逆三角関係。

「もしもし」

 

 殺風景な自室内で突如鳴り響いた着信音。音量も音量なので、不意打ち気味のソレだったならば大層驚いた筈だが、オレは特に慌てた様子も無く、むしろ、遂に来たか、といった心持ちで通話ボタンを押していた。

 と言うのも、この時間帯に電話が掛かってくるのを既に知っていたからである。

 

『もしもし、俺だ』

「なんだ、光輝(みつき)か」

 

 光輝。

 オレの幼馴染。

 限りなく黒に近い青の髪色をし、性格もそれに比して冷静沈着を絵に描いたようなオトナな男だ。オレが悩んでいる時には隣に立ち、最適解を導き出してくれるよく出来た男だ。

 男のオレでさえ惚れてしまいそうなのだから、女子人気はえげつないのだろう。

 高校卒業を機に、上京して大学に通っている。大学でも変わらず頭良いんですって。キィー!

 

『なんだとはご挨拶だな。地元で一人寂しく大学生活を送っているであろう、幼馴染の心情を慮っての電話だったというのに』

 

 言葉に少量の怒気を孕ませての第一声。オレはそれに「冗談だよ」と返して話を続ける。

 

「こうやって話すのは随分と久し振りだな。昨日の夜、いきなりメールで『明日の晩に電話を掛けても良いか』って送られてきたのは驚いたけど」

『いや、いきなり電話を掛けてしまっては迷惑ではないかと思ってしまってな』

「迷惑な訳あるかよ。こちとら、大学に入ってから目出度くボッチルート安泰お兄さんだぞ?暇なんて持て余す程あるんだから、電話くらい一々了承なんか取らなくても、いつでもしてこいって」

『……そう言ってもらえると、こちらとしてもありがたい』

 

 柔らかな。とても柔らかなその言葉で、俺に感謝を述べる光輝。電話越しとは言え流石にむず痒いので、「よせよ。幼馴染なんだからそんなの気にすんな」と返す。

 そう、オレと光輝は小学校に入学した頃から高校までずっと一緒だった、幼馴染なのだ。時には喧嘩もするが、縁だけは決して切れなかった、大親友なのだ。

 

『幼馴染……か』

「なんだよ、もう高校の頃を懐かしんでんのか?」

 

 言葉に意味深そうな重みを乗せて、光輝が幼馴染という単語を呟いた。

 

『い、いや、そういう訳ではない。こうして離れた今でも、俺のことを変わらず認識してくれているお前に、感謝しているのだよ』

「そうか?まぁ何でも良いけどよ、今日は、どうしてまた電話なんだ?」

『……特にこれといった明確な用事があっての電話ではないんだ。ただ、久しくお前の声を聞いていなかったので、何だか物足りなく感じてしまってな』

「やっぱり懐かしんでんじゃねぇか」

『はっはっは、そこを掘り下げられてしまうとこちらとしても参ってしまう』

 

 快活で、しかしどこかオトナの余裕が溢れるその笑い声を電話越しに聞く。光輝ってば、高校の時から、こういうちょっとした仕草なんかが大人びてたんだよな。隣に並ばれると、周囲からオレがガキみたく見られてしまうので、恥ずかしかったのをよく覚えている。……まぁ、高校に入っても変わらず馬鹿やってたオレが悪いのだが。

 大学に入ってからは流石に反省した。

 今ではもう高校生の頃なんか見る影も無く、むしろオトナ過ぎて周囲の人間が近寄り難くなるような雰囲気を醸し出せるようになりました。

 まいった。

 いやマジで。

 

『さて、そろそろ時間か』

 

 通話を始めてから30分が経過しようとしていた頃、光輝がそうやって通話の終了を切り出した。確かに、オレも明日までに2000字のレポートを書き上げなければならないので、そろそろと言われればそろそろだ。

 

「分かった。またいつでも電話してくれ」

『……あぁ。そう言ってもらえると救われる。では、またな』

「おう」

 

 ツー、ツー、ツー。

 耳元で聞こえていた光輝の声が途切れ、部屋には再び静寂が訪れる。ふぅ、と倦怠感によるソレとはまた違う溜め息を吐いていると、また着信音。画面を見ると、奏恵(かなえ)からだった。

 奏恵。

 もう一人の幼馴染。

 写真に写るのは黒髪なのに、実際目にしてみると、光の加減で白にも赤にも紫にも見えてしまう不思議な髪色をし、いつも楽しそうにニコニコと笑みを絶やさない。──コイツも光輝と同じく精神力に長けたオトナな女だ。オレが悩んでいる時には背中をさすり、優しく励ましてくれるメッチャ良い子だ。包容力が高く、以前に一度だけ「ママ……」と本人の前で口を滑らしてしまったのは今でも悔いるべき反省だ。

 コイツも上京して大学に通っている。同じ大学に通っているようで、もしかして光輝と奏恵って付き合ってるんじゃないだろうか。お似合い過ぎて困るわ。

 そんな、奏恵からの、光輝のようにアポも何もない突然の電話──いや、友人間での電話とはそもそもアポはあまり取らないモノなのだが──に、オレはやっぱりアイツ等幼馴染だなぁとあまり関係の無い感慨に耽るのだった。

 

「もしもし」

『もしもし〜私だよ』

「どうしたんだよ、普段はメールでくるクセに、今日は珍しいじゃないか」

『そういう気分なのぉ』

 

 間延び。またはおっとり。どんなに焦っていても奏恵の声を聞いてしまえばたちまちの内に落ち着いてしまいそうだ。奏恵のことは心の中で歩く鎮静剤と呼ばせてもらおう。

 電話越しでも遺憾無く発揮されるソレに、訳もなく虚空を見詰める時間が数秒長くなる。

 

「何かあったのか?」

『何もないから電話したんだよ〜』

「成る程」

 

 暇潰しという訳か。なんだか奏恵らしい。

 

『身体の調子はどう?一人暮らしだからって、あんまり不健康な生活じゃダメだよっ?』

「大丈夫だって。ちゃんと三食食べてる」

『どうせ手料理なんかしてないんでしょ』

「お、バレた」

『も〜!』

 

 電話の向こうで、奏恵がぷんぷんと怒っている姿が目に浮かぶ。良いんだよ、閉店間際のスーパーは安い惣菜とかあるんだからと情けない反論をすると、奏恵は「今度ご飯作りに行くから!」と半ば決定事項になってそうな宣言をする。

 わーい!ボク、ママのご飯大好きー!と心の中のショタが両手を上げて喜んでいるのが分かった。

 

「そりゃあ良い。ついでにまた3人で集まって遊ぼうぜ」

『えっ』

「えっ?」

『わわ、何でもない!家の庭に巨大隕石が落ちてきてびっくりしただけだから!気にしないで!』

「嘘が大胆過ぎますよ、奏恵さんや……」

 

 また3人で。

 言外に光輝の名を出した途端に、自分の反応を誤魔化すような態度を見せた奏恵。何だか様子がおかしいその態度に、もしかして上手くいってないのだろうかと変な勘繰りを入れてしまう。

 これじゃ下種(ゲス)だ。

 そんでもって無粋(ブス)だ。

 誰がブスだ。

 まぁ、触れない方が良いのだろうと話題を変えようとすると『光輝くんは私の方から誘っておくから任せて!』と元気な返事が返ってきた。どうやら、ただ単に仲が微妙になってしまっている訳ではないらしい。

 

「オッケー、じゃあ任せるわ。いつにする?」

『来週末の4日とかど〜う?』

「お、その日は──というか、その日も空いてるわ」

『うん!じゃあ、またね!』

「おう」

 

 楽しそうに。とても楽しそうに別れの挨拶を済ませる。オレだって楽しい。何せ、久し振りの幼馴染3人揃い踏みだ。そりゃ、楽しくもなるし楽しみにもなる。

 じゃあ、この楽しみを糧にレポートを頑張るとしよう。

 うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしもし』

「はい。こちら──って、光輝か」

『すまない。手は空いていたか?』

「あぁ。全然大丈夫だけど」

 

 ああ……この螺旋が、──と観ていたアニメの終盤のシーンが流れる。名残惜しい気がしないでもないが、アニメはいつでも観れる。オレはテレビを消し、電話に耳をすませた。

 

「で、どうした?」

『……お前は、何に対してもすぐに結論を求めようとするな。それは美点でもあるが、同時に汚点にもなり兼ねないことを忘れてはならない』

「何だ、いつの間にオレは名言製造機と電話してたのかよ」

『茶化さないでくれ』

 

 溜め息混じりの笑い声が聞こえる。良いなぁ、オレもそういう名言とか言ってみてぇものだな。

 で。

 

「この前の電話から、光輝もめっきり電話派になったよな」

『あぁ。メールで何度も送信受信を繰り返すよりも、意思の伝達が早いと思ったのでな──それよりも、光輝もとはどういう意味だ?』

「うん?あぁ、奏恵のこと。奏恵も、最近は何だか電話が増えてきたんだよな」

『……ほう』

「光輝さん、いつにもなく声が冷たいんですが?」

 

 まるで耳だけ冷凍庫の中のような、凍える声。夏場とは言え涼しいを通り越して寒気がするそれを指摘すると、光輝から返ってきたのは更なる冷言だった。

 

『恵太(けいた)』

 

 自分の名を呼ばれ、先生に怒られた時のような怖気を覚える。高校の頃とは違い、何も悪いことはしていないはずなのに。

 

『奏恵は、お前とどんな会話をしているんだ?是非、教えてくれると有り難いのだが』

 

 会話。

 オレと奏恵の、普段の会話。

 何故そんなことを知りたがるのかと考えた時に、ふと思い出した。

 そうだ。光輝と奏恵は良い感じの仲なんだった。付き合ってる付き合ってないは別として、相手が他の男とどんな会話をしているのかを気になってしまうのも、なんだか納得出来る気がする。

 

「そうだな。食生活についてとか、互いの大学での四方山(よもやま)話とか、あとは──あ、そうだ。光輝って、来週末って結局どうなんだ?」

『どうなんだ、とは。どういう意味だ?』

「奏恵から聞いてるだろ?来週末、オレの家で3人集まって遊ぼうぜって話」

『……それは、奏恵が言い出したのか?』

「いや、話している内にそうなった。奏恵が、光輝は自分が誘うって言ってたから、てっきりもう知ってるとばかり思ってたぜ」

 

 奏恵も、案外おっちょこちょいなところがあるな。幼馴染を誘い忘れるなんて、普通なら有り得ないモノだが。

 オレみたく、レポートにでも追われていたのだろうか。

 オレがワケを話した後、電話としてはあまりよろしくない展開。即ち黙りこくってしまった光輝。

 どうしたものかと光輝の次の発言を待っていると、掠れた声で一言。

 

『恵太』

「お、おう」

『来週末だな?必ず出席しよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当日。二人の到着を待ち望んでいたオレはまだかまだかと部屋の掃除を繰り返したり茶菓子を用意したりと落ち着きなくウロウロしていると、チャイム音。早歩きで玄関まで向かい、ドアを開けた。

 

「久し振り〜」

 

 ひらひらと、顔の横で手を振っている奏恵に挨拶をし、家に入れる。何が珍しいのか、キョロキョロと部屋のあちらこちらに視線を向けている。アパート故に自分の部屋兼リビングと化している部屋へと通す。壁際には本棚と衣装棚とテレビ、部屋の中央には丸テーブルという、部屋らしい部屋となっている。贅沢を言えばベッドを置くスペースが欲しかったのだが、この家具の配置だとどうあがいても壁をぶち抜いて置くしか方法がなかったので、寝る時には丸テーブルを退かして布団を敷いて寝ている。いや、まぁ、今は関係無いけれど。

 奏恵は荷物を置いてから、一言。

 

「光輝くんのことなんだけど」

「おう」

 

 お茶をコップに注ぎながら、それに対して生返事をする。今の話の流れなら、この程度の相槌でも不快に思わないだろうという長年の付き合い故の物差しによるソレだ。どうだ。何だか格好良いだろう。

 

「前に連絡を取ってみたんだけど、今日は来れないって」

「そうなのか?前電話した時は絶対行くって言ってたけど」

 

 あの電話のあと、奏恵と光輝は連絡を取ったのだろうか。そんなことを考えていると、奏恵が予想外、とでも言いたげな一文字を発した。

 

「えっ」

「どうした?」

「う、ううん!良かった、今日は3人集まれるんだね!」

 

 先程の表情からは一転、朗らかな笑顔でもう一人の幼馴染との再会を喜ぶ奏恵。なんだ気のせいかと少しばかり強張っていた胸を撫で下ろすと、呼び鈴が鳴った。「噂をすれば、着いたみたいだ」と奏恵に一言断り、玄関へと向かう。

 

「すまない。手土産を選んでいたら遅くなってしまった」

「そんなん気にしなくて良いのに」

「親しき仲にも礼儀あり──と言うか、親しき仲にこそ礼儀ありだろう。そういう訳にはいくまいよ」

 

 そう言って紙袋を渡してきた光輝。オレは「悪いな、ありがとう」と礼を言ってから受け取り、チラリと中身を確認する。某北海道の人気土産がこんにちはと目を合わせてきた。

 

「東京には、全国の土産が集まるのだよ」

 

 成る程、光輝なりのおふざけらしい。北海道には行ったことがなかったので、なんだか普通に嬉しい。

 

「ありがとう。後でみんなで食べようぜ!」

 

 もう一度礼を言うと、光輝はチラリとオレの足元。つまりは玄関周りを確認し、目を細めてから、

 

「あぁ。みんなで食べるとしよう」

 

 と、笑った。見ていて涼しくなる笑顔だ。コイツのことは名言製造機ではなく人間クールビズと呼ぶとしよう。勿論、心の中で。

 

「奏恵、光輝が来たぞ」

 

 光輝を自分の部屋兼リビングに通し、来客者の報告。某北海道の人気土産を丸テーブルに置いて視線を上げると、オレを挟んで二人が見詰め合っていた。真昼間からお熱(アツ)い奴等だ。

 

「座らねぇの?」

「そうだな」

「うん。お互い座ろう」

 

 着席を促してみる。二人は案外見詰め合うことには熱中してなかったらしく、あまり会話の間を置くこと無く返事をしてくれた。

 

「いや。それにしても、こうして集まるのは何十年振りだろうな。オレ等もいつの間にか年老いちまったよ」

 

 久し振りに会って(と言っても、二人は同じ大学なので毎日とは言わなくても顔を合わせているだろうが)緊張しているのか、空気があまり温かくない。どうにかしなければと思ったオレは試しにクソしょうもないボケをかましてみる。高校の頃の傾向から言わせてもらえば、奏恵だったら「何言ってるの〜?まだ若いでしょ〜?」とマジレス混じりの優しいツッコミで、光輝だったら「成る程、お前は俺と奏恵のことを老人だと思っていたのか。悲しい話だ」と泣き真似をしてそれに奏恵が「けーたろうひどーい」と便乗してくれるはずだ。

 さあ、来い!

 

「…………」

「…………」

 

 何か言ってくれよッ!!

 オレが馬鹿みたいじゃんかッッ!!

 いや馬鹿だけどッッッ!!

 

「あ、あの、二人とも」

 

 幼き日より行動を共にした仲とは思えない空気の冷たさに、友情の危機を感じてしまった。恐る恐る、反応が無い二人に問い掛ける。

 

「なぁに?」

「どうした?」

 

 と、仲良く同じタイミングで返事をしてくれた。

 

「……元気?」

 

 空気悪くない?とは言えなかったオレは、当たり障りの無い言葉で留めてしまう。それに対する二人の返答は、

 

「全然元気だよぉ」

「あぁ。全くもってその通りだ。何を気にしているのかは知らないが、心配するな。ただの杞憂だ」

 

 息は合っているんだけどな。可笑しいな。

 

「何かゲームでもするか?」

 

 高校の頃は3人でよく格闘ゲームとかして遊んだなぁ。懐かしい。奏恵がやたら強くていくらチャレンジしても勝てなかったのをよく覚えている。反対に、光輝はゲーム系統に関してはからっきしなんだよな。でも、光輝自身は上手く出来てると思ってるらしく、負けたら何故勝てなかったのか分かんなくて首傾げたりしてな。本当、あの頃は良かった。今となっては……。どうしちゃったのさ二人とも。電話では普通だったのに。

 楽しい会話は、どうやら臨めそうにないので。カードゲームでもボードゲームでも携帯ゲームでもアプリゲームでもテレビゲームでも何でも良いので、兎に角、会話を主体にせずとも楽しめそうな遊びをしたい。

 そんなオレの願い。というか希望に、二人は予想に反して色の良い返事を見せたのだった。

 

「良いよぉ。じゃあ、格ゲーね。私とけーたろうの二人でやるから、光輝はそこで見てて」

「そんな悲しいことある?え、奏恵さん奏恵さん。光輝も一緒に出来る遊びにしようよ」

「その通りだ。俺と恵太でババ抜きをやるから、奏恵は審判として参加してくれ」

「いやいや、たかが一般家庭でやるババ抜きに審判いらねぇから!どうしちゃったのさ二人とも!」

 

 何だよその色澱んでんじゃねぇか。

 見詰め合う──いや、睨み合うという表現の方が似合う二人と視線のぶつかり合いには、バチバチと当たっては散る火花の幻覚が見える。もしかしなくとも、東京にいる間に喧嘩をしてしまったとか、そんな事情だったりするのだろうか。

 

「オレがいない間に、二人の間に何があったんだよ!おかしいぞ!?」

「けーたろうがいなかったからでしょ!」

「お前がいなかったからだ!」

「何で!?」

 

 オレがいなかったから?何でオレがいないと、二人の仲が悪くなるんだ?

 尽きない疑問。晴れない雰囲気。この状態は奏恵が振舞ってくれた夕食を食べ終えた20時近くまで及び、今回はお開きにしようということで手打たれたのだった。

 玄関のドアが閉まるギリギリまで睨み合っていた二人を見ると、これからの3人の関係性が酷く不安である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から3日。二人からは電話どころかメールも来なくなった。自分から連絡を取るのも何となく気が引けたので、放置された関係。

 そんな、あの日から3日経った日の夜に、着信。ベッドに寝転がっていたのだが、すぐさま飛び起きてスマホを手に取る。しかし、画面に表示されていた名前は、光輝でも奏恵でもなく、高校の頃に知り合った望月(もちづき)さんだった。

 通話。

 

「もしもし」

『あ、もしもし?私だけど』

「どうした?電話なんて初めてじゃね?」

 

 望月さん。

 高校の頃に同じクラスだった女子。風紀委員会に所属していて、クラスのリーダー的な存在だった人だ。望月さんが指示すれば、たとえムキムキマッチョな厳つい不良でもすんなり言うことを聞くという凄い人だ。ちなみに、今通っている大学への進学を提案してくれたのも望月さんだ。それまでは、オレも光輝と奏恵と同じ大学を希望していていたのだが、将来のことやら色々考えると、望月さんから提案された大学の方が良いと分かったので、第一希望を書き換えることになったのだ。ちなみに、望月さんはオレと同じ大学に通っている。大学に入学してもお世話になりっぱなしで、オレはもう望月さんの方に足を向けて眠れない。

 

『……うん。少し、気になることがあって』

「気になること」

 

 気になること。

 はて。分からないなりに推理を立ててはみるが、わざわざ電話をかけてまで確認しようとる程気になることなど、果たして自分にあるだろうかと推理は早くも行き詰まった。残念。

 さて、正解。

 

『この前、誰かと一緒に居た?』

「この前って、どのくらい前のことだ?」

 

 アバウト過ぎるその質問に、オレは言葉の最後に疑問符を付けざるを得ない。一緒にいたのは幼馴染二人だが、あの二人は家の外では会っていない。従って、望月さんが言っている『誰かと一緒にいた』は光輝と奏恵ではなくなるからだ。

 その質問だと、疑問符はまだ外せない。

 

『直近で良いの。ここ最近一緒に居たのは、誰?』

 

 幼馴染以外、マジで思い当たらない。

 思い至らない。

 

「あー、最近一緒にいたのは、マジで望月さんか幼馴染くらいなんだよな。多分、望月さんが知りたがっている人は──」

『その幼馴染って!』

「うおっ」

『あ、ごめんなさい。もしかしなくてもあの二人?』

「あ、あぁ。望月さんも、光輝と奏恵とは何回か話したことあるよな」

『う、うん!あるある』

「で、それがどうかしたのか?確かに、二人とはこの前一緒にいたけど」

『ううん、やっぱり何でもなかった。私の勘違いだったみたい。ごめんね』

「おう。望月さんが良いなら良いけど。じゃあ、また大学で」

『うん、またね』

 

 プツリ。

 望月さんに電話越しの別れの挨拶を告げ、スマホを耳から離す。何だったんだとは思わなくもないが、望月さんには望月さんなりの理由があるのだろう。無理矢理自身を納得させ、スマホを傍らに置いて寝転がり、天井をぼんやりと見詰めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恵太、恵太、恵太、恵太……。クソ、俺には恵太がいてくれないと駄目なんだ。待ってろ、今迎えに行くからな……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大学入ってからつまんないなぁ。よりによって、嫌いな光輝くんと同じ大学になっちゃったし。あーあ、けーたろうがいてくれたらなぁ。けーたろうが!いてくれたら!なぁ!もう!何で光輝くんは私の邪魔するんだよ!ふざけやがって!……こうなったら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そっか。あれだけ引き剥がしたのに、あの二人ってばまだ諦めてなかったんだ。また何か手を打たなきゃ」

 

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