日記。
九月二十九日。金曜日。晴れ。
最寄りのコンビニで見付けた、このノート。デザインが割りと好きだったので買ってみたが、別に今はノートに困っていなかったので、思い付きで今日から日記を付けてみる。
日記なんぞ小学生の夏休みにしか付けた記憶が無いので、何を書いて良いのやら……。
まぁ、この日記を読むのも読み直すのも俺だけだ。正解は無いのだし、気軽に付けてみる事にしよう。
九月三十日。土曜日。晴れ。
日記をつけ始めて二日目。今日はどんな事を書いてやろうかと内心少し楽しみにしていたのだが、そう言えば俺は帰宅部だし友達いないし用事無いしでクソみたいな休日を送っていたので、特筆すべき事は何も無いのだと気が付いた。
と言う訳で、これからは土日と祝日は日記をつけない事にする。
十月二日。月曜日。晴れ。
月曜日だ。
世間からの好感度十パーセントを下回る月曜日様がやってきた。
高校生という身分である以上、学校には行かなければならない。受験の時はあんなに行きたがっていた高校も、今や忌むべき対象となってしまっている。
得意でも不得意でもない授業を受けて、飯を食って、授業を受けて、放課後。
休日の有り余った自由の時間よりも放課後から夕飯までな僅かな自由の時間が楽しく思えるのは、今日も一日学校を乗り切ったという達成感があるからかも知れない。
十月三日。火曜日。曇り。
今日も学校が面倒だった。天気がどんよりとしていたのも相まって、俺のテンションは地を這うが如し。
十月四日。水曜日。晴れ。
昨日に同じ。
十月五日。木曜日。曇り。
同じ。
十月六日。金曜日。曇り。
よっしゃあ!今週の学校終わり!
昨日一昨日と早くも日記に飽き始めていたが、今日からまた頑張るとしよう。
なんて言ったって金曜日。
明日からまた休日だ。
……と言っても、休日は休日で暇過ぎて時間を持て余すのだが。
十月九日。月曜日。雨。
最悪だ。
月曜日の上に雨。もう神様が「学校に行くな」と告げているかのような最悪の一日。
しかも、今日のLHRで文化祭のクラス代表を決めた。
俺が選ばれた。
クソが。
馬鹿が。
俺の運が悪いのは勿論の事、俺なんかと一緒に文化祭に向けてクラスを盛り上げなければならない女子も不運だ。
ドンマイ俺。そして、名も知らぬ女子。
十月十日。火曜日。晴れ。
昨日とは一転してよく晴れた今日。昨日の今日で文化祭への異常なやる気を見せた女子は、放課後に残って作業をする事を決めたようだ。
当然、文化祭クラス代表という肩書きがある以上そこに俺も呼ばれる訳で。
馬鹿みたいに晴れた放課後、太陽が徐々に赤くなっていくのを感じながら、女子と二人きりで作業をしなければならないのだった。
だが少しだけ良かったのは、女子が案外話し易い子で、気不味い雰囲気にはならなかった事だ。
野球部の誰々が肘を怪我した、とか。
クラスの誰と誰が付き合っている、とか。
あの先生はテストの採点が厳しい、とか。
悪くはなかった。
ちなみに、女子の名前は金井と言うらしい。
十月十一日。水曜日。雨。
今日も文化祭に向けての作業をした。昨日友好的な関係を築けたからか、あまり嫌ではなかった。
問題なのはその帰り。昇降口で靴を履き替えていたら、ポツンと一人で突っ立っている女子(金井じゃないよ)を見かけた。手には鞄しか握られていなかったので、傘を忘れたのだなと分かった。
そこで、俺は気が付いた。
傘を差さずにはいられない大降りの雨。
傘が無くて困っている女子に傘を貸してあげられたら、俺は、俺史上最高に格好良いんじゃないか──と。
そこからの行動は早かったね。
女子に声を掛け、傘を差し出す。
「大丈夫です」と断られたが、「俺が貸したいんだ」と自分の格好付けたい欲を隠さずに言うと、「あ、え、うぅ……」と言葉として意味を成さない何かを口から発して、走って逃げてしまったのだ。
雨の中を。
俺が貸した傘を差さずに、しかし傘は左手で握ったまま。
意味無いじゃんかよそれ。
格好は付けられたけど、それで風邪引かれたら困るぞ。
傘を貸してしまったので、俺も濡れながら帰らなければいけない。一人で済んだ犠牲が二人に増えたのだ。
ワイシャツが服に引っ付いて気持ち悪いし靴の中までビチョビチョになって苛々するしでその後は最悪だった。
十月十二日。木曜日。曇り。
雨は止んだが、いつまた降るのかと不安になる天気。
どうやら雨の中走って帰る所を金井に見られていたらしく、作業中、金井は終始楽しそうに俺をイジり倒していた。
文化祭まであと二週間を切った。俺と金井はクラス代表であっても実行委員ではないので、企画やら制作やら何やらはしなくて良いのだ。
俺達は生徒や外部の来場者に配るパンフレットと学校周辺に貼るポスターの制作。そして歩いてポスターを貼りに行く等の作業に追われている。
ダルい。
だが、文化祭が失敗して責められるのはご免だ。
やるしかないよなぁ……。
十月十三日。金曜日。晴れ。
誰もが待ち焦がれる、金曜日である。
天気も傘要らずの大変素晴らしいソレだったので、俺はご機嫌だった。
そう言えば、◯ムツ◯というアプリを始めた。ディ◯ニーはよく分からないのだが、ゲーム的には俺の好みだったので空き時間にちょくちょくやっている。
楽しい。
十月十六日。月曜日。晴れ。
新しくなっていた。
いや、マジで驚いた。
眠気を堪えながら歩いた通学路。いざ学校に着いて靴を履き替えようとしたら──上履きが新しくなっていたのだから。
一瞬、靴箱を他人のと間違えたのかと思った。だが、上履きにはキチンと俺の名前が書かれていたのだ。
おかしい。
何故だ。
何がどうなっているのかは全く理解出来ないが、その時の俺は「まぁ悪い事じゃないし」と然程気にせずに真新しい上履きに履き替えて教室に向かったのだ。
んで、教室。
また新しくなってやがった。
お次は、机の中に置きっ放しにしていた教科書が、一晩経つと折れや歪みも無い新品のソレに変わっていた。しかし名前の欄には以下略。
ノートは新品にするとこれまでの授業が分からなくなるから困る。そんな、新品の教科書を見た時の俺の思いはどうやら通じたらしく、ノートは以前の物と同じだった。
ここまで来ると、驚きよりも恐ろしさの方が勝(まさ)ってくる。
誰がやったのかは見当も付かないが、これからは警戒していくとしよう。
十月十七日。火曜日。曇り。
今日も、放課後は金井と残って文化祭の準備に勤しんだ。作業しながらの雑談も結構小慣れてきたのだが、そんな雑談の中で俺の記憶に残っているのが、
「文芸部の女子生徒が腱鞘炎で学校を休んでるらしいよ」
というモノだ。
マジかよ文芸部。腱鞘炎になるまで物書きをさせられているのか。……いや、そんな体育会系な文芸部は無いだろう。恐らくは、書きたくて書き続けた結果のソレだ。
女子生徒のソレは素直に尊敬物だが、それと同時に「阿呆かよ」とも思ってしまった。
十月十八日。水曜日。曇り。
何だ。
何なのだ。
どこに居ても視線を感じる。
いや、正確には、怖気を感じる──と言った方が正しいのか。
「あー、今感じているコレは誰かの視線だなー」とか俺は分からないのだから。
話を戻そう。
今朝玄関の扉を開けた瞬間から、帰宅して玄関の扉を開けるまで。
ずっと。
ずっと、怖気を感じていた。登校中も授業中も食事中も帰宅途中も、ずっとである。
天敵に狙われる小動物は、恐らくこんな感じなのではないだろうか。
怖気。
背筋が震え、周りを見渡すも原因は分からず。
天気や気温の所為かとも考えたが、すぐさま取り止め。気温は昨日と然程変わらないし、今日の天気だって今まで過ごしてきたのと同じだ。
なら、この怖気の原因は何なのか。
分からない。
分からないから、俺がこうして日記をつけている今も、手が震えるのだ。
十月十九日。木曜日。晴れ。
依然として続く、怖気。それは金井と話している時に一層強く感じた。
もしかしたら原因は金井かも知れない。
冗談抜きで。
思えば、俺の身の回りで異変が起き始めたのは金井と出会ってからだ。
俺の持ち物が新品に変わったり、怖気を感じたり。
俺は金井を疑っている。
だが、証拠は無い。
金井が俺に嫌がらせをする動機も無い。
単純に俺がムカつくから──とか、そんな理由だったら俺にはもうどうしようも無いのだが。
理由がそうでは無い事。引いては、犯人が金井ではない事を祈ろう。
十月二十日。金曜日。雨。
台風でも来たのではないかと錯覚する程に強かった雨。その為、放課後の作業も中止となり、真っ直ぐ家に帰ってきた今日。
ドアのポストに封筒が入っていた。
到着日は昨日。
どうやら、昨日の俺は気が付かなかったらしい。
無理も無い。誰からのモノかも分からない原因不明の怖気に襲われていたのだから。
そう言えば。
今日は怖気、感じなかったな。
俺の一生で恐らく、この瞬間にしか使わない一言だろう。
……もしかして、放課後の作業が無か
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