18 でもきっとうまくいく
写し鏡の間で出逢った二人は僕と見た目が瓜二つだった。
ただ服の色が一人は赤で一人は青だった。
僕の服の色は紫なので三人は服の色で見分けることができた。
赤い服はエース、青い服はシンディというなまえだった。
三人の中では僕、ピートがなぜか一番道に詳しいので、便宜上リーダーを任されることになったんだ。
「よろしくね」
そう言って手を差し出すと、エースはすぐさま手を両手で握り返しながら、
「こちらこそ、よろしくお願いします」と言った。
とても礼儀正しい、好青年って感じだ。
一方、シンディの方はなぜか以前にもどこかで逢ったことがある気がしていた。
しかしどうしても思い出せなかった。
「よろしく」
そう言って手を差し出したが、「あぁ」と手を軽く上げるだけで、握手には応じてくれなかった。
どうも人見知りのようだ。
でも敵意は感じない。
こういう時は多少強引に踏み込んだ方がいいんだ。
僕はその手を素早く両手で包むように握った。
シンディは少し戸惑ったようだったけど、照れた素振りで目を逸らしながら、
「よ……よろしく……」と言った。
シャイな奴みたいだ。
「みんな、揃ったみたいだね」
その声に三人が振り向くと、そこにはヒューポーが背中の羽をはばたかせて飛んでいた。
「ようこそシャトー・ドゥ・ファントーム、幻の城へ」
「シャトー・ドゥ・ファントーム?」
シンディが不思議そうな顔で聞き返した。
「そう、ここ月の国は創造を司る国。君たちの住むファントメアの世界を形創るありとあらゆるものを創り出している所だ」
ヒューポーは僕たちの周りをくるりと一周しながら説明を続けた。
「しかもその創造の源となるのは世界中の人々の夢のエネルギーなんだ。君たちも夢を見るだろう? でも朝目が覚めると確かに見たはずの夢を思い出せないことがあるはずだ。それはこの幻の城の最上階にある夢のプリズムによって吸い取られたからなんだよ。そして集めた夢のエネルギーを増幅して世界を創り出しているのがシャトー・ドゥ・ファントームというわけさ。つまりファントメアはすべて人の夢でできている」
ヒューポーは三人の目の高さまで降りて来て、一人ずつ顔を見渡す。
「僕たちはどうして集められたんだ?」
エースがすかさず聞くと、それには答えずにヒューポーはこう言った。
「ファントメアは実はひとつではないんだ。君たちの数だけ世界は存在し、同時並行で実在するんだよ」
「パラレルワールド?」
僕がそうつぶやくと、エースとシンディが僕を不思議そうに見る。
「そう、平行世界とも言う。そのすべての世界をシャトー・ドゥ・ファントームは創り出しているんだ。だから月の国の危機は、すべての世界の危機でもあるというわけ」
そう言うヒューポーに、エースが一歩進み出て質問した。
「そのパラレルワールドが、この写し鏡の間でひとつに繋がっているってことかい」
「そう。世界は人の数だけあるけれど、その世界を創り出す月の国とシャトー・ドゥ・ファントームだけは唯ひとつなんだ。今、ゴルティスが攻めて来て、この城は占領されつつある。このままでは、すべての世界が悪夢に創り変えられてしまうんだよ」
ヒューポーは忙しく飛び回りながら言った。
僕は二人の方に向き直り、決意に満ちた顔で言った。
「わかったよ、ヒューポー。君とここにいる三人で力を合わせてゴルティスから城を取り返し、それぞれの世界を再生しよう」
「よし、やろう!」とエースが拳をあげる。
「はい!」とシンディがうなずく。
「……ありがとう」
そう言いながらヒューポーは幻の城の聖域への扉に向き直った。
そして両手を掲げると、何か呪文のような言葉を囁く。
すると重々しい地響きと共に扉が開き始めた。
「さぁ、行こう!」
ヒューポーに促されるまま、僕たちは最上階を目指して駆け出して行った。
その勢いとは裏腹に何か一抹の不安が僕たちの心を鷲掴みにしていた。
それが何なのかはわからない。
でもきっとうまくいく、そう自分に言い聞かせたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます