫? 今度はバキッていったよそれ? あとちょっとズレてない? 俺の気のせい?

 その音に心配そうに扉を見たベネディクトは切り替えてああ呼んだぞ、と笑うと、俺の“雪華せっか”を指差す。


「こいつの刀を研いでもらいたいんだが、頼めるか?」

「かたな、ですか?」


 ハヤトと呼ばれた彼はまじまじと俺が手渡した刀を様々な角度から眺めた。何やらぶつぶつと話している。


「なるほど、霊刀ですね。かなり切れ味が鈍っているようで……。もしや、昨日竜を斬り伏せたという噂の旅人はあなたですね? ははあ、なるほどなるほど……」


 その様子を見ながら、ベネディクトに小さく聞く。


「あのハヤトっていう子、ここの店員なのか? なんかそれにしては詳しい事ごにょごにょ言ってるけど……」

「ハヤトが店員? いんや、あいつは立派なここの店主だぜ。確かに若いけど、腕は確かだ。なんてったってここは王族御用達の店だからな。産まれる前から武器を作ってるようなもんだ」

「まじか。産まれる前からの鍛冶屋って訳だな」


 多分歳は俺より少し下なのになんか手に職付けてるって感じがしてカッコいい。

 ボソボソと話していると、ずっと“雪華せっか”を眺めていたハヤトは、了解ですっ、と快活に微笑んだ。


「お任せください。完璧に研ぎ上げて見せますよ」


 お願いしますと頭を下げると、彼ははいっ、と返した。そして奥の扉を指した。


「ご覧になりますか?」

「いいんですか?」


 開いたままの扉を見て問い返す。鍛冶屋は自分の作業してるところを見られたくない、というイメージがあったからだ。因みにこれは和ノ国の鍛冶屋が大体そうだったというのがある。


「はいっ。同業者はよく、特に霊具なんてなると気が散ったら危ないので見られるのを嫌がるんですけどねっ。

僕はむしろ、相棒がまた綺麗になっていく様を見るべきだと思うんですっ。

普通の武器もそうですが、霊具ならなおさらですっ。その方がもっと武器と心が通じ合えると思うんですっ。だって、霊具には魂が宿ってるからっ」


 ……ああ、本当にこの子は武器が好きで好きで、愛しているんだな。彼のような職人に相棒を託せるのが嬉しくなってきた。

 元気よく、そしてキラキラと目を輝かせて訴える彼にならばお言葉に甘えるという由を伝えた。

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