第12話 占いの店ノーザンクロス

『ようこそ占いの店フォーチュンテイリングショップノーザンクロスへ』


 声を掛けきたのは神秘性に優れた美しい女性だ。

 

 20代であろう雰囲気のある女性は彫りが深く美人以外形容詞が見当たらない。肌は蒼白で艶があり装飾品が映える。肌を露出する衣服も白が基調で気品に溢れる高貴なベリーダンスの衣装に見える。

 

 神流かんなは女性から受ける未知の存在感に飲まれていた。


 自分の全てを見透してるような瞳が此方を見据える、美術品のように触れがたい魅力を感じてしまう。 

 彼女が机の上に置く水晶が更に不思議な荘厳さを増していた。何も悪い事をしていないのに戸惑いが生まれいた神流かんなは言われるがままに座る。


 左手を見せるよう促してくるので出すと、白金色のハンカチのような布地を手にかけられた、そして覆い隠すように握られる。

 

 神流かんなは頭が真っ白になり忘れられていた純情が湧水のように溢れ心を支配する、心臓の早くなる鼓動が耳に聴こえてくる。


『これで魔力の流入と放出を一時的に遮断致しました。魔眼も感知も通りません』


「どういう話ですか?」


『左手の指輪から不安定な魔力や生気の出入りが見えました。良くない予兆を感知したのでお声かけした次第です』


 彼女の口から流れていく言葉が、清流のように鼓膜を通り抜けていく歓喜に震えるような痺れが、脊髄に通り抜ける。


『それと貴方の御身体にバランスの良くない過度の最高位術式が、かかってるように見受けられます。解除して術式を組み直されるがよろしいかと思います』


 見たことが無い、しなやかな仕草をし水晶を手を翳す、まるで美術品の陶器が動くように神秘的で美しい。


 神流かんなは生まれて初めて女性からの浸透するような存在感で動けないでいた。


「何故…見ず知らずの俺に教えてくれるんですか?」


『さあ? 恒星デネブのような貴方の瞳のせいでしょうか? それで貴方の御名前は?』


「俺は天原神流あまはらかんなこの世界では旅人だ……です」


『フフッそのストールは差しあげるわ旅人さん、星が示すわ私は占い師『シグナス』さようなら迷ったら私を選ぶのよ忘れないで』


 気が付くと元の大通りに戻っていた。夢じゃ無いのかと手をみると被せられた白金色のストールをしっかり握りしめていた。


「一人っ子の俺に姉が居たらああいう感じなのだろうか? 今の出来事は秘密という事だろうな」


 神流かんなはストールをポケットに仕舞った。惚けていた神流かんなは目的を思い出す。


『道具屋か質屋を探しに来たんだっけ? 雑貨屋でもいいんだけどなぁ』


 神流かんなが勘を頼りに彷徨き探していると町並みが綺麗になってくる、ようやく宝石や宝飾品を扱う店を見つける事が出来た迷わずガラスの入った店の扉を開いて入る。


『平民の……いえ当店に何用でしょうか?』


「買い取り希望ですけどやってます?」


あらかじめ言っておきますが盗品ならすぐバレてしまいますよ』


「大丈夫だと思います。見て貰っても良いですか」


 神流かんなは宝石付きのネックレス、ルビーの指輪、サファイアの指輪、金のアンクレットと腕輪を拭いてから置いた。


『なんて汚い……いや、これは!』


 専用の布で丁寧に拭きスコープで鑑定し始めた。


『お客様、鑑定が終了致しました。此方の品々は是非とも当店に御売り下さい。この街で1番高値でお買い取り致します』


 さっきと態度がまるで違う、いくらか尋ねるとサービスして大盤振る舞いでまとめて金貨100枚で買ってくれるらしい、これは嬉しい。ん?


 何か顔色が怪しいので、もう一度鑑定を頼んでから見えないように【正直オネスト】、【誠実シンシア】を撃ち込むと店主は嘘を謝り正直に話しだした。


 相場は全部で金貨1200枚位で宝石が散りばめられたエジプトのファラオがつけてるようなネックレスだけで金貨700枚はするらしい破格過ぎる。

 何故嘘をついたか聞くと全部買い取れる持ち合わせが金庫に無く汚い平民が盗んだかも知れないし相場も解らないだろうから騙そうと思ったそうだ。


 宝石のネックレスだけ金貨700枚で売る事にした、店主がどうしても王都に持って行って王族に顔を知ってもらう為に販売したいと正直に言ってきた。

 それに、この街でこの値段のネックレスを買える店は存在しないらしい頑丈な袋をもらい書類に名前を書いて売買契約を成立させ店を出た。


 戻る途中に見付けた服飾店に入ると笑顔で店主が対応してくれた。


普通の事だが買い物したくなる。


 採寸してもらい、学生服と平民服、下着、帽子、マフラー、ベルト、靴下、皮のカバン、皮の袋、布の袋、普通の靴、布の靴、アイマスクを各3セットづつ購入する。


 そしてシグナスから貰ったストールを裁断してもらい一部残して店主に渡し指だけの特殊な手袋を発注した。


 総て雑用屋ハイドに届けるように頼んだ、これだけ買っても金貨2枚もしなかった、チップを中から渡しても中銀貨1枚お釣りがきた。俺は金銭感覚が麻痺していく感覚を受けながら店を出て帰途についた。


 商人が多く居る通りに目をやると倒れてる奴隷が折檻を受けていた、道行く人達は当たり前のように興味なく通り過ぎていく、暗黙で手も口も出してはいけないのだろう。


 テレビで見た交通事故に遭った人を無視して通り過ぎる映像が頭をよぎった。


『赦して下さい、御主人様。次は頑張りますのでお水……お水を少し下さい』。


『やる気だよ死ぬ気でやってねえから力が出ねえんだよ、さっさと中に運べ! 終わらなかったら今日も飯抜きだ! 代わりは沢山居るんだよ!』


 メタボでアラビアンデブな主人に怒られている麻のボロ服の少女奴隷の横には10㎏位の麻袋が30袋も置いてあった。


『今日も……食べれ無かったら…死んで…運ばないと……運ばないと…お父さん………お母さん』


 奴隷少女の身体は思うように動かず、意識が徐々に遠退いていく。奴隷の御主人様が出て来て奴隷が瀕死な様子にやっと気付いた。


『早くしろって言ってんだよ! 無駄飯食い! 演技バッカリ上手くなりやがって!』


 踏みつけて持ってる短い棒で叩く叩く……


「こんにちはー」


 笑顔で奴隷と主人の目の前に立っていた神流かんなの目の奥には怒炎が逆巻いていた。

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