かいとうは間違えてはいけない。


 

 

 

 侵入するなら、活き活きと。

 窃盗するなら、堂々と。

 逃走するなら、コソコソと。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 我輩は、怪盗だ。

 闇より出で、盗みを働き、闇夜に消える。我輩が存在した痕跡すら残さない──盗んだ物は、人知れず消滅したと結論付けられるくらいには完璧に盗んでみせる、プロの怪盗だ。

 俺は、泥棒だ。

 時には器物を損壊し、時には防犯カメラにも堂々と映り込み、時には一般人を装い、獲物の持ち主に取り入って盗んでトンズラ──そんな、リスキーな事も恐れずしてみせる、泥棒の天才だ。

 安易に盗む事の出来ない獲物は、怪盗我輩として。

 安易に盗める獲物なら、泥棒俺として。

 獲物に合わせてギア(人格)を変える、天才で完璧で最高で──げふんげふん。兎に角、我輩がもしも、初対面の輩に自己紹介をする機会があるならば、我輩は胸を張ってこう答えるだろう。

 我輩は、泥棒/怪盗だ。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「今回の獲物は、国望財閥の御令嬢、国望彩葉(くにみいろは)が16歳の誕生日に、国望財閥六代目総帥国望逸夫(くにみいつお)──祖父からプレゼントとして送られた、キリマンジャロの丘陵地帯でしか発掘出来ない超希少な鉱石タンザナイトが埋め込まれたペンダント。孫娘の無病息災をねがって贈られたそのペンダントを国望彩葉は自室に飾っており、盗むのは簡単であり難関である。今回、我輩は〝どっち〟で盗むか大いに悩んだが、深い思慮の末に、〝俺〟で行く事にした」

「ママー、あのお兄さん、何で一人で喋ってるのー?」

「しっ。世の中には色んな人がいるんだから、ジロジロ見ちゃいけません」

「……」

 

 気を取り直して。

 今回の獲物は、国望彩葉の自室にある、タンザナイトのペンダント。俺は国望彩葉に取り入り、自室に客人として招かれ、隙を見てペンダントを盗む。

 ただそれだけ。

 関係者に顔を覚えられてしまうかも知れないが、俺にとって顔とは真実を示すものではない。俺の顔を幾ら世界中にばら撒いたところで、俺が捕まる事は無いからだ。

 色々考え込んで(もしくは話し込んで)しまった為、すっかり温くなってしまったホットココアを胃に流し込み、結構な額のお釣りが返ってくる代金をテラスのテーブルに置き、長時間居座っていた喫茶店を後にする。そうと決まれば、日が出ている内に色々準備しなければならないからだ。

 国望彩葉は、16歳。彼女の誕生日は三月の下旬で、年度が変わって国望彩葉は高校二年生だ。まだ新学期が始まって間も無い為、俺は身分やら名前やらを偽り、転校生として国望彩葉が在籍する高校に転入する。

 国望彩葉の家は豪邸を通り越して最早、城と言っても過言ではないくらいに大きな家なのだが、思春期である国望彩葉の室内とその周辺には防犯カメラ等の防犯対策はなされていない。つまり、国望彩葉から信頼を得て、自宅に招かれれば、盗みを働く事はとても容易なのだ。

 くっくっく、待っていろよ、国望彩葉。お前のペンダント、この俺が戴いてやるからな。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 今日は、転入初日。これから少しずつ国望彩葉との仲を深め、自宅に招待してもらってペンダントを盗もうと固い決意を胸に学校への道を歩む。これから俺は職員室へと向かい、教師からの簡単な説明を受けて、教師と共にクラスへと向かう。そこで格好良くて、尚且つ印象も良い挨拶をビシッと決めて、国望彩葉とのファーストコンタクトを最高の物にしてみせる。そんな企みを胸に宿し、国望彩葉が歩く少し後方で息を潜めて影を薄めて歩いていたら──包丁を持った不審者が現れた。

 

「国望財閥のお嬢ちゃんだな!? 覚悟しやがれ! アンタの爺さんの所為で、オレの人生が……! オレの人生がァァァァ!!」

 

 いきなり現れた不審者は、どうやら国望逸夫に恨みを持つ者らしく、喚き、包丁を振り回しながら国望彩葉へと迫る。周辺を歩いていた同高の生徒も、突然の出来事に身体が動かず、ただ不審者を目で追うだけとなってしまっている。このままでは、国望彩葉は死んでしまう。そしたら、俺の入念な準備もパーだ。俺は、自分が練った計画が崩れるのが死ぬ程嫌いなのだ。

 走り出し、不審者が持つ包丁が国望彩葉に触れる前に不審者の行く手を塞ぐ。第三者が現れても止まるつもりは無いらしく、錯乱した不審者は俺へと包丁の先を向ける。

 俺が今まで、獲物を手に入れる為にどんな用心棒達と死闘を繰り広げてきたと思っている。こんな、素人など、目をつぶっていても勝てる。

 こちらへと伸びる包丁の腹を裏拳で弾き、あらぬ方向へと腕が伸び切る不審者。ガラ空きの肩に学校指定のローファーの爪先を抉り込ませる。痛みが伝わったのか不審者は包丁から手を離し、肩を押さえる。

 

「誰か、警察!」

 

 野次馬の誰かがそう叫ぶ。不審者が再び包丁を握らないように、地面に落ちた包丁を遠くへと蹴り、不審者にアームロックを極めて身柄を拘束。警察は数分で現場に到着し、不審者を現行犯逮捕。警察を前にどう説明したものかと思考を巡らせていると、後ろから国望彩葉が出てきて警察に何かを見せた。途端に警察は国望彩葉にペコペコと頭を下げ、本来なら事情聴取みたいなクソ面倒なイベントに巻き込まれていたであろう俺を、やけにあっさりと解放した。

 有り得ない事態に目を白黒とさせていると、国望彩葉は俺の手を引いて歩き出した。学校へと続く道を、再び歩き出した。

 

「……」

「……」

 

 気不味い。

 不審者を華麗にぶっ倒し、大丈夫ですかお嬢さんと恋に落とさせてやるつもりだったのだが、その直後に現れた警察によってオロオロと慌てる情けない姿を見せてしまったので、どう振る舞ったらいいのかと悩んでいると、国望彩葉の方から話し掛けてきた。

 

「先程は、ありがとうございました」

 

 小さな声で、歩く靴の音で紛れてしまいそうな声量で、国望彩葉は感謝の言葉を述べた。

 

「い、いや」

 

 どうって事ないよ。

 そう言おうとして、口を噤む。どうって事ないというのは、少し違うのではないかと、少し踏みとどまる。行き過ぎた謙遜は嫌味に聞こえるように、ここで変に感謝の気持ちを受け流してしまうのは、もしかして間違いなのではないか。この間僅か数瞬。俺は微笑んで。

 

「──こちらこそ、ありがとう。このままだったら、学校に遅れてしまっていたよ」

「まぁ、それは大変ですね」

 

 クスクス。国望彩葉は、俺の返しをどう思ったのだろうか。恐らく、悪くは思っていないようで、上品な笑みと共に口元を抑えた。

 

「私、国望彩葉と申します。貴方の名前を教えていただいてもよろしいかしら」

「俺の名前は、須田怪兎すだかいと。よろしく、国望さん」

「彩葉でよろしいのですよ? 怪兎さん」

「それじゃあ、お言葉に甘えて。よろしく、彩葉さん」

 

 歩きながら故、浅めの角度のお辞儀でお互い挨拶。

 

「はい、よろしくお願いします。──それにしても、本当にありがとうございます。貴方がいなかったら、私どうなっていたか分かりませんわ」

「いやいや、無事で良かったよ」

「普段なら、私のボディガードが街中の至る所に潜んでいる筈なのですが……。潜み過ぎていたようですね」

 

 おいおい。随分と呑気な。お前殺されかけたんだぞ。

 それから、一言二言日常会話を交わしてから別れる。国望彩葉とは違って、俺は一度職員室に寄る必要があるからだ。

 これで、国望彩葉と顔見知りになる事が出来た最初のミッションはクリア。転入先のクラスは国望彩葉と同じになるように手配しているので、後は国望彩葉との関係をどのようにして深めていくかに掛かっている。思春期の男女の関係というものは、少しの抉れで崩れていくもの。ましては、友情という希薄な物で繋ごうとするなら尚更だ。

 何故、愛情で繋がないのか。だと? 

 馬鹿言え。物を盗んだら、俺に向けられる感情が愛から憎に変わるんだぞ。友愛でも親愛でもない、深愛から、憎悪に変わっていくんだ。感情というものは、落差が大きければ大きいほど厄介なのだ。変に入れ込ませるよりも、家に呼ぶくらいの気の合う友人レベルで留めておいた方が後々楽なのだ。ましてや、今回のターゲットは大金持ちのお嬢様。こんな奴敵に回したら絶対に面倒臭い。

 

「えー、今日からこのクラスの仲間になる、須田怪兎君だ。皆、仲良くするように」

「須田怪兎です。よろしくお願いします」

「席は……あー、国望の隣が空いているな。そこに座ってくれ」

「怪兎さん、こっちですよ」

 

 単調な自己紹介(こんな皆の前で趣味やら何やらをペラペラ喋っても朝のHRが長くなるので、早く終わってほしいであろうこれからのクラスメイトの皆様に迷惑をかけないように敢えて単調にしたのだ)も終えて、俺が分かりやすいようにこちらに手を振ってくれる国望彩葉。

 初対面(とこれからのクラスメイトの皆様は思っているのだろう)の筈なのに親しげな国望彩葉の様子を見て騒つく輩。

 丁度良い。俺と国望彩葉が、もう既知の仲という認識がクラスに広まれば、こちらとしても色々都合が良くなる。いいぞ、もっと騒つけ。

 

「凄い偶然だね、彩葉さん」

「えぇ、怪兎さんとはこれからも縁がありそうです」

 

 そう言って、柔らかな笑顔を見せる国望彩葉。その笑顔で幾人もの男を惚れさせてきたのだろうが、生憎俺は国望彩葉を恋愛対象としては見ていない。コイツはあくまでお宝を手に入れる為のターゲットであり、俺の目的を達成させる為の、他よりは良い役の駒でしかないからだ。仲は深めど、決して必要以上に深入りはしない。

 そういうものだ。

 

「1限目は音楽です。移動教室なので、一緒に行きましょうか」

「分かった。是非とも、よろしくお願いします」

 

 教科書は予め揃えてあるので──ついでに言えば今日の時間割も既に知っているので──鞄の中から音楽の教科書を取り出す。なんだか懐かしささえ浮かぶその表紙に一瞬だけ郷愁を感じるが、すぐさま気持ちを切り替えて国望彩葉に「お待たせ」と声を掛ける。

 国望彩葉レベルの女であれば周りに腰巾着よろしく、程度の低い女を囲ませているのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしく。移動先の教室までは俺と国望彩葉の二人きりだった。

 道中。出会ってまだ数時間故、当たり障りのない会話に興じる。

 

「怪兎さんは、得意科目は何ですか?」

 

 得意科目。

 正直、無い。俺が得意なのは物を盗む事に関してのみであり、盗む時に必要になれば学ぶ。というスタイルだからだ。

 潜入するならば、その場に自然に溶け込めなければならない。高校生ならば、高校までの教育課程を修了していれば困る事は無い。しかし、今回のターゲットは財閥の一人娘、国望彩葉だ。そんな奴の友人が、馬鹿であっていい道理などないのだ。

 しかも、俺は自分で言うのもアレだがプライドが高い。人に欠点を見せるなどそんな恥ずかしい話があってはならない。

 我輩俺は天才なのだから。

 

「そうだなぁ、受験に関係有無に関わらず、授業科目なら全部得意だよ」

 

 内心胸を張って踏ん反り返りながら、謙虚な姿勢と声色を心掛けてそう伝える。どうだ国望彩葉。驚いただろう。道端で助けて貰った男が同じクラスで、しかもべらぼうに頭が良いとなれば、仲良くしたいだろう! 

 俺の言葉を受けた国望彩葉は、目をぱちくりと瞬かせてから、微笑んでこう返してきた。

 

「まぁ、私と同じですねっ」

 

 何ィ!? 

 国望彩葉、貴様、金持ちで容姿が良いだけでなく頭も優れているというのか。神はコイツをどれだけ優遇しやがるんだよ。もう少し世の中バランスよくしてやれよ。

 ムカつくぜ。

 そんなムカつく返答に、俺は眉がヒクつくのを耐えられなかったが、何度か指で揉んでほぐしてから「何だか、俺達って気が合うね」と返してやった。

 国望彩葉は楽しそうに笑っていた。

 その後も、音楽の授業中に流れでピアノの伴奏を買って出て国望彩葉にデカイ顔してやろうと思ったら国望彩葉も俺の隣で弾き出して何故か授業そっちのけで即興の連弾が始まったりと、連弾が終わったら教室中から割れんばかりの拍手と歓声をいただいたりと、転校生にしては目立ち過ぎてしまい、尚且なおかつ国望彩葉との仲を勘違いされかねない結果になってしまった。

 拙まずい。国望彩葉と仲を深めるのは重要だが、決して俺は国望彩葉と恋仲になりたい訳ではないのだ。友人として家に招かれなければ意味が無い。俺の理想としては、俺を含む国望彩葉の友人数人が家に招待され、国望彩葉の意識が友人に向いてる隙に盗む──大まかに言えばそんな感じなのだが、二人きりとなるとリスクも難易度も上がるばかりか、単純に女の家に男を連れ込むというのは世間体が悪いばかりか、また周りに勘違いされてしまう。俺はこの仕事が終わればまた姿や名前や顔を変えて違う盗みを働くので別に構わないのだが、前にも行ったように、俺に恋されちゃ困る。俺は格好良いので、どうしても恋に落ちてしまう気持ちは分からんでもない。しかしだな、犯罪というのは被害者の執着が後引いてはならないのだ。加えて、国望財閥ともなれば警察を動かすなど容易。警察の目が鋭くなって日本で盗みを働けなくなるのは、普通に嫌なのである。事の詰まり、俺はこれから何をするべきかと言うと──

 

「怪兎さん?」

「──な、何かな」

「お話、聞いていましたか?」

「俺の両親にも、一度会ってお礼をしたい。だろ? 聞いていたよ」

「はい。その件なのですが、どうでしょうか。いつか日を調整してお会いさせていただいてもよろしいでしょうか」

「うーん……。俺の両親は多忙でね。年に1回3人で顔を合わせられたら良いくらいなんだ。だから、彩葉さんと予定を合わせるのは難しいんじゃないかな」

「そうですか……。とても残念です」

 

 言って、悲しそうに俯く国望彩葉。

 俺の両親は共働きで、メチャクチャ忙しい──という嘘の設定を信じた国望彩葉。存在しない親なんか会わせられる訳が無いだろうが。

 

「じゃ、じゃあ、怪兎さんに私の両親に会っていただくのはどうでしょうか」

「そ、それは、どう言った意図で?」

「私の命を救って下さった怪兎さんを、お父様とお母様に紹介したいのです」

 

 へ、へぇ〜。と温い返事を返してから、頭の中で慌てて断りの言葉を考える。国望彩葉の自宅──そして自室に行くのが最終目標ではあるのだが、それに対して国望彩葉の両親と顔を合わせるというデメリットがデカすぎる。ここは断って、また違う用事で誘ってもらわなければ。

 

「好意は嬉しいけど、俺は彩葉さんから感謝されただけでもう充分だから。わざわざご両親に紹介までしなくても大丈夫だよ」

「ですが」

「ごめん。俺はこっちの道なんだ。じゃあね、彩葉さん」

「……はい。また、明日お会いしましょう」

 

 逃げるように、国望彩葉の帰路とは別の道を選んで歩く。

 俺の背中に向けられている国望彩葉の視線は、次の角を曲がるまで感じた。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 翌日。

 想像(というか想定)していたよりも、だいぶ上がってしまった国望彩葉との親愛度。これは、これからの付き合い方を見直さねばならないなと、頭の中を国望彩葉でいっぱいにしながら自宅(仮)の玄関のドアを開けて外に出たところで。

 

「……えーっと。おはよう、彩葉さん」

「はい、おはようございます。怪兎さん」

 

 国望彩葉が笑顔で立っていた。

 

「彩葉さん、こんな朝早くから、こんな所で何をしているんだ?」

「何って、怪兎さんと一緒に登校しようと思って、待っていたんです」

「家の場所教えたっけ?」

「はい、教えていただきましたよ」

 

 笑顔で嘘を吐く国望彩葉。いや、俺以外の誰かから教わったという事なら、真実となるのか。

 兎にも。

 角にも。

 何だか、拙い方向に展開が進み過ぎているような気がする。

 しかし、ここで国望彩葉を突っ撥ねてしまうと、国望彩葉との関係が友人未満になってしまうのも確か。そうなれば、合法的に国望彩葉の家に行く機会は無くなってしまう。自分で設けた縛りとは言え、自分で練った計画。

 俺は、自分が練った計画が崩れるのが死ぬ程嫌いなのだ。

 

「……まぁ、学校行こうか」

「はい」

 

 このまま問答を続けて万一、学校に遅れてみろ。また俺と国望彩葉の仲が噂されてしまう。

 国望彩葉と学校までの道を歩く。幸い、俺が歩む通学路は学校近辺までは他の学生とは被らないらしく、仮に見られても『たまたま会ったから一緒に登校している』という言い訳が通用する。国望彩葉が俺の家の前で待っていた場面をもし同じ学校の生徒に見られてみろ。俺の計画はほぼパーだぞ。

 俺に好意を抱きつつある国望彩葉(というか、もう抱いているのではないだろうか)。そう思うと、こうやって見せ付けるように人目を憚らず俺の側を歩くのは、もしかして外堀を埋めようとしているのではないかと勘ぐってしまう。いけない。疑うのは俺が嫌いな警察の仕事なのだ。怪盗の仕事は盗むこと。極論、それだけなのだから。

 そうだ。盗めれば良いのだ。友人だろうが恋人だろうが国望彩葉の自室に招かれ、獲物のペンダントを盗めれば何も問題無いのだ。

 俺はそうやって自分に言い聞かせながら、教室へと向かうのだった。

 ……過程はどうであれ、盗めれば良い。そう思ってた時期が俺にもありましたとさ。

 現在は昼休み。俺は男子トイレの個室に篭りながら、頭を抱えていた。要因は、国望彩葉。奴は、俺の寛大な心を踏み躙るかのように、俺の堪忍袋のキャパシティを超えて引っ付いてきやがった。悪戯も過ぎるし度も過ぎる。昼休みが始まってからだって、俺の分の弁当も作ってきたとか言って弁当箱の中の桜でんぷんで型取られたハートマークを見せてきやがった。完全に俺に惚れてやがる。こんな、一日で惚れるような、一目惚れされるような事をしたか? 

 した。

 

「はぁ……」

 

 人目の付く所で堂々と国望彩葉に襲い掛かったあの馬鹿暴漢を心底恨みながら、溜息を吐く。

 こうなればプランBだ。予定変更ではない。予定移行だ。セーフ。セーフ。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「ねぇ、怪兎さん」

「なぁ、吉田。次の授業、ペアでの発表があるだろ? その時に俺とペアを組んでくれないか?」

 

 

「おはようございます、怪兎さん」

「おはよう、彩葉さん──お、河本、それ新作のゲームじゃないか! 見せてくれよ!」

 

 

「怪兎さん、ご一緒に」

「悪い、彩葉さん。先生に頼み事をされていてさ。他の人と食べてくれないか?」

 

 

「怪兎さ」

「三木、この前約束してたゲーセンだけどさ、今日行かないか? 俺今日暇だからさ」

 

 

 

 

 

 国望彩葉は、俺に対して依存傾向にある。俺に依存することで周囲は俺と国望彩葉が恋仲であると勘繰り、実際お似合いではあるので想像を膨らませる。国望彩葉も俺と友人以上に仲を深めたいと思っているので、周囲の噂は満更でもないし、寧ろ噂を加速させるような振る舞いをしている。

 という事で、俺は国望彩葉を避ける事にした。これが、プランBである。

 勿論、無視したりだとか、嫌われるような事はしない。話掛けられたら答えるが、会話は必要最低限。俺は他の友人と楽しそうに会話をする。そうすれば国望彩葉は男同士の会話というヤツに入ってこれないので、引かざるを得ない。他にも教師からの頼まれ事だとか、急用とか色々使って、国望彩葉とほとんど話さなくなってから二週間。周囲の下衆さながらの勘繰りも鳴りを潜め、もうそろそろ国望彩葉と通常通り話してやっても良いかなと考えていた頃。

 遂に、国望彩葉の自宅へと招かれた。

 

「仲直りも兼ねて、私のお家でお勉強会をしませんか」

 

 俺がまた避けるとでも予想しているのか、少し遠慮がちというか気弱な印象を見せながら誘う国望彩葉。俺はそれに笑顔で答えた。

 

「確かに、最近は彩葉さんと一緒に何かしたりは出来なかったしな。是非ともよろしくお願いします。それで、勉強会はいつにする?」

「本日の授業は午前中で終わるので、授業が終わってよりそのまま私の家に行きましょう。昼食も用意させますので」

 

 明日の日曜日にでも行くかな、とか間近に迫ってきたペンダントに色々計算をしていると、国望彩葉の希望は土曜日──即ち、本日この後すぐだった。

 

「……じゃあ、そうしようか」

 

 欲を言えば、一晩かけてしっかりと作戦を立てる時間が欲しかったが、時間を得られずとも俺は天才。華麗に国望彩葉のペンダントを盗んでみせよう。

 授業も終わり、国望彩葉の家へと向かう。俺がまだ『須田怪兎』になる前に外側から何度か拝見させてもらった大豪邸は、門をくぐってから玄関まで数分かかる程の広さで、国望彩葉がチャイム(指紋認証も兼ねているようだ)を鳴らせばドアが開いて使用人達が一斉に頭こうべを垂れた。

 

「本日、私は友人の怪兎さんと勉強します。その前に昼食を摂るので、用意が出来次第私の部屋まで運びなさい」

「畏まりました」

「怪兎さん、何か食事のリクエストはありますか?」

「いや、特には」

「分かりました。じゃあ、献立通りに」

「畏まりました」

 

 国望彩葉が視界から消えるまで頭を下げ続ける使用人達。俺はそんな彼等の姿を後ろ目に見ながら、普段通りのスピードで高そうな絨毯の敷かれた廊下を歩く国望彩葉の背中を追う。エレベーターで3階に上がり、国望彩葉の自室へ。国望彩葉に続いて中に入ると、そこには家具こそ豪華ではあるが、女の子らしさも残る部屋があった。一人用とは思えない程に大きなベッドの上には、若者の間で流行っているキモカワマスコットキャラクターのクッション。ひたすらに広い部屋の中心にはピンクの丸テーブルが置かれていて、冷蔵庫やトイレや風呂場なんかもあるらしく、使用人に食事を持ってこさせれば楽々にいくらでも生きていけそうな空間だった。

 部屋の隅々にまで視線をやってから、部屋の奥。窓際の本棚の上に胸像程度の大きさのマネキンの首に掛けさせたペンダントが目に入る。常ならざる輝きを見せるソレは、間違い無く俺の獲物のペンダントだった。ガラスケースにすら入っていないというのはどういうつもりなのだろうか。もしかして、出掛ける際等にはよく使っているのだろうか。だとしたら、あんな希少なペンダントを笑顔で持ち歩く国望彩葉の精神力にゾッとしてしまうのだが。流石にそんな事ないよな? 大事に保管しているよな? 

 折角もらった物だし、とか思って使ってないよな? 

 国望彩葉の部屋をジロジロと見渡してしまっている自分に気付き。咳払い。自身の行動を誤魔化すように、発言。

 

「女の子の部屋に入るのは初めてだから、緊張するな」

「緊張する事はありませんよ? 使用人が来るまでの間、本日勉強する部分を決めてしまいましょう。さあ、こちらへ」

 

 そう言って、ピンク色の丸テーブルへと誘導する国望彩葉。国望彩葉から座布団代わりにクッション(ほぼ椅子ぐらいのデカさ)を受け取り、国望彩葉と丸テーブルを挟んで対面に座る。勉強する部分をチェックしていると、程なくして使用人が昼食を運んできた。料理名こそ庶民と変わらないが、明らかに材料や手間暇が段違いのソレを食し、腹ごなしに少し談話をし、午前2時。ようやく勉強へと取り掛かった。

 チク、タク、チク、タク。

 お互い頭脳はトップレベルなので、解き方を教え合うというよりかはどちらの解き方が最適か、というほぼ討論に近い状態になっている。まぁ、勉強にはなるので俺は構わないのだが。

 問題は、ここからどうやってあのペンダントを手に入れるかだ。国望彩葉と俺は対面で座っており、俺が何か不審な動きをすれば、国望彩葉は顔を上げるだけで俺を瞳に映す事が出来るのだ。

 どうにかして、隙を作らねばならない。

 

「彩葉さんって、ご近所付き合いとかあるのか?」

「そうですね……。国望財閥私達って、周りから見たら怖いみたいなので、悲しい事にそういうのはありません。もしかしたら、使用人達が上手くやっているかも知れませんね」

 

 まずは会話でもして隙を作るかと、他愛も無い日常会話を振る。何の得にもならない国望財閥の情報を頭に入れるのと同時に、次の質問。

 

「使用人の方達って、シフト制?」

「いえ、敷地内に使用人達は永久就職という形で、住み込みで働いています。国望財閥に忠誠を誓った者は、謀反や情報の漏洩を起こさないように家族ごと国望財閥の敷地内に住処を置くようになっていますので」

「へぇ。じゃあ、食材を買いに行く時とかも就業時間内ならあの格好なの?」

「そうですね。……あ、言い忘れていましたが、勿論、夜間とは使用人は入れ替えますよ? 流石に、使用人達に24時間仕えろだとか、そんな酷い事は言いませんから」

 

 酷い人間だとは思われたくないのか、身を乗り出して否定する国望彩葉。丸テーブルは割と大きいので、パーソナルスペースを侵略してくる程顔が近付く事はないのだが、もしも俺が俺ではなくただの一般生徒だったなら、今のアクションで国望彩葉に堕ちていた可能性は十二分にある距離だ。

 

「ま、まぁ、常識的に考えればそうだよね」

 

 笑う。

 次は私の番だとでもいうのか、国望彩葉が俺に質問を投げかけてきた。

 

「先程から私に質問をしていただいてますが、どうしたのですか? 以前に比べて随分と、私に興味を持っていただいているようですが」

 

 平常時よりも確実に大きな心拍音が、一回だけドクンと背筋を凍らせる。勘付かれたか? しくじったか? と返す言葉を逡巡していると、国望彩葉が続けた。

 

「まぁ、私も怪兎さんとは仲良くしたいと思っているので、大歓迎ですよ? むしろ、私からも色々質問させて下さいな」

「お、おう。何でも聞いてくれ」

「怪兎さんって、どこから引っ越してきたんですか?」

 

 何だコイツ。

 もしかして、俺の正体に気付いているんじゃないだろうな。──いや、落ち着け。こんなの、転校生に対する質問あるあるじゃないか。ただの偶然。偶然だから、寧ろ険しい顔で冷や汗垂らしてる方が怪しいだろう。

 俺自身に言い聞かせながら、嘘の設定を忠実に答える。

 

「元々は東北の方に住んでいたんだけど、両親の仕事の都合で、こっちに来たんだ」

「部活はやっていましたか?」

「いや、何も。自分の時間を作るのが好きだから、休日とかを拘束されるのはちょっとね。多分、こっちでも帰宅部かな」

「ご趣味は何ですか?」

「あまり若者らしくはないけど、散歩かな。何も考えずにのんびり歩くのって楽しいよ」

「休日は何をしていますか?」

「さっきも言ったように、散歩かな。それか、何もなかったら寝てるかも。寝るのも好きだよ」

「貴方のお名前って何ですか?」

「須田怪兎だよ。そういうとき君は国望彩葉さんだろ? 初対面の時に挨拶したじゃないか」

「貴方の本当のお名前って何ですか?」

「ッ──!」

 

 開いていた教科書やらノートを丸テーブルからぶちまけるように落とし、国望彩葉から距離を取る。

 

「どうかなさいましたか?」

「その含みのある言い方をやめろ! いつからだ!? いつから気付いていたんだ!?」

 

「……ふふっ」

「何が可笑しい!」

「〝怪兎さん〟。もしも、私が本当に何も知らなかった場合、貴方のソレは単なる墓穴を掘る行動になりますよ?」

「そんな台詞が吐けるって事は、お前は知っているって事だろう!」

「まぁ、そうですね」

 

 何でもないように言い放ってから、国望彩葉が立ち上がった。思わず身構えるが、国望彩葉は何か武器を持っている様子もなければ、外部に連絡する様子も見られない。

 しかし。かと言って、構えが解ける訳ではない。

 

「白状すると、私は最初から貴方が須田怪兎さんという人物ではない事は気付いていました」

「……最初って言うと、あの暴漢に襲われそうになった時か」

「いえ、もっと前──貴方がカフェテリアで作戦を練っていらした時からです」

「……は?」

 

 衝撃的。というか、完全に意識の外からのアンサーに呆けてしまう。

 

「準備の為に、この街に早めに訪れてしまったのが災いしましたね」

「ちょ、ちょっと待てよ。俺があのカフェで作戦を練ったのは確かだが、あの場にお前は居なかった! 更に言えば、お前の使用人も──」

 

 いや。

 待てよ? 

 言葉が打つ切られ、代わりに何か重要な事を思い出せそうになる。

 

「もう少しですよ。もう少しで怪兎さんは答えに辿り着けますから」

「五月蝿い!」

 

 クスクスと上品に笑いながら俺の口から答えが出るのを待っている国望彩葉。奴を尻目に、必死に頭を働かせる。働かせて働かせて、答えが出た。

 

「…………」

「その様子を見るに、答えに辿り着けたようですね。そうです。初めて怪兎さんと会ったあの日、自己紹介の後に私はこう言いました」

 

 

『普段なら、私のボディガードが街中の至る所に潜んでいる筈なのですが……』

 

 

「この時点で自身の行動を振り返って、もしやと気付けなかった怪兎さんの負けです」

 

 気付ける訳ないだろうと怒鳴り散らしたくなる勢いだが、更に阿呆を晒すだけなので押し黙る。

 

「……じゃあ、どうするんだよ。世紀の大怪盗大泥棒である俺を警察まで持って行くのか」

「えぇ、当初はそのつもりでした」

「でした?」

「国望財閥に泥棒に入ろうとする愚か者は一生豚箱に入っていただきましょうと決心していたのですが、怪兎さんと初めて出逢った瞬間に、その考えは改めてしまいました。あの暴漢が私を襲おうとしたあの時、颯爽と現れて撃退した怪兎さんを見て私、恥ずかしながら一目惚れしてしまったのです」

「え、ちょっ、はぁ?」

「一目惚れして、警察に渡すのが惜しくなってしまったので、貴方に選ばせてあげます」

「選ぶって……何を」

 

 国望彩葉の表情は恋する乙女そのもので、そんな表情の国望彩葉の口から出た言葉に不信感を覚えながら問う。

 

「1、私の終生の伴侶となってこの家で一生を過ごす」

「2、貴方の目的であるお祖父様からいただいたペンダントを持って、自力でこの部屋から逃げ出す」

 

 二本指を立て終えてから、さあどうします? と国望彩葉が選択を迫ってきた。

 そんなの決まっている。恋する女というのが逃亡した後どれほど厄介な存在になるかは知っているし、これからの生活にどれほど影響を及ぼすかも知っているから、俺の行動は二つに一つしか有り得なかった。

 

「2だよ、お嬢さん! あばよ!」

 

 こんな時の為に切れ込みを入れておいた教科書は、とある部分を持つとバラバラになるようになっていて、それを利用して国望彩葉の視界を遮る霧とする。持って数秒程度の代物ではあるが、その数秒は俺にとっては充分な時間だった。

 窓際の本棚の上、胸像ぐらいの大きさのマネキンに掛けられたペンダントを盗み、窓ガラスに勢い良く突っ込む。

 が。

 割れない。

 破れない。

 傷付かない。

 

「ぐっ……! クソ、小癪なァ!」

 

 時間短縮の為にと触らなかった窓の鍵に触れてみるが、やはり開かない。ならば、正々堂々と廊下に出て逃げて行くしかないと、広い部屋を走り抜けて廊下へと通ずるドアを開けて──

 

「な、何だよコレ」

 

 赤い線。

 赤い線。

 赤い線。

 幾重にも重なり、潜り抜ける事も許さないソレを前に、思わず立ち止まる。

 

「驚きましたか? こんな事もあろうかと、我が家に侵入した者達を葬るとっておきの代物です」

「ほ、葬るって。これは通報用の赤外線じゃないのか」

「いえいえ、そんな可愛い者じゃありませんよ」

 

 クスクスと笑いながら、国望彩葉は自身の制服のポケットから結構値段の張りそうなハンカチを出して、赤い線に通した。すると、ハンカチは綺麗に分かれ、断面を焦がせて煙立たせる。

 

「驚きましたよね? ほら、冷や汗がこんなに」

 

 そう言って、レーザー光線赤い線に通したハンカチで俺の額を拭う。

 

「恐らく、怪兎さんは気付いていらっしゃるのかも知れませんが、私、怪兎さんの事が大好きなのです。だから、怪兎さんとこの家──更に言うとこの部屋でずっとずぅっと暮らしたいと思っています」

 

(俺は間違ってもそんな感想は抱かないだろうが、客観的に見て)愛らしい表情で俺に擦り寄る国望彩葉。俺の腕に抱き付いてから、一言。

 

「もう一度、貴方に選ばせてあげましょう」

 

 一呼吸。国望彩葉が。

 

「1、私の終生の伴侶となってこの部屋で一生を過ごす」

 

 一呼吸。今度は俺が。

 

「2、貴方の目的であるお祖父様からいただいたそのペンダントを持って、部屋から逃げ出す為にこのレーザー光線の網を掻い潜って逃走する」

 

 眼前には、全てを焼き切るレーザー光線。

 右腕には、恐ろしい笑顔で分かり切った返答を待つ国望彩葉。

 2を選んだら死ぬ。

 1を選ばなければ死ぬ。

 そんな状況。膝がぐらつくのを必死に抑えながら、半ば絶叫するように返した。

 

「2だって言ってんだろ馬鹿! お前と一生過ごすなんて無理だっての!」

「…………ふふっ」

 

 中指を立てて、全てが思い通りになってると思い込んでいるお嬢様を振り解く。両者の間に空いた空間は一メートルも無いが、俺はかつて、これの1.5倍の量の赤外線センサーの中を歩いた事がある。冷静に行けば、こんなレーザーで死ぬ事は無いのだ。

 膝上10cm程の高さのレーザー光線を左足を通して跨ごうとして──突如として膝が崩れた。腿裏から順にレーザー光線が肉を焼いて骨も切る。身体を支えられなくなり、後ろに倒れた。

 混じり気無しの絶叫。何が起きたと動かない身体の代わりに目だけ動かせば、視界にスタンガンを持った国望彩葉が映る。

 

「お祖父様よりいただいた護身用のスタンガンです。意識が飛んでいない所を見るに、流石は怪兎さんですね」

「い、痛いじゃねぇかよ……! 国望彩葉ァ……!」

 

 腿の辺りから心臓の音が聞こえる。このまま血が流れてやがては死ぬのかと何かの悟りの境地に達しそうな所で、国望彩葉が俺に肩を貸して一本足で無理やり立たせた。揺れる重心が、無意識の内に国望彩葉へと体重を傾けさせる。

 

「何のつもりだ。まさか、病院に連れて行くとか言わねぇよな」

「そんな事は言いません。だって、そうしたら貴方は治療を受けた後に捕まってしまうではないですか」

「は?」

「さて、須田怪兎さん。先程の発言、私本当に傷付きました。乙女に対するものとは思えない軽率な発言、本来ならば国望財閥に関わる全ての人物が貴方を許さないでしょうが、私、思い至りました。えぇ、そうです。男の人というのは、自分一人で自立していると勘違いして、つい偉ぶった発言をしてしまうもの。だから、先程の発言も今まで自分一人でやってこれたからこその発言だったのですよね? それはそれで素晴らしいと思います。人生経験が豊富なのは良い事です。良い事ですが、これから私と暮らしていく上で人生経験も、それから来る自立心も、それに乗じて放たれる酷い発言も必要ありません。だから、私はこう考えました。今まで培ってきた自立心を根こそぎ剥ぎ取って、私に頼らなければ生きていけない身体にしてしまえば良いのだと」

「何が言いたいんだよ! クソが!」

「何もかも私に頼ればいいのです。当初の予定ではこの部屋に軟禁する程度に留めておこうと思っていたのですが、怪兎さんの心は重症です。そんな心では、これから生活していく上で軋轢が生じてしまいます。なので──怪兎さんの四肢を、このレーザー光線で切断します」

「……は? ──おい、嘘だよな? やめろよ! マジで切れちまうって! なぁ! おい! が、がああああああああああああああああああああああああああああああああああああ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、お母様?」

「あら、どうかしたの?」

「お母様がいつも着けてるそのペンダントって誰から貰ったの?」

「これは、あなたの曾祖父様が、私の16歳の誕生日の時にくれたの。これを大事に持っておけば、悪い事は起きないし、健康でいられるのよ。あなたも、外で遊んでも怪我しないでしょ?」

「うん! 私元気!」

「ふふっ、そうでしょう」

「お母様、もう一つ聞いても良い?」

「えぇ、良いわよ」

「そのペンダントがあるのに、お父様にはどうして手足が無いの?」





 



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