第10話 神経細胞核


『まだ覚えられないのかい? フーッ』


「耳はやめろ! 首も駄目だ! ソコは1番ダメ! 禁止禁止! お前のせいで緊張感が台無しだよ集中力が消滅したわ」


『なんて君は我が儘なのだろう驚いてしまうよ、この僕が』


「お前にだけは言われたくないセリフの1つだよ」


 神流かんなはべリアルサービルの刻印の手解きをしてもらっていた。神流かんな自身が剣も魔法も使えず呪具のべリアルサービルに頼る以上コマンドワードと効用の確認は必須となる。


 べリアルが創り出した、紙と鉛筆の久々の感覚は嬉しいが覚える事が多過ぎて魔法使いは神か? とも思える因みにスマホを創るのは無理というか知らないらしい、多くを望まず必要なとこだけ覚えよう。

 

 神流かんなが詠唱をする事など夢のまた夢だろう。


『この僕の力を使役出来るんだ、もっと誇りを持ち堂々とするがいい、感謝をして崇めてもいい』


 ソファーに座る神流かんなの方を向いたまま膝の上ににチア服の悪魔が堂々と座る。 

 正直邪魔でしかない。邪魔以外の何者でもない。邪魔だ。


「前が見えねえよ邪魔。 いい加減訴えるぞ。」


 ベリアルは神流かんなの鼻の頭に、か細い人差し指の爪を当てた、その鋭く尖る爪が毒々しい紅色に艶目いて光を反射している。


『何に訴えるか知らないが僕はイエス・キリストを告訴した事もある、敗訴だったが君が僕に裁判で勝つには何万年かかるやら』


 ひたすら腹立たしい、よし無視だ。


『君は何してるんだい? 脳に手帳があるとでも思っているのかな?』


「・・・・」


『脳に電気信号が有ることも知らないのだろう? フッフッ』


「・・・」


『一万年前の猿と同じ行動原理なのかい? 笑わずにいられないなフーッハッハ』


「うるせぇ! 雇われ悪魔! ちゃんと教える気があるのか? コッチは一生懸命覚えてんだよ! お前なら何とか出来るのかよ?」


『僕は堕天使だ。今の僕は精神体でいると話したと思うがアストラル体やセレスティアル体になれば君の脳に触れ直接情報を入れられるんだ。それには御主人様、君の許可が要るんだよ』


「危険極まりないな御断りだ! You know?」


『もう1度言おう僕は契約によって君に危害を加える事を禁じられている。誓おう』


 「…………」


 神流かんなはかなり躊躇った後に口を開いた。


「…………クーリングオフは出来るのか?」


『いつでも、消去しよう』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・やってくれ」


 拒否した手前カッコ悪いし恥ずかしい、そんな神流かんなの心の挙動など気にする事もなくべリアルが神流かんなの額に口付けをする、薄くなったように見える溶けるようにべリアルは透けていく。神流かんなには脳を触られるリアルな感触が伝わっていた。

 

 俺の頭蓋骨の中に手が入っていくのが解る。正直物凄く気持ち悪いし吐きそうだ。どうせ額に口付けする必要も無いんだろうな。俺をからかう為にしている気がする。


 そんな事を考えてる神流かんなを余所にべリアルの施術は進行していく。


『君の【神経細胞核】に記憶をプリントする、念のため【シナプス】にもプリントしておこう。……処理は完了だ』


 早かった数十秒で終わった。もうコマンドワードは効果までも解る、ベリアルの言いなりになってるようで悔しいが覚える必要がないのは有り難い。


「早かったなサンキュー。」


『それだけかい? 対価は?』


 腕を組んで首を傾げるべリアルは無表情だが不満そうに見える。


「聞くだけな、試しに言ってみろ]


『朝まで僕とベッドに居てくれ』


 * * ** *** ** ***


「ガードとディフェンスで全然寝れなかった」


 シジルゲートから疲れて出ていく神流かんなの脳にはべリアルのシジルマークの刻印がしっかりと脳を覆うように深く刻まれていた。


 べリアルは神流かんなが出ていった扉を怪しく見つめながら


『愛なら赦される』


 べリアルは紅毒色の小指を咥え虚空に囁いた。


 神流かんながシジルゲートから外に出ると、光の加減か木々の葉が朝陽で青く輝いていた、夜狼を連れて戻るとレッドも目覚めたらしく起きてきた。


『旦那~何処行ってたんですかぁ?』


「チョッと夜間授業と寝技のディフェンストレーニングをしてきた、必殺技からのKOが狙える」


『また訳の解らない事を…もういいですよホントに』


 頬っぺたが膨らんでるが怒っては無さそうだ朝食を作る間オルフェに水をやるよう頼んだ。


 神流かんなは塩で揉んだ牛肉をスライスして、小麦粉にまぶしてから焼き仕上げにチーズを削ってかける、残った夜狼のテールスープに葉野菜を入れて煮て仕上げに塩胡椒をかける。肉の良い匂いが周囲に漂う。


 神流かんなは朝食をレッドに出して2時間眠らせてくれと頼んで眠りについた。 少しの睡眠でも眠ると眠らないは全然違う。

 

 神流かんなの目が覚める。 寝起きだが2時間の意味が解らず待ちくたびれたレッドに声をかける。


「朝練しよう」


『へっ?』 


 第一回「朝練で想定シミュレーション」に付き合って貰った、今の俺は刻印シューターとしての資質が強い、というか其しか出来ない。


 夜狼を前に居させて敵の直線上にレッドがいる時の合図と囲まれた時の入れ替わりの仕方を試す。

 レッドが攻撃に入る時に効果付与エンチャントと支援の攻撃を入れる事で危険を減らすと伝える。危険な時は刻印を撃つと前以て話しておいた。


『旦那からの愛の効果付与エンチャントなら、いくらでもドウゾ』


「愛は効果付与してない」


 レッドはシミュレーション自体が珍しいのかノリノリで付き合ってくれた。何パターンか試しておいた、活用出来る格好良い場面が来るかは運次第だ。


「さぁここ迄やっても上手くいくとは限らないのが世の中だ」


『何を言ってるんすか? 明るいのに酔ってるんすか?』


 心の声が言葉に出てしまった恥ずかしい。


「いい天気だなと言ったんだよ」


 さぁクワトロ永久要塞への今日が始まる。

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