13 初めての狩り
キティーフラワーの残骸からナイフを抜きながら、カリアは呟いた。
「……落ちないな」
既に数100体は倒している。
キティーフラワーは何気にキュートな顔をした、二頭身マスコット的な雰囲気を持つか弱い魔物なので、断末魔の悲鳴を上げさせるたびに罪悪感が溜まり、俺の腹はもう
一方、カリアは依然として仏頂面を崩していない。
見た目通りの冷血な女だ。
『俺のラックなら一発で落ちるんじゃなかったのか?』
『う~ん、おかしいですね。多分、浮雲さんがとどめを刺さないといけないんだと思います』
そうなのか。
でも、仕留めようにもカリアが強すぎて、俺が攻撃できる前に彼女が先制攻撃で敵を一掃してしまう。
何か、良い案はないのだろうか。
「カリア、二手に分かれて狩らないか? その方が効率を上げられるはずだ」
「ダメだ。ここらにはもっと強い魔物もいる。私がいない状況でお前がそれに出くわしたら、殺されるぞ」
先程までなんの役にも立っていないので、彼女は俺の戦闘能力を相当低く見積もっているようだ。
戦闘中に無言で彼女の
どうしてもカリアから離れられない。
「こうなったら……」
最終手段だ。
地面に落ちていた尖った枝を拾い、キティーフラワーと戦闘しているカリアの背後に回る。
隙やり! と、枝を――
――ぼこっ!
「うぐっ……」
は、腹をグーで殴られた。
俺の枝はカリアをかすってすらいないのに……。
「何をしている?」
こいつを戦闘不能にして、その間に敵を狩る策だったのだが無事失敗。
無念である。
『そういえば、俺に攻撃は絶対に当たらないんじゃなかったのか?』
『あれは攻撃ではなく、ご褒美として認識されているようです』
俺はマゾじゃないぞ。
痛いのはごめんだが、諦めるわけにはいかない。
俺は落としてしまった枝を回収し、カリアに再び襲いかかる。
「一体、どういうつもりなのだ!」
彼女はさっと軽く身をよじって躱す。
「悪いがお前にはここで死んでもらう!」
うおりゃー、ともう一振り。
「貴様、正気か?」
「おりゃおりゃおりゃおりゃ、どかーん!」
全然当たらない。絶妙な身のこなしだ。
「おい、ふざけるのをやめないと……きゃっ!」
彼女らしからぬ可愛い悲鳴を上げ、カリアはつるりと転んで、おむすびのごとく坂を転がり落ちていった。
ふっ、勝ったな。
「さっさと今のうちにキティーフラワーを――」
見つけた。
振り向いたら目の前にいたのだ。
しかし、様子がおかしい。
これまで戦ってきたのと比べて、かなり図体がでかくなっている気がする。
にっこりと微笑んでいて、無害だったはずの口には無数の牙が生えており、目つきも前の個体のにんまりとしたものではなく、殺したくて仕方がないとでも言いたげに真っ赤に血走っている。
『あれは、上級魔物のタイガーフラワーですよ』
『なるほど。いや~、どうもやけに強そうだなって思ったんだよ』
グルルルル、と怪物は舌舐めずりをしながら俺へ向かって一歩踏み出す。
「カリア! 助けてく……」
彼女は坂の下でぴよぴよぴよとマンガチックに気絶していた。
やっべーーーーーーー!!!!!!
『ベルディー、なんとかしろ!』
『だから大丈夫ですってば。向こうの攻撃は当たらないんですよ?』
そんなことはわかっている。でも、怖いものは怖いのである。
「ギャアアアゥァ!」
飛びかかると同時に、俺の脳天を狙ってかぎ爪を振り下ろすライオンフラワー。
ええい、こうなったらやけだ!
俺はその一撃を相殺しようと木の枝をぶっこむ。
ぐさっ、と痛々しい音が響いた。
目を開くと、俺の枝は真っ二つに折れていた。
死神の鎌のようなライオンフラワーの二本の鋭いかぎ爪は、綺麗に俺を避けて両側の地面にぶっ刺さっていた。
そして、俺の目の前には、鼻息を荒く立てているライオンフラワーのおぞましい顔が――
『ほら、当たらなかったですよ?』
生きた心地がしねぇー!
べちょりと腐った肉のような悪臭を持つ涎が、俺の頭上に落ちた。
『おー、ついてますね! 粘膜が肌にしみて、防御力が一時的に上がっていますよ!』
誰か、このバカディーの電源を切るスイッチを俺にくれ!
『早く今のうちに攻撃を仕掛けましょう。敵は攻撃が当たらないことに困惑しています!』
魔物はもう片方の手で何度も俺を引っ掻こうとするが、どうあがいても爪が俺を避けるように円を描き、真横の地面に落ちてしまう。
攻撃自体はかすってすらいないが、精神的なダメージが強すぎて、俺はもろにちびってしまった。
今にも失神しかねないこの状況で、敵に反撃を加えるのは少し無理がある。
『何をしているんですか? カリアさんが目を覚ましてしまいますよ?』
『こ、怖くて体が動かない』
『はぁ~、本当に残念な男ですね……』
そんなことを言われても、俺には数ミリ後ずさりするのが精一杯だ。
「グギャオルルルルルララララララ!!!」
一向に攻撃が当たらなくて、いらいらが最高潮に達したのか、ライオンフラワーは血迷った叫びを放つ。
そして、奴は俺にボディプレスを噛まそうと上空へ
運悪く真上を通過していた、でっかいコンドルのような魔物に激突してしまい、両者は華麗に
つまり――
――勝ったみたいだな、ガハハ!
あっさりすぎて、拍子抜けしてしまう。
『まあ、俺が強すぎるんだし、仕方がないな!』
『……さっき言いましたが、あえてまた言います。本当に残念な男ですね!』
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ここから、少しずつ主要キャラクターが増えていく予定なので、一人ずつプロフィールっぽい何かを書いていきたいと思います。
まずは、主人公の
<名前> 田中
<種族> 人間
<年齢> 17歳
本作の主人公。不運に多大なコンプレックスを抱いており、転移した際にポイントを全てラックに注いでしまった。
臆病なので積極性が薄く、物事に自ら挑もうとする意志がまるで感じられない。結果、いつも自分のラックに振り回されてしまう。
全体的に残念な人である。
<ステータス>
レベル :1
パワー :1
マインド:1
スピード:1
トーク :1
チャーム:1
マジック:1
ラック :94
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