14 繁華街デート

「勝ったぜ! よっしゃあーーー!!!」


 勝因はともあれ、初勝利だったので思わずガッツポーズをしてしまう。


『ここまで酷くても勝ててしまうんですね……。負ける方が難しいかもしれないです』


 ――ごつん。


 いててっ、頭の上に何か硬い物が落ちてきたぞ。

 地面から拾い上げると、それは何やらオレンジ色の粉が入った瓶だった。


「フーン、大丈夫か?」


 気絶から回復したカリアが坂を駆け上ってきた。


「え? あ、うん。大丈夫だけど」


 カリアは俺から瓶をがしっと取り上げる。


「お前が、これを手に入れたのか?」


「そうだ」


「運がいいな。これはキティーフラワーの花粉だ」


 あれ?


『俺が倒したのは、タイガーフラワーじゃなかったのか?』


『上位系の魔物を倒すと、それの下位系のドロップアイテムも落ちるみたいです』


 なるほど、そういうことか。


「今すぐこれを届けに帰るぞ。ヨムル様が待っている」


 カリアは大切そうに扱いながら、瓶をポケットに保管する。


「オッケー!」


 俺がぐっと親指を立てると、彼女は怪訝そうに眉をしかめた。

 こっちでは親指を立てる風習がないらしい。


***


「あー! また転んだんですか?」


 ひょこひょことヒヨコのようにカリアのもとへ走り寄るメルリン。

 毎度毎度、仕草が可愛い。


「今回は私の不注意ではない。フーンの仕業だ」


「も~、人のせいにするのはいけませんよ、カリア。見かけによらず、ドジっ子さんなんですから」


 帰ってくるたびに大怪我している割には、やたら強いなと思っていたら、毎回転んで自爆していたのか。

 思わずぷぷぷと笑いをこぼすと、カリアがぎろりと鋭い横目で俺を射すくめた。

 ご、ごめんなちゃい。


「で、花粉は手に入ったのかい?」


 ババアがよたよたと自室から出てくる。

 こちらはヒヨコではなく、オランウータンっぽい。


「はい、こちらです」


 カリアがオレンジ色の粉が詰まった瓶を差し出すと、ババアはうおひょーっとマヌケな声を上げ、ひったくるようにそれを手に取り、じろじろと満遍まんべんなく中身を拝む。


「……信じられん。これは本物じゃないか」


「ヨムル様、早くリンゴの木にそれを!」


「そうだね、メルリン。でも、まずは下準備をしないといけないよ。みんな手伝ってくれ。この粉を水に溶かして、エキスを作るよ」


***


 毛虫騒動は無事に収束した。

 食い荒らされた葉っぱはみるみると再生し、リンゴの木たちはこれまで通りの頻度で果実を実らせている。

 そしてあれ以来、カリアは俺を街の外での薬草狩りに誘うようになり、その合間に簡単なナイフ術を手取り足とり、繰り返し何度も教えてくれた。

 物覚えがわるくて、すみません……。


 今ならラックに頼らずとも、単独でキティーフラワーを倒せるような気がする。

 多分だけど。


 彼女の俺に対する態度の硬さも、ダイヤモンドからコンクリート程度まで降格している。

 これからはもう少し、仲良くやっていけそうだ。


 とまあ、カリアとの関係はそんな感じなのだが、こういったどうでもいい事象は置いておくとして――


 今日はメルリンとの進展が起こるかもしれない日だ。


「おっかいもの~♪ おっかいもの~♪」


 ふふふん、と楽しそうにメルリンは鼻歌を奏でている。


 冬を越すための食材を市場で買い集めてこいとババアに命じられたのだ。

 メルリン一人だと多大な量を持ち帰れないので、必然的に俺が付き添うことになった。

 カリアを付き添いとして連れて行くのは、彼女の転び癖を考慮すると、リスクが高すぎるからな。


「フーンさんは繁華街に行くのは初めてですよね?」


「言われてみれば、そうだな」


 カリアと薬草狩りに行く際に、わいわいと賑わっている横を通りすぎたことはあるが、実際に中を訪れたことはない。

 ちょっと、わくわくしている。


「でしたら、少し遊び歩きませんか? 私がフーンさんを案内してあげます」


 あまり帰りが遅くなるとババアに叱られそうだが、少しだけなら問題ないだろう。


「ああ、そうだな。俺も街中の雰囲気ってのを見てみたいし」


 よっしゃー、デート成立!

 買い物の前に町内観光スタートである。


***


「フーンさん、あれがこの街バリーの名所である国内最大級の噴水です!」


「おおー」


 噴水から飛び散る水がメルリンに襲いかかる。

 す、透けそう。直視できない。


『もう少し、まともな感想はないんですか?』


『いや、だって水鉄砲を地面に埋め込んだようなもんだろ? 噴水自体は別に大したことない』


『浮雲さんの感想を聞いたわたしがバカでした……』


 バカディーもようやく己の馬鹿さ加減に気づいたようだ。

 反省してしばらくの間は静かに自重していてもらいたい。


「フーンさん、あれがバリー名物の闘技場コロッセオです!」


「おおー」


 頑丈そうな石造りだ。

 周壁に沿ってたくさんの翼が生えたライオンっぽい魔物の像が設置されている。

 日本にある野球スタジアムとまではいかないが、こちらの世界で見てきた建物の中ではおそらく一番大きい。


「ここは年に一度の闘技大会が開催される場所なんです。そこで勝利した人は国を外敵から守るために戦う、八勇士の一人になる権利をもらえるんです。すっごーく、名誉なことなんですよ!」


 凄さを動作で伝えようとしたのか、メルリンは両腕をばーっと広げた。

 可愛い。


「カリアとかも出るのか?」


「はい。去年は惜しくも決勝で敗退してしまいましたけど」


 あいつのことなので、多分、最後の最後でドジを踏んだのだろう。


「そして、あれがよりどりみどりの売店が集まるネルン大通りです!」


「おおー」


 凄い人混みだ。

 俺の美人捜索眼が捗るぜ!

 まあ、メルリンにかなう女はいないだろ――


 で、でかい……。


「フーンさん? 大丈夫ですか?」


 のほほーんと鼻の下を伸ばしている俺の顔先で、手を上下に振るメルリン。

 いかんいかん、うかっり妄想に耽ってしまっていた。


「私たちの目的地もネルン大通りですよ。ここでは毎日、新鮮な野菜やお肉が売られています」


 楽しいデートが終わってしまうのは残念だが、かれこれ一時間は歩き回ったし、そろそろ買い物を済ませに行くか。


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今回はカリアの紹介です。


<名前> カリア・ヴェネス

<種族> 人間

<年齢> 18歳

<身長> 165cm

<体重> 41kg

<BWH> 72|53|76


 一目見ると孤高の美少女、二目見ると人付き合いが苦手なドジっ子である。

 異性交遊に疎いので、浮雲とどう接すればいいのかがイマイチわからず、ついつい彼を不沙汰に扱ってしまっている。


 緑色の髪を短く切っているのは、戦いの時に邪魔にならないようである。

 ラックを除いた戦闘力は浮雲の一万倍あたりである。


 メルリンの隣に立つと、胸囲のサイズを比べられてしまうことを密かに気にしている。


 実は名家の一人娘だったのだが、ギャンブル好きな父親が破産してしまい、奴隷としてオークションに出されてヨムルに落札された。


<ステータス>

レベル :18

パワー :20

マインド:13

スピード:26

トーク :5

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