15 お買い物

「えーっと、じゃがいもを20個に玉ねぎを15個。そして、キャベツも3つお願いします!」


「はいよ、嬢ちゃん!」


 メルリンの注文に、八百屋の店主はニッコリと微笑みながら威勢良く返事をした。


「こっちの新鮮なきゅうりはどうだい? 今朝、仕入れたばっかりだ」


「では、それもお願いします」


「はいよ! そうだ、べっぴんの嬢ちゃん! 今日は特別に安くしてやるよ」


「え? 本当ですか?」


「おうよ。2割引で売ってやる。だから、これからもここをご贔屓ひいきにしてくれよ?」


「はい、わかりました!」


 肉屋の店主とも同じような対話を交わしていたような。

 折り紙つきの可愛いはやはり得になるらしい。


 しかし、買うものを増やすのはなるべくやめていただきたい。

 俺の貧弱な腕はこれ以上持てないんだよ……。


「フーンさん、これで全店を回りましたね」


「そのようだな」


「では、帰りま――あっ! 一つ忘れてしまったかもしれません!」


 はわわと慌てながら、メルリンはポケットにしまってある買い物リストを取り出した。


「トマトを買い忘れてしまいました……」


 メルリンが失敗するなんて珍しい。

 まあ、カッパは木から落ちるし、猿も川に流される……だっけか? なので、致し方あるまい。

 それより、記念に彼女のどんよりとした珍しい表情を心のアルバムに刻んでおこう。


「俺が買いに戻るよ」


 ここはかっこよく手伝いをこなして、メルリンの点数を稼ぐチャンスだ。


「本当ですか!」


 きらぴかーんと明るく変貌する表情。

 好感度が上がっている気がする!


「メルリンは、ここで買った食物を見張っててくれ」


 俺はそう言い残し、背負っていた野菜のカゴを下ろしてから市場へと駆け戻った。


 さてと……、どこにあったのかさっぱり覚えていない。

 さらに、雑踏の混み具合が酷くて見回すことすら叶わない。

 メルリンに八百屋の場所を改めて聞いておくべきだった。


 うーむ、とうなりながら頭を掻く。


 これは、しくじったかもしれん。

 引き返そうか。


 しかし……、今から戻って場所を確認するのはダサいよなぁ。


『浮雲さん、あっちですよ。噴水の近く』


『サンキュー、ベルディー!』


 そうだった、俺には第二の頭脳があったのだ。

 ぶっちゃけ、第一の頭脳が役に立たなさすぎて、結局一つしかないようなものなんだが。バカディーも大概だけど。


 俺は急いで八百屋のもとへ向かう。


「おじさん、トマトを10個ください」


 と俺が駆け寄りながら注文すると、店主は白い目で俺を一瞥し――


「そうか。勝手に選んでくれ」


 と、いかにも面倒臭そうに答えた。


 対応に差がありすぎだろ!


 仕方がないので、勘で美味しそうなトマトを選ぶ。

 ぐちゃぐちゃに凹まなさそうで、そこそこ良い匂いを放っていて、しおれてさえいなければどれでも大丈夫だろう。


「これください」


「はいよ、30コペルトだ」


「え?」


 思わず声を漏らす。

 かなり安くないか? 値札には一つ30コペルトと書いてあるのだが。


「30で良いんですか?」


「だから、30つってんだろ?」


 さっさと買えよ、うぜーなーって感じの顔を客に向けている癖にサービスしすぎじゃないのか?

 もしかして、ツンデレ?


 えーっと、30コペルトが10個で300コペルト。今から払うのが30コペルトってことは……10割引? 10割引じゃないか!


『9割引ですよ』


『は? バカにしてるのか? いくらマインドが低いからって割り算ぐらいできるからな。300÷30=10。だから10割引だろ』


『浮雲さんがそう思うのならそうなんでしょうね。浮雲さんの中では。もしかしたら、マインドに全然振らなかったせいで、脳みそのスペースが限られているのかもしれません。こちらで新しいことを覚えるたびに、元の世界で得た知識が失われているかもです』


『そんなわけないだろ。前世のこともちゃんと記憶に残ってるぞ。忘れたいことばっかりのような気もするけど。まあ、それはともかく、どうしてこんなに安くなったんだ?』


『多分、ラックが関連しているのだと思います。先程、メルリンさんのパラメーターも確認してみたのですが、浮雲さんみたいに極端にかたよってはなかったものの、彼女も相当多くラックに振られていました。そして、彼女もそれなりの割引を受けていたので、そういう理屈ではないかと推測しています』


 格安でトマトを手に入れた俺は、スキップしながらメルリンのもとへと戻った。


「はい、お釣り」


 余ったコペルト銅貨と銀貨をメルリンの手のひらに置く。


「ありがとうございました、フーンさん。ですが、どうしてこんなにたくさんのお釣りが……?」


 彼女は目をぱちくりと瞬かせている。


「それはだな、俺の巧妙な値切り話術に言い負かされた店主が、おいおい泣きながら安くしてくれたんだ。いやぁー、メルリンに見せたかったぜ」


「それはすごいです! 流石、フーンさん!」


 完全に信じ込んでいるらしく、メルリンは尊敬の眼差しを俺に注いでいる。


『調子に乗りすぎると、後々痛い目を見ますよ……』


 それは、そっくりそのままお前に返したい言葉である。


 ふむふむ、しかしどうやらラックにはまだまだ隠された活用法がたくさんあるようだ。検証するために、もう少しいろんなことにチャレンジしてみるべきかもしれない。


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メインヒロイン(浮雲の願望ですが)の紹介です!


<名前> メルリン

<種族> 人間

<年齢> 17歳

<身長> 169cm

<体重> 49kg

<BWH> 83|55|85


 誰にでも笑顔で対応できる天使のような美少女。常にポジティブを心がけており、つらいことや悲しいことにも頑張って耐えられる強い精神力を持つ。でも、怒ると結構怖いらしい。


 掃除、料理、洗濯などの家事ならなんでもござれ。ヨムル、カリア、浮雲と比べると主婦力が格段に高い。


 容姿に恵まれており、整った顔立ちと輝かしい瞳を持つ。長く伸ばされた艶やかな茶髪は、赤い糸でポニーテールに括られている。


 赤ん坊だった頃に捨てられた所をヨムルに拾われたので、苗字は無い。


<ステータス>

レベル :12

パワー :5

マインド:7

スピード:4

トーク :9

チャーム:12

マジック:3

ラック :21

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