私の日記。
九月二十九日。金曜日。晴れ。
今日も一日、平凡なものでした。ただ起きて、ただ歩いて、ただ授業を受けて。変わり映えしない、詰まらない日々。
ですが、帰りに寄ったコンビニで私の一日はほんの少しだけ変化を見せました。
切っ掛けは、コンビニに売っていた一冊のノート。
何の変哲も無いそれに何故惹かれたのかは分かりませんが、私はいつの間にかそのノートを購入していました。
買ったは良いのですが。
使い道がありませんでした。
いえ。
別に、私がどうしようもない不良生徒という訳ではありません。ただ単純に、現在使っているノートがまだ半分以上残っているというだけなのです。
だから、使い道が無い。
どうしたものでしょう、と衝動買いの恐ろしさをひしひしと感じていると、そうだ。日記をつけようと思い付いたのです。
惹かれたノートも有効的に活用出来るし、ここ数年──学校からの課題以外ではやった事もない日記もつけられる。
今日から日記をつける事にしました。
九月三十日。土曜日。晴れのち曇り。
今日は中学の頃の友達とお買い物に行きました。
私は読書が好きなので、この町で一番大きい本屋さんが入っているショッピングモールに行けたのはとても嬉しかったです。今回は仏和辞典とバドミントン〜入門編〜という本を買いました。
時たま、絶対に読まない本を買うのが好きです。
十月一日。日曜日。多分曇り。
目が覚めたら夕方でした。
書く事がないので、今日はここまで。
十月二日。月曜日。晴れ。
月曜日でした。
私のクラスは騒がしい人が多いので、休み時間はいつも憂鬱な気持ちになります。喉が潰れてしまえば良いのに、と思った事は一度や二度ではありません。
放課後は好きです。私は文芸部に所属しているのですが(部員は私しかいないので当然ですが)、部室は静かです。教室内とのギャップが素敵ですよね。
十月三日。火曜日。曇り。
曇りでした。
文芸部に天候はあまり関係無いのですが。それでも、ここまでどんよりとされると、テンションも上がりません。
原稿用紙も埋まらず、筆も進みませんでした。
晴れだったら……!晴れだったらもっと進みましたのに……!
十月四日。水曜日。曇り時々晴れ。
進みませんでした。
なんかもう、話も書けないのに日記をつらつらとつける自分に嫌気が指してきたので、今日はここまでにしようと思います。
明日からまた頑張ります!
十月五日。木曜日。曇り。
木曜日は好きです。
もう一週間も半分過ぎたのか、という達成感と、明日を乗り切れば休日!という感情が一度に味わえるので、木曜日は好きです。
クラス内に仲の良い友達がいたならば、休日を待ち遠しく感じる事もなかったと思うと、何だか複雑な気持ちになります。
十月六日。金曜日。曇り。
金曜日!
日記をつけているのは夜なので、今のテンションはハイです。
インターネット内を疲れるまでサーフィンで乗り回し、その後の睡眠にも制限が無くなる──そんな、金曜日の夜。
しかも、私は一人暮らしなのです。
それだけでも最高なのに「狭いアパートだとお前が不自由に感じるかも知れない」と、なんと親が一軒家を与えてくれたので、少しくらいなら騒いでも怒られません。
……まぁ。ひとしきり騒いだ後の、素に戻った時に感じる寂しさはどうしようもないのですが。
十月七日。土曜日。恐らく晴れ。
朝方までパソコンと見つめ合っていたのが災いし、目が覚めたら午後八時。
また同じ過ちを……。
十月八日。日曜日。きっと曇り。
土曜日の夜中に、前から観たかった映画が地上波でやっていました。
だから、その反動でまた夕方まで寝てしまったのは仕方の無い事なのです!
土曜日、日曜日の日中をただ眠って過ごしてしまったのも、仕方の無い事なのです!!
十月九日。月曜日。雨。
月曜日+雨ってもう救いようが無いですよね。
ただでさえ月曜日の登校は憂鬱なのに、それに加えて傘も差さなければいけないなんて……。
雨は教室内の騒がしさを僅かでも掻き消してくれるかと思いきや、不幸な事に今日は文化祭のクラス代表を決めなければならないらしく。
大変騒がしかったです。
私はじゃんけんに勝ったのでクラス代表になる事はありませんでしたが、じゃんけん一つであれだけ騒げる男子の阿呆さに、ある種の畏敬の念さえ覚えるのでした。
十月十日。火曜日。晴れ。
雨は止み、昨日よりかは通い易かった火曜日。水溜りに反射した景色を見て趣きを感じながらも、やはり登校時は憂鬱な気持ちになります。
授業中。ふと窓の外を見たら、グラウンドが水玉模様になっていました。
今日は顧問の先生が出張だったらしく、部室の鍵を借りる許可が降りなかったので、部活はお休みでした。
十月十一日。水曜日。曇りのち雨。
恋をしました。
切っ掛けは、最終下校時刻間近の昇降口。
朝は曇りだったので、傘を持たずに登校してしまいました。
それが災いし、部活を終えて帰る時には大粒の雨。
傘を差さずには帰れません。
どうしようと頭を悩ませていると、その人は私に声を掛けてきました。
「これ、貸してやる」
振り向くと、名も顔も知らない男子生徒が私に傘を差し出していました。しかし、見るからにその傘は彼自身が使う用に持ってきたもの。私に貸しては、彼が濡れてしまいます。「大丈夫です」と断ると、彼は熱い視線で私を見詰めながら「俺が貸したいんだ」と言ってきたのです。
言ってくれたのです。
そこから先はよく覚えていませんが、気付いた時にはびしょ濡れで自宅の玄関に立っていました。
雨で身体は冷えていても、赤い頬と高鳴る心はとても温かい。
私、恋をしました。
十月十二日。木曜日。曇り。
眠れませんでした。
その原因は、昨日出逢った彼。彼と交わした短い会話が何度も何度も脳内で繰り返し再生され、その度に私の目は冴えてしまい……。
でも、頭はとてもスッキリしていて、登校するのは苦じゃありませんでした。
多分、スッキリとかそんな理由じゃなくて、学校に行けば彼とまた会えるかも知れないって期待していたからだと思います。
けれど、学校で彼と再会する事は出来ませんでした。
会えなかったのではなく、私が彼から借りた傘を家に忘れてしまったからです。
これでは、何を理由に彼に話し掛けて良いか分かりません。
なので、今日は学校が終わったらすぐに家に帰る事にしました。
明日こそは、彼と会ってお話ししたいと思います。
十月十三日。金曜日。晴れ。
彼は、どうやら二年三組に所属する新田智志(にいださとし)という人らしいです。
彼、改め智志くんと同じクラスじゃなかった事を今更ながら恨んだりして、迎えた放課後。智志くんが文化祭のクラス代表だという事はもう調べがついているので、借りていた傘を持って向かった二年三組の教室。
そこで私は驚愕しました。
智志くんが、女の子と楽しそうにお喋りをしていたのですから。
声も出ませんでした。
声も掛けられませんでした。
この場には居たくない、と本能が私に訴えかけ、私は智志くんから借りっぱなしの傘を握り締めて、逃げ出してしまいました。
十月十四日。土曜日。曇り
智志くんに、彼女が居ない事が分かりました!
やった!これなら私にもチャンスはあるかも知れない!
……あれ。
なら、智志くんが楽しそうに話していた相手は何者?
何で智志くんと楽しそうに話してるの?
何で智志くんとそんなに距離が近いの?
何で智志くんも満更でもなさそうなの?
何で二人はそんなにも良い雰囲気なの?
十月十五日。日曜日。分からない。
あの女、許さない。たまたま文化祭のクラス代表で一緒になったくらいで智志くんに媚びを売って。智志くんは優しいからあの女にも普通に接しているけど、私は知っている。本当は、智志くんは迷惑がっている。
なのに、あの女はそれに気付かずにベラベラとどうでも良い事を智志くんに語り掛け、智志くんの時間を奪っていく。
なんて人なの。
どうしてくれようかしら。
十月十六日。月曜日。晴れ。
やってしまいました。
智志くんへの愛が抑えきれずに、ついやってしまいました。
日記をつけている私の机に並ぶのは、智志くんの私物。
智志くんから譲り受けた訳ではありません。
盗んでしまいました。
偶然にも今日は早起きしてしまい、誰よりも早く学校に到着しました。校内の施錠開錠を任されている事務員さん以外は誰もいない校内。
私の鞄の中には、偶然にも智志くんが使っている上履きや教科書と全く同じメーカーの新品の物が。
つい、すり替えてしまいました。
だけど後悔はしていません。
智志くんが履いていた上履きは美味しいし、智志くんが触れていた教科書は神々し過ぎて手袋とマスク無しには触れられない。
むしろ満足しています。
そんな、智志くんへの私の想いを手紙に起こしてみました。宛先は、智志くんが一人暮らしをしているアパートの住所。差出人は、私。
智志くんへの愛の言葉から始まり、智志くんの好きな所。私の事を知らない智志くんへの、簡単な私の自己紹介。それから将来の事について書き連ね。
気が付いたら手紙の枚数がニ桁に突入していて、ペンを動かす私の手にも限界が来ていました。
私の力作は何とか封筒に収める事が出来ました。
書いた手紙を直接智志くんの家のポストに届けに行っても良いのですが、万が一智志くんと鉢合わせてしまったら正常でいられるか自信がありません。
なので、郵便局の人に任せる事にしました。恐らく、智志くんの家に着くのは二、三日後。
楽しみです。
十月十七日。火曜日。曇り。
腱鞘炎なんて別に我慢出来たのですが、色々と準備をする為に学校を休みました。
本当は、智志くんと同じ空間で同じ空気を吸っていたかったです。
でも、これも智志くんの為。私は丸一日を準備に費やし、着々とその日を待つのでした。
十月十八日。水曜日。曇り。
智志くんは本当に格好良い。
寝惚け眼を擦りながら歩く姿も。
時折睡魔に負けてしまいながら授業を受ける姿も。
一人で黙々と昼食を摂る姿も。
一日の疲れに溜め息を吐きながら帰る姿も。
最高に格好良い。
なのに。
あの女が隣にいると台無しだ。
邪魔だ。
私は智志くんだけをこの瞳に映していたいのに、あの女は智志くんとの距離感が近いので、智志くんを見ていると否が応でも視界に入ってきてしまう。
でも、我慢。
あと少し頑張れば、そんな事は関係なくなるのですから。
十月十九日。木曜日。晴れ。
智志くんが私を選んでくれた。
智志くんがあの女を捨ててくれた。
良いんだよね?智志くん。
そういう事で良いんだよね??
私、もう我慢しないよ?
十月二十日。金曜日。雨。
きょうはとてもいいことがありました。
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