なつかしやお泊まり会
お題:「お泊まり会」「暴走」「恋バナ」
忘れもしない。あの日のお泊り会のことをふと思い出した。
僕は幼馴染の藤川と田口達とお泊り会をしたのだ。
場所は田口の家。コンビニも近いし、三人でよく田口の家に集まったものだ。その日だって、いつもと変わらないはずだったのに……。
「なぁ、俺らってさ。なんで彼女できないんだろうな?」
藤川が不意に発したこの一言がきっかけで、田口が暴徒と化した。田口はもちろん、僕も、そして藤川も、彼女いない歴=年齢であるヤツラだった。
だから、その言葉は僕らの間では禁句だった。口にした瞬間、目の前の高い現実に打ちのめされてしまうと思うから。その暗黙の了解を、奴は破ってしまったのである。
バカみたいと思うかもしれない。しかし、僕らにとっては破ってはいけない鉄の掟だったのだ。
藤川のせいでリミッターが外れた僕らはその日の夜中、延々と恋話を繰り広げた。
あの日話したバカみたいな話は、何故か今、僕の頭の中に強く焼き付いている。たわいもない、どうでも良い会話のはずなのに。
あれから40年が経つ。
なんだかんだで僕らもあの特とは変わった。
三人ともなんとかお嫁さんを見つけて結婚できた。
田口なんかはたまに会うときはいつも奥さんの愚痴ばかりだ。
家庭の話や仕事の話ばかりが多くなって。
昔みたいなバカな話は、三人とも、あまりしなくなった。
たまにはあの日のお泊り会のような、たわいもない会話をしてみたい。けれど、今となっては中々できなくて。
僕はそんな懐かしき日を振り返りながら、お猪口に入れた酒をぐっと飲んだ。
ふっとため息を吐いて立ち上がる。このへんにしとかないと……明日に響くといけない。
――明日は藤川の葬式なのだ。
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