16 るてるて坊主
さてと、まずはどのような検証を行ってみようか。
メルリンの机の前にどっしりと座り、頭を抱えながら全身全霊を込めて思案する。
だが、やはりろくなアイデアが出てこない。
『ベルディー! 何かないのか?』
『また、人頼みですか? そうですね……、錬金術による合成とかは面白そうですね。凡人と比べて、成功率が格段に上がっているかもしれません。まあ、道具がないからできませんが』
はぁー、相変わらずこいつは役に立たないなぁ。
人のことは言えないような気もするけど。
「フーンさん、家の掃除を手伝ってくれますか?」
部屋の扉からひょっこりと顔だけを覗かせ、メルリンは俺に問いかけてきた。
「もちろん! 今すぐ行くよ!」
今日は待ちに待った雨なので、にっくきリンゴ収穫は延期され、メルリンと楽しく家中のお掃除ができるのである。
ああ、メルリンのような美しい女性に尽くせるなんて、俺はなんて幸せ者なのだろう。
「フーン、お前はそちらの棚を吹け。私は床を受け持つ」
短い幸せだった。
カリアまで掃除をしていたとは……。
「フーンさん、カリアには床以外を掃除させてはいけませんよ。棚や食器を触らせたらぜーったいに、何かを壊しますからね」
「酷い扱いだな……。もう少し、私を信用してくれてもいいと思うのだが」
メルリンの苛烈な発言に傷ついたのか、カリアは口をへの字に曲げ、眉をぐにゃりと寄せる。
「ダメです。前回もそう言った直後に、ヨムル様お気に入りのマグカップを
カリアはぷくっと少しだけ頬を膨らませた。意外と可愛いところもあるようだ。
まあ、それでも、いきなり人の腹にストレートを打ち込むような、暴力女とは仲良くなろうと思えないが。
『あれは、浮雲さんが先にけしかけたからですよね? 枝を持ってやーって』
『そうだったか?』
俺は不都合な事実はすぐに忘れる主義だ。
ストレスからは無縁な生活を目指すには便利な性格だが、ついでに重要なことまですぐに忘れてしまうという欠点がある。
「終わりました!」
俺とカリアがのろのろと手こずっている間に、メルリンはてきぱきと俊敏な動きで掃除をこなし、すべての作業を一人で完遂してしまった。
大した助力になれずに無念である。
点数稼ぎたかったのになぁ……。
***
『浮雲さん、魔物を狩りに行きましょ』
やることがなくなってしまったので、机へ戻って濃厚な熟考タイムを繰り広げていると、まーたまたうるさいのがしゃしゃり出てきた。
『何のために? 魔物ごときじゃ俺の相手にならないのは、すでに検証済みだろ?』
『ですが、ラックの仕様を確かめるのは、魔物と戦うのが一番手っ取り早いと思いますよ』
『俺は忙しいから無理だ。これから、るてるて坊主の大量生産を始める』
ベルディーの言う通りにするのが癪だったので、適当に思いついたことを理由に断った。
『無駄なことにだけは熱心ですよね……』
無駄なものか。
この行為は、雨が降る確率を上げて、メルリンと遊ぶ時間を増やす、有意義な俺の明るい未来への投資だ。
さてと――
ボロ布をカリアの予備ナイフでキリキリ。
暖炉に残されていた焦げた枝の炭でしかめた顔をカキカキ。
そして、仕上げは紐でキュッ。
――よし、一つできた。
これを紐でくくって天井から吊るせば……間違えた。
頭を上にして吊るしたので、これはただのてるてる坊主である。
『わわわ! 浮雲さん、窓の外を見てください!』
『なんだよ、うるさいなあ』
そうやって思わせぶりなことを言って、俺の注意を
ベルディーが暇つぶしに、俺に何かさせようとしている時の常套句だ。
絶対に引っかかるものか。
『いいから、早く見てくださいよ』
『ああもう、わかったよ。見るだけな。でも、外には行かないぞ』
部屋の窓は信じられない光景を映し出していた。
壮絶などしゃぶりだった外は、からっと晴天に切り替わっていたのだ。
いつの間にこんなことになっていたんだ?
『今さっき、一瞬で天気が変わったんですよ!』
『そんなわけないだろ』
何かの見間違いに決まっている。
もしくは、にわか雨ならぬ、にわか晴れだ。
『いいえ、絶対に変わりました。丁度、そのてるてる坊主とやらを吊るしたときです!』
確かにこいつが天気に多少の影響を及ぼしたと言われたら、信じられなくもないが、一瞬のうちに雨雲をすべてかき消せるような兵器ではないだろ。
『あああっ! 見つけました! 浮雲さん、新しいアクティブスキルですよ!』
『マジかよ! どんなのだ?』
『えーっとですね。
『おおー! それはすごいな』
ようやく、そこそこかっこいいスキルが手に入った。
難しい漢字成分が少々足りていないが、そこそこ厨二っぽい名称だ。
戦闘中に雨や雷を引き起こせるのは、俺的にかなりポイントが高い。
流石に「タライが主戦力です!」は恥ずかしすぎるからな……。
あれでは戦いをする気にもなれない。
『雨よ降れって唱えれば、また降ってくるのか?』
『そうかもしれませんね。試してみましょう』
雨よ降れ降れ雨よ降れ~。
ふうんの あまごい!
あめが ふりはじ――めなかった。
呪文の他に、逆さ立ちや瞑想やコサックダンスも試してみたが、外はいまだにからっからの晴天なんで、どれも効果はなかったみたいだ。
『どうなってるんだ?』
『んー、もしかすると、なんらかの切っ掛けがスキルを覚醒させたのかもしれません。そして、それが起動条件になっているかもしれないです』
となると、間違いなくあれだな。
俺はハサミを使ってボロ切れを適度な大きさに切り、きゅっと真ん中で丸くまとめて紐を結びつける。
そして、例に従って天井に逆さまに吊るす。
――じゃーーーーーーーーーーーーーー。
予想的中。窓の外は豪雨に元通りである。
はぁー、とどでかいため息を吐く。
またまたダサいスキルだったようだ。
戦いの最中に、てるてる坊主を作るのは流石に
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ババアの紹介です!
(需要ないとか言わない)
<名前> セリーナ・ヨムル
<種族> 人間
<年齢> 永遠の20代
<身長> 152cm
<体重> 乙女の秘密
<BWH> 10……おや、誰かが来たようだ
口うるさいし、カッとなると躊躇なく暴力を振るうが、所有している奴隷を自分の子供のように思っている優しい老婆である。
(かといって、こき使わないわけではない)
黒く染められた髪を後頭部で丸くまとめている。
現在は短身短足のまんまるばあやだが、本人曰く、若い頃はビューティフルなナイスボディを誇っており、男性にモテまくっていた。
今は引退しているが、昔はかなりの強豪冒険者だったらしく、最愛の武器である大斧と、信頼するパーティーメンバーたちと共に世界各地を回っていたらしい。
<ステータス>
レベル :58
パワー :40
マインド:10
スピード:26
トーク :14
チャーム:18
マジック:11
ラック :12
体の老化により、本来の数値ほどの力を出すことができない。
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