ドチャクソに短いヤンデレ小話。

 平日の夜の事だった。

 自分の部屋での事だった。

 スマホをサッササッサと操作しながら一人の時間を満喫していると、ピロン。通知が来た。相手はクラスメイトの田邊(たなべ)さん。オレは通知を確認すると、途端に顔色が悪くなった。

 だってオレ、田邊さん嫌いだし。

 最初は(当たり前の事だが)別に嫌いだとかのマイナスな感情は抱いていなかった。ただの、人当たりの良い女子生徒くらいの印象しかなかった。教室の座席の隣同士、世間話を交わすくらいの仲でしかなかったのだ。

 だが、出会って数週間が経過した頃、田邊さんは次第に変わってきた。オレの私生活に口を出すようになってきたのだ。

 やれ、『お昼はお菓子じゃなくて、ちゃんと食事を摂った方が良いよ』だの。『授業中に眠ると成績下がっちゃうよ』だの。

 オレの勝手だろうがよ。何でお前が口出すんだよ。

 そう思った。

 ……まぁ、これだと、少し口うるさいだけのお節介にとどまる。お節介で済む。

 しかし、だ。

 田邊さんは単なるお節介ではとどまらなかったのだ。クラスメイトという関係ではとどまらなかったのだ。

 オレの交友関係に口を出し、私生活に苦言を呈す。〝お小言〟は校内にとどまらず、出会った当初に交換したラインで毎晩毎晩、『まだ起きてるの?』だの『ゲームはほどほどに』だとかの連絡を寄越してくる。常識外れの回数で文章を送ってくるクセに、返信を返さないと翌日にまたお小言を言ってくるのだから手に負えない。

 だから、今日のコレもいつもと同じ。アプリを開いて内容を見てみると、見透かしたような文章で『早く寝た方が良いよ』と書かれていた。既読を付けてしまった以上、田邊さん相手に返信しないという選択肢は無くなる。

 数秒思案してから、『今寝てた』と送る。

 ピロン。

 すぐさま返信。

 

『嘘つき』

 

 ……何を根拠に。

 根拠も無い田邊さんの言。しかし事実というこの現状に、オレは頬のヒクつきを抑えられなかった。

 ピロン。

 オレが文字を打つ前に、田邊さんから。

 

『何で嘘つくの?』

 

 オレからすれば、何で嘘だと分かった?と送り返してやりたい気分だが、それだと嘘を認めた事になり、明日の事を考えると下手な言葉は選べない──

 ピロン。

 

『私は、君の事を思って言ってるんだよ?』

 

 出た、いつものヤツ。何が〝君の事を思って〟だ。オレの事を思うなら──

 ピロン。

 

『君がキチンとした道を歩けるように、道を踏み外さないように、私が手を引いてるんだよ?何で嘘をつくの?』

 

 ピロン。

 

『この前だってそう。君は悪い人達とつるんで学校を早退して遊びに行こうとしていたよね。駄目だよそんなの。そんな事してたら、君まで落ちぶれちゃうよ』

 

 ピロン。

 

『初めて会った時から、君は何だか放っておけない、危なっかしい性格をしていたんだよ』

 

 ピロン。

 

『だから私は君の手を引いて、キチンとした高校生活を送らせてあげようと決意したの』

 

 ピロン。

 

『その方が君の為なのに』

 

 ピロン。

 

『なのに、何でそんな嘘ついちゃうの?』

 

 ピロン。

 

『今夜更かししたら、明日の朝起きるのが辛くなっちゃうんだよ?』

 

 ピロン。

 

『何とか言ってよ。スマホ見てるのは分かってるんだよ』

 

 ピロン。

 ピロン。

 ピロン。

 止まらない通知。鳴り止まない通知音。収まらない田邊さんの怒り。

 この通知の末が空恐ろしくなってきたオレは、現状を打開する為に(問題を明日に持ち越す為に)強引に一言返信した。

 

『分かった。これから先は次に会った時にじっくり話そう。ごめん。反省してる』

 

 呼吸を一回。それから、送信ボタンを押した。

 ピロン。

 返信は無かった。

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