物騙り。
幼馴染に、彼女が出来たらしい。
お相手は、これまた幼馴染。
俺を入れて三人の幼馴染の内、二人が結ばれたという訳だ。
いやぁ、目出度(めでた)い。喜ばしい。
二人共、昔から色恋沙汰には興味が無いというような事を言っていたので、実は初めてその話を聞いた時はかなり驚いていたりする。
え、マジで?と。
まぁ、それだけだ。驚いた後の俺の表情は、笑顔。自分の事のように喜び、二人を祝福した。
そもそも、どちらも顔面偏差値が訳分からん位に高いのに、今まで惚れた腫れたの話が無かったのがまず可笑しいのだ。その可笑しさは、一時期同性にしか興味が無いのでは?という噂が立っていた程だ。
・・・実は、俺もお前の事好きだったんだぜ。
幼馴染(女)に照れ笑いながら告げる。そんな展開は無い。俺は素直に嬉しいし、二人の恋路を邪魔する気も無い。
俺は今日も、幼馴染(女)の惚気を聞かされるであった。
「それでね、彼ったらね──」
放課後の教室にて。幼馴染(彼)の幼馴染(彼女)である彼女から、惚気話を聞かされていた。
教室内に俺等二人以外の誰も居なくなってから早くも三十分。彼女の口からは止めどなく彼とのデートでの思い出話が流されている。よくもまぁ、こんなに長々と話せるモノだなぁと感心。相槌を打っているだけのこっちの方が喉が渇いてくる。
話中の幼馴染(男)──彼は、今は部活中だ。剣道部の主将を務めている彼は、個人での県大会出場を目指して日々鍛錬を重ねているらしい。イケメンでスポーツも出来るって(しかもアイツは勉強も得意なのだ)、The凡人な俺からしたら、彼はもう雲の上の人のような存在だ。
「この前、彼が出た大会を観に行ったんだけど、凄かったの。開始直後に相手に鋭い面を浴びせて一本。私シビれちゃった──」
とても嬉しそうに、彼女が語る。
思わず、よし俺も彼女作ろうと決意してしまうくらい、楽しそうに語る。
聞いているこちらまで笑みが零れる。
視線を彼女から窓の外へ。
教室の窓からは中庭しか見る事が出来ないが、俺はぼんやりと武道場で稽古に励む彼の姿を思い出していた。
「そうそう、昨日話した『彼の魅力TOP500』の栄えある第128位から先の話なんだけど──」
……まぁ。兎にも角にも、愛し合っているなら俺からは何も言うまい。
彼に対する彼女の愛が少しばかり過剰な気もするが、彼ならそれを笑って受け止めてくれているのだろう。
愛が多いに越した事は無いのだ(交際経験皆無である俺調べ)。
終いには相槌さえ打たなくなった俺を置いてけぼりに、彼女は一人で彼に対する愛を語っている。
もう帰って良いんじゃなかろうか。
黙って席を立つと「座れ」と一言。背筋を凍らせながら再着席。
帰宅は許可されないらしい。
「第128位『背が高い』──」
背が高いが128位って。
驚きだ。
女子って、男子の身長って結構気にするモノだと思っていたのだが。
彼女は彼の内外面に関わらず、彼の全てを愛しているという事だろうか。
うーん、純愛だ。よく分からんけど。
「窓から失礼する」
「まず、夜分遅くに這入ってきた事に断りを入れろ」
その日の夜。いつものように、当然のように彼が窓から侵入してきた。
幾ら幼馴染とは言え常識から懸け離れたその行動を『いつものように』と日常の一部のように言えてしまうくらいには、俺の神経は麻痺している。
窓に鍵を掛ければ済む話なのだが、以前そうしたら彼が竹刀を振り被って窓ガラスを叩き割ろうとしていたので、以来鍵は開けっ放しなのだ。
彼は軽い身のこなしで窓枠から音一つ立てず床に着地し、剣道部で鍛えられた美しい正座をしてから勝手に話し始める。
「いつも、俺の惚気話を聞いてくれてありがとう。感謝する」
「──はいはい」
小言の一つでも言ってやろうかと思ったのだが、彼の真っ直ぐなその姿勢を受けて、その気も失せてしまった。
「言うまでもなく、これは俺の彼女の話なのだが」
そう。
コイツ等──彼も彼女も、揃って俺に惚気話を聞かせてくるのだ。
まるで、二人で示し合わせているかのように。
彼女は放課後の教室。
彼は夜中の俺の部屋。
人に聞かせたがる気持ちも分からんでもないが、毎日欠かさずやられると流石に困ってしまう。知らない内に「……そう言えば、今日はアイツ等の惚気話聞いてないぞ」という感じに習慣付いてしまっていたらどうしてくれるんだ。
「行動一つ一つが愛らしくてな。『おはようございます!』とこちらに挨拶をする時なんかもう、悶え死にそうなくらいなのだ」
男前な彼が、緩み切った表情で惚気話を語る。
熱々だ。
二人がデートするのってもしかして、周囲からしたら一種の公害なのではなかろうか。
糖分の過剰摂取やらなんやらで誰かから訴えられなければ良いのだが。
まあ良いか。それも含めて愛だ(適当)。
「『彼女の魅力TOP500』の、栄えある296位なのだが——」
そう言えばお前も同じような事やってたな。
通じ合っていると言うか、なんと言うか……。
「……。おい、聞いているのか?」
「はいはい、聞いてるって」
まあ、二人が幸せならそれで良いだろう。
いつものように放課後の教室で幼馴染(女)の惚気話を聞かされて、やっとの事解放された午後六時。俺を置いてスタコラ帰ってしまった幼馴染(女)を恨みながら帰路を辿っていると、偶然にも(家が隣なので、時間帯が重なれば高確率で出会うのだが)幼馴染(男)と出会った。
……どうでも良いが、アホみたいに()使ってるな。俺。括弧悪(格好悪)い。
「おう」
「部活動に所属していないお前がこんな時間に帰宅とは、珍しいな」
「あー、確かに、今日は少し長かったな」
「長かった?」
「お前の彼女からの惚気話だよ」
彼が、一瞬固まった。
「な、何だと。俺の彼女と面識があるのか?」
「あるに決まってんだろ。幼稚園からの幼馴染じゃねぇか」
「……すまん。俺には、お前が何を言っているのか分からないのだが」
何故か、ピンとこない彼。それに違和感を感じながらも、俺は会話を続けた。
「冗談は止せって。お前等揃って、毎日俺に惚気話を聞かせてきているだろうが。アイツは放課後の教室で、お前は夜中の俺の部屋。そうだろ?」
「そんな筈は無い。俺の彼女は、剣道部のマネージャーだ。放課後はいつも、俺と一緒に武道場に居るぞ」
「……は?」
「第一、彼女はお前の顔を知らない」
「う、嘘付けよッ」
毎日会ってるだろ。
そう反論しようとした。しかし、彼からの追言で俺は言葉を失う事になる。
「俺の彼女は一年生──後輩だぞ?加えて、彼女は剣道部のマネージャーでお前は帰宅部。面識があるという方が可笑しいだろうに」
噛み合わない。
幼馴染(女)が後輩で剣道部のマネージャーだと?
頭が混乱しているのが自分でも分かる。
「何の事を言っているのかは知らんが、俺の交際相手は幼馴染じゃないからな」
決定的な一言を最後に、彼は先を歩き始めてしまう。
徐々に開いていく俺と彼との距離。
その距離にどうしようも無い──やりようの無い感情を覚えながら、俺の中に恐ろしい疑問が浮かび上がった。
じゃあ、
幼馴染は一体、
俺に何を語って(騙って)いたんだ?
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