エレスィカリヤ村の少女達
クリーク達と別れ自室へと戻って来た俺は、それからタップリ2日間休息する事にした。
……と言うのは嘘だ。
ベッドに倒れ込み、2日間殆ど動く事が出来なかったんだ。
勿論、全然身体が動かせないという訳じゃあない。
それくらい、ベッドから離れられなかったという意味だ。
只管睡眠メインの生活をしている間も、風呂やトイレにはちゃんと行ったし着替えもした。
クウフク様の要望に応えて、雑貨屋「コンビニ」へと買い物にだって行ったんだ。
ただ、1日の殆どを眠って過ごす……その生活が2日間続いただけだった。
やっぱり寄る年波には勝てず、「
1日で回復した、若かりし日が懐かしいぜ……ほんと……。
そんなこんなで……今日!
どうやら体調も、完全復活に近い状態まで回復したようだ。
しかしこれは教訓かな?
「勇敢の紋章」を使用する事は、余程の事が無い限り控えよう。
幸い、これ以上魔界へと赴いて魔族の強者どもと戦う必要はない。
それを考えれば、単純な疲労で体を休める事はあっても、強制的にベッドへと括りつけられる事はもう無いだろうな。
俺はそれを確信して、随分と遅くなってしまった「行動」を開始する事にしたんだ。
俺がしなければならない事。その第一と言うのは……。
魔界へと赴き、メニーナが冒険者となる事を認めてもらう。
と言う事だ。
その為にはまず、本人の了承を得なければならない。
この場合はメニーナを納得させると言う事なんだが……。
まぁ、これに関しては問題ないだろう。
人族に対してどう考えているかは分からないが、少なくとも同じ人族の俺には心を開いている様だし、何よりも村を飛び出して世界を巡りたいと考えているからな。
俺が先日魔王城で話した事……つまり人族と魔族を結び付けるための、魔族側の冒険者としての要請は快く……と言うよりも、望んで引き受けてくれるだろう。
ただし問題なのが……親代わりの長老と、兄代わりのエノテーカだ。
この二人、兎に角メニーナを溺愛している。
二親を亡くして可哀想だと言う気持ちもあるだろうが、それ以上にメニーナと言う人物を愛してるんだろうなぁ……。
隙あらば村を飛び出したいメニーナに目を光らせ、村から出ていかない様にしているからな。
本当なら村の外から来る俺の存在も疎ましいんだろうが、俺が外の世界の話をする事で少なからず彼女の鬱憤も晴れている様だから大目に見て貰えてるんだろう。
でもこれからエレスィカリヤ村に訪れてする話は、とても寛容な態度で接してもらえるとは思えないんだよなぁ……。
はぁ……気が重いな……。
それでもこれは、魔王リヴェリア……リリアとの約束でもあるんだ。避けて通る訳にはいかない。
簡単に身支度を整えた俺は、立てかけてあった剣と盾を装備するとそのまま
そして再び俺は、魔界へとやって来た。
魔界の入り口である「聖霊ヴィスの像」の足元から、そのヴィスから貰った「聖霊の羽根」を使えば瞬時に魔王城へと移動する事が出来る。
残念ながら光の聖霊アレティの力が及ばない魔界では、転移魔法を使う事が出来ない。
だから今まではもっぱら、この場所と魔王城を行ったり来たり……時折この近くにあるエレスィカリヤ村に立ち寄ると言うパターンだったんだが。
これからは、単純にそうもいかない。
魔界を広く回って、少しでも人族に
それは兎も角、今日はそのエレスィカリヤ村へ向かう必要がある。
村はここから、そう離れちゃいない。
俺はゆっくりと歩き出し、目的の村へと向かったんだ。
「やあ、また来たんだな。あんたも物好きな人だ」
村の入り口をくぐると、住民たちは俺に気安く声をかけてくれる。
「ああ、また厄介になるよ」
そんな村人に、俺もまた軽く声を返す。
そんな関係になったのは随分と前になるんだが、そうなるまではもう大変だったな。
人界でも辺境の村と言うのは随分と閉鎖的で余所者には心を閉ざしているもんだが、この村は輪を掛けて酷かった。
もっとも、俺は人族で魔王討伐に来た勇者……歓迎しろって方が無理な話なんだが。
「おや? 今日は随分と軽装なんだな。魔王様と戦う事を諦めたのかい?」
そんな人々の一人が、俺の恰好を見てそう問いかけてきた。
俺はそれには何も答えず、苦笑を返すに留まった。
此処の住人達は、概ね俺の目的を知っている。
それでもこうして俺を受け入れてくれるのは、それが魔族の取り決め……心情に依るところだった。
つまり、「自分の要望を通したいなら、戦って真意を見せろ」と言う事だ。
そして単身魔王城に乗り込んで魔王と戦う……少なくとも会おうとしている俺に、この村の住民たちは好意的だったんだ。
そして何よりも……。
「……さま―――……」
そう……あの、大声を張り上げて近づいて来る……。
「……しゃさま―――っ!」
少女の危機を救った事が、この村に招き入れて貰える大きな要因……だったんだが……。
「ゆ―――しゃさま―――っ!」
その少女は、姿も見えない距離から俺の事を呼び、驚くべき速さでみるみる近づいて来た。
深く済んだ紫色の髪と、それと同じ綺麗な瞳が印象的な少女……それがメニーナの第一印象だろうな。
実年齢は兎も角、見た目は12、3歳の少女だと言うのに、その整った目鼻立ちは人界に居ても多くの目を引く事だろう。
ただし、目を引くのはその容姿だけだからじゃあない。
頭に小さく覗いているのは紛れもなく角だし、その背中にはまだまだ小さいながら翼が生えている。
見るからに魔族……そんな姿を人界で見た日には、そりゃーもう大騒ぎさ。
しかしメニーナの奴……良く俺がこの村に来た事が分かったな?
よっぽど勘が良いのか、それとも鼻が利くのか……もしかすれば、「対勇者用探知機」でもセットされているのかもしれないな。
「ゆうしゃさま―――っ!」
「おふっ!」
そんな事を考えていると、速度を緩める事も無く俺に接近したメニーナは、そのまま俺の身体に飛び込んで来た!
……いや、これは……変形のタックル!?
「メ……メニーナ……。少し加減してくれ。今日は鎧じゃないから、鳩尾へのタックルは冗談抜きに痛い……」
まぁ、彼女が俺に攻撃すると言う事は無く、子犬のように手加減なく突っ込んで来ただけなんだけどな。
ただし、俺が彼女へと言った事は本当で、普段は「聖霊の鎧」を見に纏っているからダメージ何て皆無だったんだけど、今日にいたってはその限りじゃないんだ。
「……あれ、ほんとだ? ゆうしゃさま、鎧着てないね? なんで?」
俺の腹から頭を引っこ抜きそのまま顔を見上げたメニーナが、俺の身体と顔を代わるがわる見てそう聞いて来た。
「今日は魔王城に用事は無いからな。……って言うか、今日はお前に用があって来たんだ」
俺は涙目になりながら、彼女の頭を撫でてそう言った。
その手を気持ちよさそうに受け入れていたメニーナだったが、俺の言葉にまたもや怪訝な表情を浮かべた。
「んん……? 私に用があるの? 何、何?」
普段の俺ならば、彼女に用事があると言う事は無い。
どちらかと言えば、彼女の方が俺に色々と頼み込んでくる事が多いんだ。
もっともそれは、村から出たいと言い出すか、村の外の話を聞かせろと言う事ばかりなんだけどな。
「うん……まぁ、その話は兎も角として……。あの物陰に居るのは『パルネ』だろう? 相変わらず、見つけにくいな」
そんな彼女の質問には答えず、俺はメニーナの背後……と言うよりも、随分と後方の物陰から顔の半分だけを出して此方を窺う人影を見つめてそう言った。
「うん。私がゆうしゃさまに会いに行くって言ったら、一緒に来るって」
そしてメニーナも、後方へと体ごと振り返って“彼女”の方を見つめ。
「パルネ―――ッ! こっちにおいでよ―――っ! 大丈夫―――っ! ゆうしゃさま、怖くないから―――っ!」
えらい言われようだが、確かに俺は怖くないぞ。
何なら、少なくともこの村では人畜無害と言って良いくらいだ。
それを証明するため、俺はパルネの方へと向かって飛びっきりの笑顔を向けた! ……んだが。
それを見たパルネは、ビクッと体を震わせるとすぐさま顔を引っ込めてしまったんだ。
むぅ……失礼な奴だな。
なんてことを考えていたら。
「もう、ゆうしゃさま! パルネを驚かせないで!」
あれ? 俺が怒られる場面だっけ?
子供って……残忍だよなぁ……。
薄っすら浮かんだ涙をさっとふき取り、俺は出来るだけ自然体でパルネの登場を待った。
暫く彼女が隠れている方向を凝視していると、また恐る恐る顔の半分を出して様子を窺って来たんだ。
何? その甲羅に引っ込んだ亀の様な警戒の仕方は?
「もう……仕方ないなぁ……」
そんなパルネを見かねたのか、メニーナはそう言うと彼女の方へと小走りに駆け寄り、手をつないで俺の方へと再び戻って来たんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます