第6話 べリアルサービル

 時間は少しさかのぼ


――


『君が来るのは解っていた取り敢えず座りたまえ』


 そう言って宮殿の象牙柱の裏から、姿を表すべリアルが新しい露出の高いチア服を見せつけつつ小さい牙を見せる。神流かんながソファーに座ると横に座ってくる。気にしたら負けだ。


「どうせ話は聞いてたんだろ? 山賊をどうするか悩んでる良いアイデアがあったら出せ」


『僕が地上に降りたのは人間に知を与える為だった。僕に聞くのは賢明だ』


 ベリアルの喋り方は何故かイライラとしてくる、人間の根元を逆撫でされてるみたいだ、しかし知恵を借りる手前怒れない率直にサッサと聞いて終わらそう先をうながす。


『君には既に僕の力を一部を譲渡しているが、少し足そう』


 密着してきたのを押し返す。


「もう少し具体的に言え」


『契約によって君の喉には僕の力の象徴が刻印されている、魔力操作を出来ない君でも詠唱に近い効果を得られる』


「勝手な事をすんなよ取れ!」


『君の腰にあるオモチャを僕に手渡すがいい』


 ベリアルは神流かんなの話をまるで聞いていない、襟のラインを弄りながら渡した鉈を持つと刃の横に息を吹き掛ける。すると刃先が光り扉のマークが浮かび上がる、そして薄く不気味な波紋のような模様が浮き出ると刀身も少し伸び変形した、切れ味はすこぶる悪そうにみえる。


『このオモチャを呪具にした「べリアルサービル」とでも呼ぼうか、君が意識を向けターゲットを決めてコマンドワードを言えば精神魔法が発動する』


「何で精神魔法なんだ? というか解決策と何か関係有るのか?」


 俺の顔を見てスカートの裾を少しめくり上げるコイツは何がしたいんだ?


自由なベリアルは口を妖艷に開き声を紡ぐ。


『使用出来るコマンドワードは【幻聴】【幻視】【精神守護】【混乱】【精心】【浄心】【呪守護】【睡眠】【友好】【改心】【憎悪】【歓喜】【悲哀】【疲労】【思考停止】【無関心】【無思慮】【快活】【起立】【座】【伏】【転倒】【撹乱】【激昂】【忘却】【沈黙】【舞踊】【退却】【行進】【守護】【開心】【隷属】【従属】【急速】【遅延】【誘惑】【幻惑】

・・・・・・・・・・・・・・』


「チョッとストップ! 覚えられる訳無いだろ! わざとだろ……悪いが今回の件にどれをどう使うかだけ教えてくれ」


 べリアルは途中で止められた事にキョトンとしていたが神流かんなにも解るように要点だけを間近に接近して教えた。


『君が望む望まないに関わらず指輪の契約は継続するだろう』


「それはいつまでだ?」


『さあ? この世界が終わる迄じゃないなか?』


「適当に言うな」


 べリアルが顔を更に近付け真顔になる。


『君が僕を精神で拒絶せず受け入れれば何時でも君と繋がれる、何時でも会話が可能だ、お互いの理解も深まり親密性も上がるだろう』


「それは断る! 作戦アリガトよ、じゃあな」


 サッサと入って来たシジルゲートから出て行く、ずっと通話中とかまっぴらゴメンだ。

 ただでさえ四六時中監視されてるようなものなのに俺のプライベートは俺のだ!


 神流かんなは急いで山小屋に戻り納屋に行くと、レッド・ウィンドに声をかけ入れ代わりで中に入りグリルとドズルの前に立つ 。べリアルが言うには扉を開く為に、この2人から殆んどの生気と魂の一部を抜いてほぼ瀕死の状態にしたらしい、のんびりしてると山賊2人は死亡する。


 神流かんなは2人に鉈を、いや「べリアルサービル」を向け点火するイメージで起動ファイアアップさせコマンドワードを言う【隷属スレイブリイ】【快活レジリエンス】【改心リフォーム】【自動守護オートプロテクション】の順に2人の心臓に魔力の刻印を撃っていく。


 終わったので確認すると、俺を主人と認めたようなので縄を解き魚のスープを飲ませてやる。そのまま2人を引き連れて納屋の外に出た。


『旦那どうしたんですか? トチ狂った……訳じゃ無さそうですね』


「レッドお前も少し付き合え」


 縄を解いた俺に驚いたみたいだが、レッド・ウィンドは何も言わずに飄々と付いて来た。


 いつまでも此処に居る訳にはいかない、出て行ったとはいえミホマさんの旦那さんが帰ってくるかもしれない、どんな男だろうとマホとマウのお父さんだ、俺は攻撃したくない。

 べリアルの力が有る内に旅立とう、だがミホマさんの旦那が帰って来て暴力や略奪が出来ないように保険はかける。

 

「レッド、話が有るいいか?」


『いいですよ、何でも聞くっすよ』


 神流かんなはレッド・ウィンドと、これからの事を話しながら歩く、4人で崖下の川に向かい到着すると神流かんなが水面に向けて麻痺レームングを撃つ、すると大きい魚が浮かんできた、カゴに魚やカニや小エビを入れ小樽に川の水を汲み4人で協力して崖の上に上げた。


 神流かんなはベリアルサービルを構え、周囲の警戒も怠らなかった、帰り道で果実や木の実も採り持ち帰った。次の日も、その次の日も同じように作業し備蓄を増やしていった。


「ミホマさん、これでオーケーです。じゃなくて食糧は大丈夫です」


 無くなる前に保存食の増量、そして菜園作りや畑作りをグリルとドズルに指示して欲しいとお願いした。


『やはりカンナさんは魔導師様でしたか』


「魔導師では無いんですが似たような術式らしいので 半永久的に此処は安全に近い場所になると思います」


 何処かの危ない営業トークのようだ、神流かんなが死ぬと命を繋いでるべリアルの刻印も消えて二人は瀕死の状態に戻る。働きながらだから体力が戻るまでかなりの年月がいるだろう。


 ミホマさんだけには後で説明しておこう、ミホマさん達に負担が掛からないようになるたけ死なないようにしないとな。


 薄々気づかれてると思うがミホマさんにレッド・ウィンドと話して決めた、クワトロ永久要塞の城下街へ旅立つ事を伝えた。


 納屋には同志の馬達が既に入って居る、グリルとドズルも少し改築した納屋の一部に住むように命令してあり寝起きしている。荷運び用に馬を1頭連れていくことにした、野宿用の荷物や食材や道具を積む。


 更に念の為ベリアルに宮殿の一角を貸して貰い

水瓶、食材、薬、宝石の一部等をを置いた。当然ミホマさんにも金策用に宝石を何個か渡してある悪魔から奪ったからあまり触らないようにも伝えた。


ーー ーー ーー ーー ーー ーー ーー ーー


レッドと神流かんなは月明かり頼りの暗闇の中で疾走している。


「何匹居るんだコイツら?」


『だから言ったじゃないですか、さっきの洞穴で朝まで野宿した方がいいって、夜狼はしつこいんですよ』


「あんなムカデやゴキんちょだらけの所は、俺じゃ無くても無理だろ」


『旦那! ビシバシ魔法を使って下さいよ』


『チョッと集中しないと起動ファイアアップしないなんて今気付いたよマジで、練習しとけば良かったかな暗いからターゲット取り難いし参ったな、それにしても多すぎないか野生の狼」


 2人は峠を越える道程の暗闇の中、夜狼の集団からの襲撃に遭遇していた。


黄金の指環は月明かりを受けて煌めき行く末を示すように瞬いていた。


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